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2019年06月17日

「君にカノンを!」(第三話)

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2010年11月24日投稿。




※この話は最後まで続くかどうかわかりませんが続きものです
※第三話です、先に上げた「君にカノンを!」及び「君にカノンを!」(第一話)「君にカノンを!」(第二話)から読んで下さい
 後で記事へのリンク貼ります
  →リンク貼りました(11/25)
※趣旨を理解した上で、読みたい方だけどうぞ
※あと、最後実はちょっと続きます











「たんとう!」


じゃあ、それぞれ担当を決めようぜ!
それはまだ結成前のこと。
桜がかのんに言った言葉だった。
その表情がやけに嬉しそうだったのを覚えている。
つられて、無意識のうちにかのんの表情も和らいだ。
「えっとまずさ、俺、お前の声に惚れたんだ」
恥ずかしそうに言う桜がやけに可愛く見えたのを覚えている。
元々自分が何を担当するか予想がついているとは言え、何だかうきうきした心地なのはそれが一番の要因かもしれない。今になってかのんはそう考えている。
「じゃあ僕の担当は……、」
ボーカルだよね?
尋ねようか迷って桜の言葉を待つ。するとやっぱり恥ずかしそうにしたまま、桜は言った。
「だからお前は、可愛い系担当な!」
「ちょっと待ってそういう担当!?」


思えばこの時点で間違っていたのかもしれない。


「担当」


「っつうわけで、真面目に練習しようと思う」
桜が面倒臭そうに言った。
いやもうこの時点で真面目に練習する気ないよねさくらちゃん、というツッコミが声に出ないよう気をつけながらかのんは肩を竦めた。
なにはともあれ、練習出来るのはいいことだ。
特に自分は慣れないコルセットで歌うという酷な状況なため、練習しないとまともに歌えそうにないから助かった。
って、どっちにしろ初ライブに向けて練習するのは当たり前なのだけど。
「だがここで重大な問題が残る」
仰々しい調子で桜が続ける。
「始めにリズムを整えるドラム担当の風凪が今日バイトで欠席ということだ!ちくしょうこれじゃ曲が始まらねぇ!」
「いやおかしいでしょ!練習しようよ!最初にリズム合わせるのなんて誰でも出来るよ!」
っていうかそれ絶対練習サボる口実でしょ!と言いかけて、かのんの口が止まる。
そこまで言ってしまったら、後でどんな報復が待っているか分からない。
「リズムぐらい他の誰かがとればいいじゃん」
かのんが言うと、桜の眼光がかのんを射抜く。
ついびくっとして肩を揺らしたけれど、あれ?ちょっと待っておかしいこと何も言ってないよね?
だがそんなかのんにお構いなしなのが桜のクオリティだ。しっかりかのんを睨み付けたまま、桜は言う。
「おいかのん、俺達は最初に各々の担当を決めたよな?」
「う、うん」
桜の目付きに畏縮したじろぎながらかのんは頷く。
「それが何のためだか、お前、ちっとも理解してないみてぇだな」
「え、あ、そ、そうかな?」
びくびくしながらかのんが言ったその時、くわっ、いきなり桜が目を見開いた。
びくっ、かのんの肩が傍目から見ても大きく揺れたのが分かった。
可哀想に。
「担当を決めたのは各々を信頼してだろうが!だから容易く各々の領分を侵害しちゃいけねぇんだよ!」
それにだいたいな!
「俺はリズム感が全くねぇからドラムの拍に合わせねぇと調子狂うんだよ!っつうかそんな状態でわざわざ合わせの練習すんの面倒臭ぇんだよ!」
「って最後に本音出ちゃってるよさくらちゃん!」
がーん。
リーダーがそんな調子でどうするの?
かのんはくらくらしてその場にへたりこんだ。
ごめんなさい、結成数日にして既に挫けそうです。
かのんが泣きそうに心の中でそう言ったのと同時。横からやっとフォローの声が入る。雅子だ。
「痴話喧嘩乙でーす」
ってフォローの声っていうか悪口だった!
がーん。
「ち、痴話喧嘩じゃねぇよっ」
打ちのめされたかのんの横で、桜が顔を赤らめながら否定する。
ちょっと待ってそこ恥ずかしがるところじゃないから!絶対違うから!
かのんは再び打ちのめされた気分で、開いた口が塞がらなかった。
いや、確かに痴話喧嘩って言われて恥ずかしがってるさくらちゃんも可愛……、
「それを言うなら下僕いじめだろ!」
前言撤回!
その訂正酷いよ!っていうかいじめって自覚あるなら止めようよ!
いじめカッコ悪い!
かのんは心の中で流れるようにツッコミを入れる。
だが、声に出す勇気はないらしい。
はあぁ……、
かのんは本日何度目かになる溜め息を吐いて言った。
「ねぇ、お願い。練習しよう?リズムなら僕がとるからさ」
「かのん……、」
かのんの声があまりに苦しそうだったのにバツが悪くなったのか、桜は顔を逸らす。そしてぽつり、呟いた。
「悪ぃ。俺、つい調子乗っちまって……、」
「さくらちゃん……、」
ううん、いいんだよさくらちゃん、改心してくれたなら。
かのんが口を開きかけたその時、
「でもやっぱり人の領分を侵すのは気が引けるじゃねぇか。何よりお前は、」
ずいっ、
「可愛い系担当だろ!」
「ってせめてボーカル担当って言ってよぉー!」


