アフィリエイト広告を利用しています

2012年06月11日

―子守唄 (Song to sing for you)―(中編@)(半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 月曜日。半分の月がのぼる空二次創作の日です。
 詳しく知りたい方は例の如くリンクのWikiへ。



半分の月がのぼる空〈下〉

中古価格
¥2,799から
(2012/6/11 18:29時点)


                            ―3―

 「ほら、あーん。」
 「ん。」
 皆にも覚えはないだろうか。風邪をひいて気が弱くなっている時など、妙に誰かに甘えるというか、頼りたい気分になった事は。
 どうやら、今の里香がそれらしい。
 最初の方こそ持ち前の気丈さで気を張っていた様だが、何かの拍子にたがが外れてしまった様だ。
 境目は多分、先にあった睡眠の時間。
 何か夢を見ていた様だが、それが原因だろうか。
 何て事を考えながら、僕はれんげでお粥をすくっては里香の口に運んでいた。
 「熱ッ、ちゃんと冷ましてよ!!バカ裕一!!」
 「あ、わ、悪ぃ!!」
 でもまぁ、こんな風に甘えられる事事態は悪い気はしない。
 何ていうか、この娘は僕のものだという実感というか、独占欲みたいなものが満たされて、妙な充足感がある。
 ・・・何か少し、危ない思考かもしれないが・・・。
 「ちょっと、バカみたいにお粥ばっかりよこさないでよ!!ちゃんとオカズも食べさせて!!」
 「・・・は、はい!!」
 ・・・いや、やっぱり僕がM気質なだけかもしれない・・・。

 「もう、いいのか。」
 「うん。」
 里香は鍋の3分の1ほどのお粥を食べて、箸を置いた(いや、箸持ってたのは僕の方だけど)。
 けどまぁ、カレイの煮付けも半分食べたし、良しとしよう。
 「食器、台所に片付けておいて。」
 「分かった。」
 言われたとおり、食器を片付けて戻って来ると、里香が布団の中で何かモジモジしている。
 ん?何だと思っていると、唐突にこんな事を言ってきた。
 「裕一、本が読みたい。」
 「え、あ、本か?どれだ?」
 「『失われた世界(ロスト・ワールド)』。」
 言われた題名を、本棚から探す。
 「何してんの?」
 「いや、だから本を・・・」
 「ある訳ないじゃない。持ってないんだから。」
 ・・・どういう事だ?
 「借りてきて。」
 「は、はぁ!?」
 「図書館に行って、借りて来てって言ってるの。」
 「いや、だってオレはお前の看病を・・・」
 里香が、布団の中からギロリと睨んでくる。
 う・・・この目は、まずい!!
 「何よ。病人の頼みを聞くのも看護人の役目でしょ?それとも、嫌だって言うの?」
 視線の剣呑さが増してくる。これ以上逆らったら、家から追い出されかねない。
 「わ、分かったよ!!」
 僕はそう言うと、重い腰を上げた。
 本の題名が書かれたメモ用紙を受け取りながら、里香の携帯を彼女の枕元に置く。
 「いいか、何かあったり、具合悪くなったりしたら、直ぐ連絡するんだぞ?」
 「うん。」
 「遠慮すんなよ。我慢するんじゃないぞ?」
 「うん。」
 「ホントにホントだぞ!?絶対に我ま・・・」
 「分かったってば!!早く行って!!」
 そんな声といっしょに、冷凍蜜柑が飛んできた。
 「いた!!いたた!!分かった!!分かったって!!」
 僕は慌てて部屋の外に出ると、「行ってくる!!」と言って戸を閉めた。
 「やれやれ・・・。」
 僕はぼやきながら、自分が携帯を持っている事をしっかりと確認して、家を出た。

