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2012年06月04日

―子守唄 (Song to sing for you)―(前編)(半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 月曜日。半分の月がのぼる空二次創作の日です。
 大分前から弾尽き宣言していますが、今のところ装填が”何とか”間に合っていますwww
 さて、いつまでもつかこの自転車操業!!


 ではコメントレス。zaru-guさん、遅れてしまって申し訳ない。
 
 素敵なライナ絵アリガトウゴザマス!

 今、色付けてますんでもう少し待ってね。 

 さて、少しオリカ解説をさせていただくと、裏側モンスターは何でもいいので、☆4と組み合わせればエクシーズ召喚ができます。2つ目の効果は水霊術などでフィールド調整すれば発動しやすいかも。万が一生き残れば、次のターンも効果が発動できるので、うまくすれば毎ターン手札+1の永久機関という夢のようなカード!!……という夢を見たんだ。

 あー、なるほど。そういう夢も見れるか!!やっぱり、実戦離れてるとカードの使い方の発想が鈍るなぁ・・・。っていうか、エクシーズの存在素で忘れてた・・・。


半分の月がのぼる空〈上〉

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             ―子守唄 (Song to sing for you)―

                            ―1― 

 「裕一、何でいるの?」
 「え?だ、だって・・・」
 「今日、学校休みじゃないよね?」
 「そ・・・そりゃ、まぁ・・・。」
 「馬鹿じゃないの!?」
 「は・・・はぃ・・・」
 里香の怒声に、正座をした僕は、ただただ小さくなるばかりだった。

 ―里香が熱を出した。
 時は6月。梅雨の真っ只中。
 蒸し暑かったのが、雨が降ると急に冷え込んだりして、寒暖の差が激しかった。
 常々自分の身体には気をつけている筈の里香だったが、それでもこの落差が地味に応えたらしい。
 昨日、授業中に身体のだるさを覚えて保健室に行くと、7度5分の微熱があった。保健の先生に進められ、学校を早退して病院に行くと、とりあえずはただの風邪なので、家で大人しくしている様に言われたそうだ。
 夏風邪は馬鹿がひくものだと思っていたが、最近の風邪は人を選ばないのだろうか。
熱は次の日(つまり今日)になっても下がらず、里香は結局休む事になった。
 その話を僕が聞いたのは、今朝の事。
 家におばさん―里香の母親から電話があったのだ。
 昨日、早退した事は知っていたし、帰りに家にも寄って様子も見てきていた(結構、元気だったので安心した)。けれど、熱が二日越しで続いているとなると、いくら微熱とはいえ気にかかる。
 大丈夫だろうか。
 そんな事を考えながら、いつもの道を学校に向かって自転車を漕いでいた僕は、はたと思い当たった。
 今日は平日である。当然、おばさんも仕事がある。それも、昨日は里香を迎えに来るために仕事を早退したらしい。
 大人の世界は厳しい。
 一人に課せられる責任が重いぶん、僕ら学生の様に、そうそう簡単に早退や休みをとる訳にはいかない。
 おばさんだってそうである。いくら里香の事が心配でも、昨日の今日で仕事先が休みをとる事に良い顔をしてくれる可能性は低い。
 と、いう事は・・・
 その可能性に思い当たり、僕は自転車を急旋回させると里香の家に向かって走り出していた。
 何?学校はどうしたって?知るか、んなもん!!

 里香の家に着くと、案の定おばさんが出かけるところだった。
 おばさんは僕の顔を見ると、驚いた様に「学校は?」と問いかけてきた。
 当たり前だろう。
 僕が「いいんです。」と言うと、少し怒った様な、困った様な顔をした。それでも大汗をかいてゼェゼェ言っている僕を見ると、やがてしようがないと言った風な苦笑いを浮かべて、「よろしくね。」と言ってくれた。

 それで、話は冒頭に戻る訳だ。

 「裕一、留年してるんだよ!!」
 里香はまだ怒っていた。
 布団の上に身を起こして、僕の事を睨んでいる。
 着ているのは、淡いブルーのパジャマ。この姿を見るのは、退院して以来だ。何か、感慨深い。
 正座しながらそんな事を考えていたら、「話聞いてるの!?」とまた怒鳴られた。
 「は、はい!!」
 慌てて、姿勢を正す。
 「こんな事で無断欠席なんかして!!また留年なんてなったら、どうするつもり!?」
 ふむ、確かにそれは困る。里香と同級生になるのは良いが、今の年下連中に追い越された挙句、さらに下の連中と同学年になるというのは、精神的にかなりキツイものがある。
 「分かった!?」
 里香が言う。
 僕はただ、首を縦に振るばかり。
 「なら、今すぐ学校に行きなさい!!」
 しかし、僕は今度は首を縦ではなく、横に振った。。
 「分かってないじゃない!!」
 里香がまた怒鳴る。
 だけど、今度は僕も引かない。
 どっしりと腰を据えて、里香を睨み返す。
 そう。こればっかりは引く訳にはいかないのだ。
 しばし、里香との睨み合いが続く。
 そして、折れたのは里香の方だった。
 「・・・勝手にしたら。」
 大げさに溜息をつきながら、そんな事を言った。
 「おう、勝手にする。」
 僕は心の中で、ガシッとガッツポーズを決めた。