悲痛な叫びのツッコミがズレていることに対して誰もツッコミを入れないまま、こうして時間が流れていった。
果たして、彼らは今日練習出来るのか?
次回、「君のために歌いたいのに!」乞うご期待!


続かない


第三話「担当」終わり











それぞれの担当が決まったのは、全員が初めて一緒に集まったその日だった。
元々、最初に桜と出会った瞬間からかのんはボーカル担当と決まっていたから、特に気張ることもなく。ただ初めて会う面子に心がうきうきしていた。
「ねぇさくらちゃん、どうやって他のメンバー集めたの?」
桜とかのんが待ち合わせ場所の喫茶店に着いた時、まだ誰も来ていないようなので、かのんは桜に尋ねた。
何を隠そう、メンバーを集めたのは桜なのだった。
「あー、一人は中学校からのダチでさ。後は……、」
「後は?」
何故か口ごもった桜に、かのんは首を傾げる。
「後は、その、何だ、アレだよ……」
「いや全然分からないよ」
かのんが言う。
「ねぇ、どうやって集めたのか知るぐらいいいじゃん。一緒にバンド組むメンバーなんだし、それぐらい知っておきたいよ」
うるうる。
瞳を潤ませながら言うかのんに観念したのか、はあぁ、溜め息を吐いてから桜は言った。
怒るなよ?と、前置きをつけて。
「出会い系サイト」
「はあぁああぁ!?」
かのんはつい大声を出す。
そしてここが公共の場だと思い出して、顔を真っ赤にしてから俯いた。
いや、でもその集め方はおかしくないか?
「ってか何で出会い系なんかやってんの!」
僕という存在がいて!
と、続けかけて、やっぱり止めておいた。
触らぬさくらちゃんに祟りなし、だ。
すると、桜はバツが悪そうに顔を背けて言った。
「だっ、誰も恋愛とかそういう相手求めるために出会い系してたわけじゃねぇし。手っ取り早くバンドメンバー探そうと思っただけだよっ」
でもそれにしてもさぁ。
かのんは何とも言えない気持ちになって、がっくり肩を落とした。
「そんなに僕って魅力ないのかなぁ……、」
「ちっ、違ぇよっ!」
そんなかのんを見て慌てて桜は訂正する。
「お前は十分魅力的だぞ?声も綺麗だし、何より俺好みな童顔じゃねぇか!」
「……、」
さくらちゃん、それフォローになってないよ……。
かのんは更に肩を落とした。
もう何だかさっきまでうきうきしていた自分が嘘に思えるほどだ。
うぅっ。
気まずい空気が流れる。
暫く二人はお互いに何か言うのも憚られ、何も言わないまま、顔も合わせず同じテーブルに座っていた。
と、その時。
「桜、お待たせ〜」
声がして振り向くと、そこにはごってごてのゴスロリ少女がいた。
「よぉ、雅子」
ホッとしたように桜が手を上げる。
そしてその後ろには、途中で雅子と会ったのだろう二人の男が、いつの間にか合流していた。
それを見て、桜は気を取り直して言った。
「よし!全員揃ったな!座ってくれ、まずは自己紹介だ」
まずはかのんから時計回りにな。
そう言って自分の順番を後回しにする辺り凶悪な何かを感じる、が、かのんはあえて何も言わないでおいた。
まぁ、言ったところで勝てないのは目に見えてるんだし。