 図書館は、里香の家から見れば僕らの通う高校よりは近い位置にある。
 つまりは、自転車で行けばさして時間のかかる距離ではないという事になる。
 それでも、図書館でご注文の本を探す時間なんかを考えれば、やはりそれ相応の時間はかかるだろう。
 少しでも早く戻れる様に、僕は足に力を込め、ペダルを踏む速さを上げた。
 景色がだんだんと、見覚えのある風景へと変わっていく。
 「・・・なんか、懐かしいな・・・。」
 回りの景色を眺めながら、僕は妙な感慨を覚えていた。
 里香と出会ってまだ間もない頃、僕は彼女の命令でこの道を病院から歩いて図書館に通った。
 病院と図書館の距離は、里香の家と比べれば近い。
 だけど、あの時僕は入院中。当然、今みたいに自転車なんてものはなく、僕は徒歩で図書館に向かった。凍てつくような冬の冷気の中で、その道程を酷く長く感じたものだ。
 ついでに言えば、その際に借りてくる本を間違えるなどという失態を犯し、もう一度図書館にリターンさせられるという憂き目にあっている。全く、病人相手に酷い話もあったものだ。
 もっとも、今となっては何もかも皆懐かしい記憶ではある。
 そういえばあの日、図書館との往復で晩飯を食べ損ねた僕のために、里香が食事を取っておいてくれたのだった。いつもはまずい病院の食事が、その時に限ってはひどく美味く感じた。あの時、息もつかずがっつく僕の頭を撫でる里香の手の感触を、今でも昨日の事の様に思い出せる・・・。
 と、そこまで考えて、僕はあっと声を上げた。
 「昼飯、食うの忘れてた・・・。」
 気付いた途端、空っぽの胃袋がぐぅと鳴った。
                              
                              
                            ―4―

 自転車のお陰で、思ったよりも早く帰ってくる事が出来た。
 肝心の本も、パソコン検索ですぐに見つけることが出来たし、全く文明の利器ってのは素晴らしいものだ。
 「ただいまー。」
 空腹も手伝って気が急いていた僕は、ろくに確認もせずに部屋の戸を開けた。
 途端―
 「―――!!」
 「―――!!」
 目に飛び込んできたのは、淡いピンクの下着と雪の様に真っ白い肌。
 ・・・里香が上着を脱ぎ、タオルで身体を拭いていた。
 「・・・・・・。」
 「・・・・・・。」
 里香はポカンとし、僕は目の前の光景に釘付けになった。
 一拍の間。
 そして―
 「――――――っ!!!」
 盛大に響き渡る悲鳴。
 それと同時に、機関銃の如く飛んでくる本や蜜柑やその他諸々。
 僕は再び額に太宰治全集のジャストミートを受け(やっぱり角)、その場に崩れ落ちた。

 「も、もう。ノックくらい、してよね。」
 着替えたパジャマを整えながら、里香は熱とは別の意味で顔を赤くしていた。
 「す・・・すいません。」
 額に出来たたんこぶを擦りながら、僕は平謝りに謝った。
 「ま・・・まぁ、いいわ。今度から気をつけてよね。」 
 数分後、やっと出たお許しの言葉に僕がほっとしていると、
 「それはそうと、“遅かった”わね。」
 里香がそんな事を言ってきた。
 「え?そ、そうか?」
 そう言って、僕は時計を見た。自転車のお陰で本を探す時間込みで数えても、時間は2時間くらいしかかかっていない。それなのに、「遅かった」と言うか。この女は。
 見れば、里香は憮然とする僕を見ながらニヤニヤと笑っている。
 その顔を見て、僕はふと思い至った。
 さっき、道中で僕が思い出した様に、彼女も“あの頃”の事を思い出しているのかもしれない。
 「本、あった?」
 やっぱり、“あの時”通りの言葉。
 なるほど。それならこちらも合わせよう。
 「あったよ。」
 僕も、“あの時”の言葉を繰り返しながら本を渡した。
 本を受け取った里香が、クスクスと笑う。
 つられて、僕もうはは、と笑った。
 もっとも、何もかも前回と同じという訳じゃないぞ。同じ愚を二度繰り返す程、僕は愚かじゃない。今回は、所望の本を間違いなく・・・
 「・・・何、これ?」
 ・・・へ?
 里香の言葉に、僕はキョトンとなる。
 何だ?何もそんな所まで再現しなくても・・・などと思いながら見ると、里香はジト目で僕を睨んでいた。
 「何、これ?」
 また言った。
 先と違って、声が明らかに不機嫌だ。
 な、何だ?何がまずかったんだ?
 「な、何って・・・頼まれてた本・・・」
 「何言ってんの!?」
 怒鳴られた。
 「これ、マイケル・クライトンの『ロスト・ワールド』じゃない!!」
 「え?だって『ロスト・ワールド』だろ?読みたいっていったの。」
 「これは『ジュラシック・パーク』の続編!!あたしが読みたいって言ったのはコナン・ドイルの『失われた世界(The Lost World)!!全然違うじゃない!!』
 え?ええ!?何だ、それ!?
 「そ・・・そんな事言われたって、同じ題名のがあるなんてお前・・・」
 「メモに作者名も書いてたでしょ!?」
 ・・・はい?
 慌ててメモを確認する。
 本当だ。ちゃんと『作者 コナン・ドイル』って書いてある。
 題名にばかり気をとられて、見落としていた。
 里香がはぁ、と大きな溜息をついた。
 「もう、全然成長してないじゃない。裕一のバカ。」
 ・・・返す言葉もありません。
 しかし、という事はこの後くるのは・・・
 「ちゃんと借りてきて!!」
 ですよね・・・。
 とりあえず、昼飯食ってからでいいか?なんて訊ける筈もなく、僕は空きっ腹を抱えたまま、もう一度図書館へ行く準備を始めた。
 だけど―
 「・・・と思ったけど、いいわ。」
 「へ?」
 意表をつかれた僕は、ポカンとして里香の顔を見た。
 「いいって言ってるの。今から行き直してたら、夕方になっちゃうじゃない。裕一、お昼も食べてないでしょ?」
 そう言って、里香は布団の中に潜り直した。
 「はぁ・・・。」
 拍子抜けした僕は、ただそう言うだけだった。
                                                
