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2011年12月30日

西條八十「ぼくの帽子」

西條八十の詩に「ぼくの帽子」という詩があります。

森村誠一の『人間の証明』に出てくる詩であり、『人間の証明』は角川映画で映画化もされましたのでご存知の方も多いと思います。

情感豊かな詩であり、イメージが湧いてきます。

いかにも自分がその場にいるような錯覚に陥ります。

そして、母子間の愛情も豊かに描かれています。

暖かみもありますが、切なさも感じさせます。

いい詩ですね。

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ぼくの帽子   西條 八十

母さん、僕のあの帽子どうしたでしょうね?
ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、
谿底へ落したあの麦稈帽子ですよ。

母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
僕はあの時、ずいぶんくやしかった、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。

母さん、あのとき、向から若い薬売が来ましたっけね。
紺の脚絆に手甲をした。
そして拾おうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
けれど、とうとう駄目だった、
なにしろ深い谿で、それに草が
背たけぐらい伸びていたんですもの。

母さん、ほんとにあの帽子、どうなったでしょう?
あのとき傍に咲いていた、車百合の花は
もうとうに、枯れちゃったでしょうね。そして
秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で、毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。

母さん、そして、きっと今頃は、 今夜あたりは、
あの谿間に、静かに雪が降りつもっているでしょう、
昔、つやつやひかった、あの以太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いた
Y・Sという頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく。

(『名作童謡 西條八十100選』上田信道編 春陽堂書店 117頁〜119頁) 

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この詩を読んでいくと、本人でもないにもかかわらず、帽子はどこへ行ったのだろうかと思いに耽ってしまいます。

一行目から引き込まれます。

その後、冷静な感じで帽子のことを説明しているところは、知性的な風情を感じさせます。

帽子をなくして悔しかったとの感情もあらわにしながら、帽子をなくしたのは風がいきなり吹いてきたせいであり、どうしようもなかったとしているところなど、諦観した雰囲気もあります。

帽子を探してくれた若い人のことに触れながら、やはり、帽子は見つからなかったと再び諦観の風情があらわれます。

どこかへ行ってしまった帽子と共に移り変わりゆく夏、秋、冬の季節を情感豊かに美しく述べます。

最後は、静かに、寂しく、との言葉で、それこそ、静かに、寂しくという感覚を読者に強く印象付けながら、この詩を締めくくっています。

何とも言えない風情、雰囲気、感覚がある不思議な詩です。

魅力的であると共に魅惑的ともいえましょう。

そして、美しい日本語です。

日本の中にはこの詩のように美しいものがたくさんありますので、ひとつひとつ見つけていきたいですね。

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