                             ―2― 

 「もう、裕一のせいで疲れちゃった・・・」
 里香がそんな風にブーたれた途端、
 ケホン、ケホン!!
 咳き込んだ。
 「お、おい!!大丈夫か!?」
 僕は慌てて里香の背中をさする。
 ケホッ、ケホン
 さする背中は、とても小さくて華奢だった。その背中が、咳き込む度に震える。
 その感覚に、僕は例え様もなく不安を感じた。
 「・・・も、だいじょぶ。ありがと・・・」
 里香はそう言うと、ハァ、と大きく息をついた。
 「いいから、寝てろよ。」
 僕が促すと、里香はそれに素直に従い、布団に横になった。
 仰向けになった里香の額に、そっと手を当てる。
 うっすらと汗ばんだ皮膚を通して、ほんのりとした熱感が伝わってくる。やはりまだ、熱があるのだ。
 僕が手を離そうとすると、急に里香が「離しちゃ駄目。」と言ってきた。
 「裕一の手、冷たくて気持ち良い・・・。」
 「・・・そうか?」
 僕は離そうとしていた手を、再び里香の額に押し当てた。
 その感触を愉しむ様に、里香が薄く目を閉じる。
 「ねぇ・・・裕一・・・。」
 「ん?何だ?」
 「駄目だからね・・・。」
 里香の言葉の意味が、僕には分からなかった。
 「何がだよ・・・?」
 「あたしの為だからって、全部捨てちゃ、駄目・・・」
 「・・・!!」
 「裕一は、裕一を大事にしなくちゃ、駄目・・・。」
 何か、鼻の奥がツーンとなった。里香を、この娘を、力いっぱい抱き締めたい衝動が、身体の芯から湧き上がってきた。
 その衝動を誤魔化す為に、僕は里香の頭をクシャクシャと撫でた。
 「何、馬鹿な心配してんだよ。いいから、黙って寝ろ。」
 返事はなかった。
 いつしか、里香はスヤスヤと寝息を立てていた。
 僕はしばしその寝顔を見つめた後、本棚から一冊の本を取って、布団の傍らに胡坐をかいた。

 里香が目を覚ましたのは、それから数時間後。もうじき、昼食の時間になろうかという頃合だった。
 「ん・・・」
 布団の中でもぞりと動いた里香が、薄っすらと目を開ける。
 「お、目、覚めたか?」
 僕が顔を覗き込むと、里香はぼんやりとした眼差しで、僕を見上げてきた。
 「あれ・・・裕一、また、抜け出してきたの・・・?」
 ん?何を言ってるんだ?
 「熱・・・あるんでしょ・・・ちゃんと、寝てなくちゃ・・・」
 熱があるのは、お前のほうだろ。
 「また、谷崎さんに怒られる・・・」
 そこまで言った所で、それまでぼんやりしていた里香の視線の焦点が、パシッと合った。
 「え・・・ここ・・・あ、そっか・・・!!」
 慌てた様にそう言うと、気まずそうな、恥ずかしそうな顔をする。
 その様子を見て、僕ははたと思い至った。
 「お前、ひょっとして寝ぼけてたのか?」
 熱でほてった顔が、ますます赤くなる。
 「なるほど。お前でも寝ぼけたりするんだ。そーかそーか。」
 鬼の首でも取った様に笑っていたら、
 「うるさい!!裕一のバカ!!」
 と、枕元にあった本を投げ付けられた。
 太宰治全集。
 やたらと分厚いそれが、僕の額にジャストミートする。
 ちなみに角。痛かった。

 「飯、どうするんだ?」
 僕が訊くと、里香は「ママがお粥作っておいてくれてるけど・・・」と言ったまま、何か渋い顔をしている。どうやら食欲がないらしい。
 「駄目だぞ。ちゃんと食わないと、良くならない。」
 僕がそう言うと、渋い顔のまま、コクンと頷いた。
 里香の部屋のある二階から降りて台所に行ってみると、なるほど、お粥の入った片手鍋がおいてあった。傍らには、カレイの煮付けと梅干し、冷凍蜜柑も置いてある。鍋の下には、紙が一枚。
 『ちゃんと食べる事!』
 と、おばさんの字で書いてあった。
 僕は鍋をコンロにかけると火をつけた。お粥が温まるあいだに、カレイの煮付けもレンジにかけて温める。
 やがて、温まった鍋がコトコトと音を立て出した。
 蓋を取ってみると、フワリと湯気が立つ。素朴で優しい、お粥の香りが鼻をくすぐった。おたまでかき回して、底の方まで温まっているのを確認すると僕は鍋を火から下ろした。
 同じ様に温まったカレイの煮付けや梅干しと一緒にお盆に乗せ、茶碗と箸とれんげをそえて二階に持っていった。
 「里香、準備出来たぞ。」
 そう言って部屋に入ると、里香は布団から顔を半分だけ出して、「ムー」と唸った。
 「ほらほら、んな顔してないで。ちゃんと食べる。」
 お粥の乗ったお盆を枕元に置いたが、肝心の里香が布団から出てこない。
 「どうした?起きろよ。」
 僕がそう言うと、里香が布団の中から手を伸ばしてきた。
 「ん?何だ?」
 「起こして。」
 ・・・は?何で?
 「お前、さっきは自分で起きてただろ?」
 「いいから、起こして!」
 「お、おぅ・・・。」
 差し出された手を取り、背に手を回して、僕は里香の上半身を起こしてやった。
 「ほら、これでいいだろ。」
 「うん。」
 僕は茶碗にお粥をよそうと、里香に差し出した。
 「ほら、食べろよ。」
 「・・・・・・。」
 だけど、里香は茶碗を手に取らない。
 「どうした?食べろってば。」
 「・・・て・・・」
 何かモゴモゴと言った。
 「・・・は?」
 「・・・せて・・・」
 何か顔が赤い。何だ、また熱でも上がってきたのだろうか。
 心配になった僕が額に手を当てようとすると、唐突に里香が大声を上げた。
 「食べさせて!!」
 「はぁ!?」
 突然の、それも思いがけない注文に、僕は唖然となった。


                                                続く
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