                                               続く
プロフィール
土斑猫(まだらねこ)さんの画像
土斑猫(まだらねこ)
プロフィール
<< 2024年10月 >>
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
カテゴリーアーカイブ
狙いはハジメ 古より響く闇の嘶き(学校の怪談・完結(作・ナオシーさん)(11)
説明(2)
ペット(401)
雑談(254)
テーマ(8)
番外記事(105)
連絡(50)
水仙月(半分の月がのぼる空・完結)(9)
輪舞(半分の月がのぼる空・完結)(5)
不如帰(半分の月がのぼる空・完結)(2)
郭公(半分の月がのぼる空・完結)(3)
ハッピー・バースディ(半分の月がのぼる空・完結)(3)
ハッピー・クッキング(半分の月がのぼる空・完結)(3)
子守唄(半分の月がのぼる空・完結)(4)
蛍煌(半分の月がのぼる空・完結)(9)
真夏の夜の悪夢(半分の月がのぼる空・完結)(3)
想占(半分の月がのぼる空・完結)(13)
霊使い達の宿題シリーズ(霊使い・完結)(48)
皐月雨(半分の月がのぼる空・その他・連載中)(17)
霊使い達の黄昏(霊使い・完結)(41)
霊使い・外伝シリーズ(霊使い・連載中)(14)
十三月の翼(天使のしっぽ・完結)(60)
霊使い達の旅路(霊使い・連載中)(9)
十三月の翼・外伝(天使のしっぽ・完結)(10)
虫歯奇譚・歯痛殿下(学校の怪談・完結)(3)
十二の天使と十二の悪魔 (天使のしっぽ・連載中)(1)
死を招く遊戯・黄昏のカードマスター(学校の怪談・完結)(5)
絆を紡ぐ想い・澎侯の霊樹とマヨイガの森(学校の怪談・完結)(13)
無限憎歌(学校の怪談・完結)(12)
レオ受難!!・鎮守の社のおとろし(学校の怪談・完結)(11)
漫画(13)
想い歌(半分の月がのぼる空・完結)(20)
コメントレス(7)
電子書籍(2)
R-18ss(3)
トニカク……!(1)
残暑(半分の月がのぼる空・連載中)(5)
Skeb依頼品(3)
最新記事
最新コメント
検索
ファン
リンク集
EI_vI91XS2skldb1437988459_1437989639.png
バナーなぞ作ってみました。ご自由にお使いください。
月別アーカイブ