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2023年05月28日

西條八十「ぼくの帽子」を『コドモノクニ 名作選 秋〈Vol.4〉』で読む

西條八十の「ぼくの帽子」を『名作童謡 西條八十100選』で読みますと、現代仮名遣いとなっています。

また、『西條八十全集』第六巻で読みますと歴史的仮名遣いですが、漢字は旧字体ではありません。

発表当時の表記で読んでみたいと思っておりましたが、「ぼくの帽子」が発表された「コドモノクニ」の発行は、1922年(大正11年)2月1日であり、その「コドモノクニ」が手に入る見込みはなく、どうしたものかと思案していたところ、ネット検索をしますと、「コドモノクニ」の名作部分を復刻した書籍があったのですね。

早速、「ぼくの帽子」が収録されている『コドモノクニ 名作選 秋〈Vol.4〉』を購入し、読んでみましたが、発表当時のカラー紙面となっており、味わい深く読んだ次第です。

       ぼくの帽子 (詩)
             西 條 八 十 作
             伊  藤   孝 畫

――母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね?
  ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、
  谿底へ落したあの麥稈帽子ですよ。

――母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
  僕はあの時、ずゐぶんくやしかつた、
  だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。――

――母さん、あのとき、向から若い藥賣が來ましたつけね。
  紺の脚絆に手甲をした。―――
  そして拾はうとして、ずゐぶん骨折つてくれましたつけね。
  けれど、たうとう駄目だつた、
  なにしろ深い谿で、それに草が
  背たけぐらゐ伸びてゐたんですもの。

――母さん、ほんとにあの帽子、どうなつたでせう?
  あのとき傍に咲いてゐた、車百合の花は
  もうとうに、枯れちやつたでせうね。そして
  秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
  あの帽子の下で、每晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。

――母さん、そして、きつと今頃は、――今夜あたりは、
  あの谿間に、靜かに雪が降りつもつてゐるでせう、
  昔、つやつやひかつた、あの以太利麥の帽子と、
  その裏に僕が書いた
  Y・Sといふ頭文字を
  埋めるやうに、靜かに、寂しく。――

『コドモノクニ 名作選 秋〈Vol.4〉』「おはなしBOOK」80〜81頁

ただ、「咲」、「灰」、「雪」の旧字体は表記できませんでした。この点、ご了承ください。

「ぼくの帽子」の詩の上部には、伊藤孝の画があり、いかにも大正11年の風情が感じられます。上質な文化の香りが漂ってきます。大正時代の日本の文化レベルが高かったことが窺われます。

『西條八十全集』第六巻では、2カ所出てくる「ずいぶん」ですが、『コドモノクニ 名作選 秋〈Vol.4〉』では、「ずゐぶん」となっており、この部分について、『西條八十全集』第六巻は、歴史的仮名遣いになっていなかったようです。これも、『コドモノクニ 名作選 秋〈Vol.4〉』を確認したから分かったことであり、オリジナルを確認することは重要ですね。

『コドモノクニ 名作選 秋〈Vol.4〉』に特別寄稿されている歌人の俵万智氏は、以下のように述べていますが、全くその通りと首肯するばかりです。
「大人が本気だ!」。
それが「コドモノクニ」の復刻版を手にとったときの、第一印象だった。
(中略)
本気で子どもを相手にしている。それに加え、
それぞれのジャンルで一流の作家や画家が、ここを表現の場として真剣勝負している。
『コドモノクニ 名作選 秋〈Vol.4〉』「おはなしBOOK」6頁

大人が本気になり、真剣にならないと世の中は変らないということですね。子どもがどうのこうのと講釈を垂れる前に、大人が自らを律し、為すべきことに本気で、真剣に取り組めば、子どもはその大人の姿を見て、おちおちしていられないと感じることでしょう。

明治末期、大正時代、昭和一桁の時代まで、日本は順調に成長してきたといってよいでしょう。このままアメリカと戦争をせずにいたならば、相当、高い文化を誇っていたと思うのですね。

太平洋戦争にて、まずは、多くの人々が亡くなりました。まさに文化の担い手が少なくなってしまいました。また、空襲により、多くの文化財が燃えてしまいました。敗戦により経済的な打撃が大きく、昭和一桁の頃の日本に戻ったといえるのは昭和30年代でしょう。昭和10年頃から昭和30年頃までは失われた20年ともいえるでしょう。一旦、途切れてしまった文化の流れは、そう簡単に戻るわけではなく、「コドモノクニ」の復刻版が出たのは、約10年前であり、平成になってやっと大正、昭和一桁の文化を思い出すに至ったといえるでしょう。

いずれにしても、「ぼくの帽子」の発表当時の表記を確認し、挿絵までも確認し、豊かな文化に触れ得た気分です。このような秀逸な作品を時折確認しながら生活していくことが大切でしょうね。

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