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2012年06月18日

―子守唄 (Song to sing for you)―(中編A)(半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 月曜日。半分の月がのぼる空二次創作の日です。
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                           ―5―

 ―結局の所、里香は汗ばんだ身体が気持ち悪かったので、身体を拭いて着替える間、僕をどっかにやっときたかっただけらしい。
 ・・・そんなに信頼がないのか。僕は・・・。
 などと、凹んでる暇などなかった。
 何しろ、その後の里香は我侭のし放題だったのだから。
 やれ部屋の空気が悪いから入れ替えろだの、やれ喉が渇いたからジュース持って来いだの、薬が苦手な粉薬だから飲むの手伝えだの。
 正直、昼飯などいつ食べたのかも思い出せない。
 本当に、まるで“あの頃”がまんま戻ってきた様な忙しさだった。
 里香もそれなりに元気で、もう風邪などどこかに飛んで行ってしまったかの様に思えた。
 ・・・けど、それも夕方までの話だった。

 「う〜ん。7度8分、か・・・。」
 僕は手にした体温計の数値を読み、顔をしかめた。
 日が暮れるにつれ、里香が寒気をうったえ始めていた。
 それで熱を測ると案の定、昼間なりを潜めていた熱が再び上がり始めていた。
 「寒い・・・。」
 里香がそう言って、布団の中でもぞりと動く。
 「ちょっと待ってろ。」
 僕は押入れを開けると、中から新しい上掛けを一枚引っ張り出した。
 「人ん家の押入れ勝手に開けないでよ。エッチ。」
 「そんな事、言ってる場合じゃないだろ。」
 言いながら、上掛けを里香の布団の上に被せる。
 ケホ、ケホ
 里香が、か細いせきをする。
 「大丈夫か?」
 そう言いながら背をさすると、里香はコクンと頷いた。
 「寝ろよ。」
 里香の肩に布団を掛け直しながら、僕はそう言った。
 「風邪には寝るのが一番だぞ。」
 僕の言葉に頷きながら、だけど里香は目を閉じようとしない。
 「どうした?おばさんが帰って来るまでいてやるから、安心して寝ていいぞ」
 「ねえ、裕一。」
 「ん?」
 「何か、あの時と逆だね。」
 目を気だるそうに潤ませながら、里香がふふっと笑う。
 「あの時?」
 「ほら、二人で病院抜け出して、砲台山行った後。裕一、熱出したじゃない。」
 「ああ、あの時か?」
 「うん。あの時、裕一ったらフラフラなのに、病室抜け出してあたしの所に来たよね。」
 そう。そして里香に怒鳴られ、強引に彼女のベッドに寝かされたのだ。その時、里香は脇のパイプ椅子に座って僕を睨んでいた。
 確かに、今とは立場が逆かもしれない。もっとも、僕は里香を睨んだりしてないけど。
 「昼間ね、夢で見たの。」
 「え、ああ、あの寝ぼけた時か?」
 「うん。」
 昼間の様に恥ずかしがらず、里香は小さく頷いた。
 「でもね、本当は、もっと前から見てたの。」
 「前?」
 「うん。裕一と一緒に砲台に登って、裕一が倒れた時から。」
 「つ、つまんない事、夢に見るなよ。」
 全く、あの時はしまらなかった。格好つけて病人を連れ出しておいて、自分が倒れてちゃしょうがない。
 渋い顔をしている僕を見て、里香はまたフフッと笑う。
 「それでね、聞いたの。」
 「聞いたって、何を?」
 「あの、言葉。」
 「!!」
 里香の言葉の意味は、すぐに分かった。
 聞いた途端、顔が赤くなるのが分かる。
 それこそ、あの病室の中で、熱に浮かされながら交わした会話の時の様に。
 「ちゃんと、聞いたよ。」
 見れば、里香の顔もほんのりと染まっている。
 熱のせいだろうか。それとも、僕と同じ理由だろうか。
 「・・・嬉しかった。」
 え、と僕は聞き直した。
 「嬉しかった。また、聞けて。」
 熱で浮ついているせいだろうか。里香はいつもより饒舌だった。
 「目がさめても、どきどきしてた・・・。」
 三回目なのにね、と言って里香はクスクスと笑った。
 ああ、それでか。
 だからあの夢の後、里香はやたらと甘えてきたのか。
 何だか、嬉しいような、くすぐったい様な気持ちになって、僕は里香の髪をくしゃっと撫でた。
 あの図書館に通った夜、夕食を貪る僕に彼女がした様に、優しくクシャクシャと撫で続けた。
 ケホン
 里香がまた、咳をした。
 撫でる手に伝わる熱が、少し熱くなった様に感じる。
 また、熱が上がってきたのだろうか。
 少し、話しすぎたのかもしれない。
 僕は里香の髪から手を離すと、その肩に改めて布団を掛け直した。
 「いいから、もう寝ろ。」
 僕がそう言うと、里香はじっと僕の顔を見て、おもむろにこう言った。
 「子守唄、歌って。」
 「え?うぇえ!?」
 突然の提案に、僕は驚いた。焦った。
 「歌ってよ。子守歌。」
 そんな僕の反応を面白がる様に、里香は繰り返す。
 「いやいや、無理だから!!」
 「何で?」
 何でもかんでもない。僕は音痴なのだ。人に聞かせるものじゃない。
 「何でって、オレ、音痴なんだぞ!?」
 「いいから、歌ってよ。」
 「いやいや、無理だから!!」
 「歌って。」
 「無理!!」
 「歌え!!」
 とうとう、命令されてしまった。これ以上拒むと、本気で怒り出しかねない。
 それでまた、熱なぞ上がられても困る。僕は渋々頷いた。
 それを見た里香が、にっこりと笑う。
 「あのな、ホントに下手だからな。」
 「うん。」
 「笑うなよ?」
 「うん。」
 「絶対の絶対だぞ?」
 「分かったから。早く歌って!!」
 僕は溜息をつくと、声を出しやすい様にキチンと座り直した。
 里香が「わー♪」などと言いながら、パチパチと拍手をする。
 全く、人の気も知らないで・・・。
 いや、知っててやってるんだな。この女は・・・。
 拍手が終わるのを待って、大きく息を吸い込んだ。
 「♪ね〜んね〜ん、ころ〜り〜よ、おころ〜り〜よ♪」
 ・・・初っ端から音を外した。
 それを聞いた途端、里香がぷっと吹き出した。
 「あははは、裕一、ホントに下手。」
 こ・・・この女は・・・。
 「こら、だから笑うなって言ったろ!!歌うの、止めるぞ!?」
 「ごめんごめん。続けていいよ。」
 あからさまに笑うのをこらえながら、里香はそんな事を言う。
 「全く・・・。」
 僕は気を取り直して、続きを歌い出した。
 「♪里〜香〜は〜良い〜子〜だ〜ねんね〜し〜な♪」
 歌っていると、不意に手に温もりを感じた。
 見ると、里香が布団の中から手を出して、僕の手に乗せていた。
 いつもより少し高い体温が、肌を通して伝わってくる。
 僕は歌いながら、もう片方の手を、その里香の手にそっと乗せた。
 僕の体温が、里香の手を包む。
 里香は満足そうに微笑むと、そっと目を閉じた。
 そしてほどなく、小さな寝息をたて始める。
 僕はその小さな手を包んだまま、子守歌を歌い続けた。
 いつまでもいつまでも、歌い続けた。


                                                続く
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