「僕、松本かのんです。好きなものお菓子と歌うこと、こんな僕だけど、よろしくお願いします」
「よろしくー。桜からいろいろ話は聞いてるよ!で、私はふるかわみやこ!雅な子って書いてみやこ。まさこじゃないのよ!」
よろしくー。
かのんに続いてゴスロリ少女はからから笑いながら言った。
「俺は城崎奈月。ベース引けるぜ!」
続いて奈月。
「たぶん桜と一つ違いだから、ちょっとお兄さんかな」
はっはっは、笑いながら奈月は言う。
それを見て、かのんは少しホッとした。
悪い人ではないようだ、と。
続いて風凪。
「俺はかぜなぎ。かぜが名字でなぎが名前だ。でも合わせてかざなぎ、で、いい」
ぶっきらぼうに言う。
でも、この人も悪い人ではないだろう。第一印象はいい感じ。かのんは思った。
さて、次は桜なのだが……、
ばんっ!
いきなり桜が机を叩く。
どうやら皆の視線を集める効果を狙ったようだが、うん、そんなことしなくとも皆見てるから大丈夫だよ。かのんは思う。言わないけれど。
まぁそんなかのんの思いを知ってか知らずか、いや、知らないだろうが、何せ桜が口を開いた。
「俺は皆知ってのとおり、かなぎさくらだ!桜って呼んでくれ!」
ちなみに俺がリーダーだ!
そう付け加えて威張る。
そんな桜を見て、何だかんだで可愛らしいと思ってしまうかのんは、やっぱり盲目なのかもしれない。
「じゃあ、それぞれ担当を決めようぜ!」
桜がかのんの方を向いて言った。やけに嬉しそうに。
やっぱり自分の夢であるバンドが実現するかもしれない、それが嬉しいのかな。そう思うと何だか可愛らしい。
つられて、無意識のうちにかのんの表情も和らいだ。
「えっとまずさ、俺、お前の声に惚れたんだ」
恥ずかしそうに言う桜。
「じゃあ僕の担当は……、」
ボーカルだよね?
うきうきしながらかのんは桜の言葉を待つ。
と、
「だからお前は、可愛い系担当な!」
「ちょっと待ってそういう担当!?」
ついかのんはツッコミを入れる。が、聞いちゃいない。
「もちろん雅子は美人担当で、風凪は寡黙担当、奈月はチャラい系担当な!」
「って、チャラい系って何だよ」
奈月が呆れたように返して。
いやいやいやいや!そうじゃないでしょ!担当ってそういうんじゃないでしょ!
だが誰も何も言わない。異論はないらしい。
「で、俺が、」
かのんがあんぐりと口を開けているのを華麗にスルーしながら桜は続ける。
「カッコいい担当な!」
「しかも何気に一番いい担当取ってるし!」
っていうか可愛い系担当って何?え?何?
「っていうか僕男だよ?可愛い系って何!」
「だってお前可愛いだろ、カッコよくはねぇだろ」
一刀両断。
っていうか酷いよさくらちゃん……。
泣きそうになりながらかのんはめげずに続ける。
「そもそも担当って、誰がどのパートするってことじゃないの?」
「あー、そういう考え方もあるな」
って普通はこういう考え方しかないよ!
かのんは心の中でツッコミを入れた。
「まぁ、特技的にもうパートなんて別れてるもんだろ」
「そうだな、俺もベースしか出来ないし」
「私はピアノやってたからキーボード挑戦する〜」
「ドラム」
ほら、わざわざ確認するまでもないだろ。
桜は言う。
いやいやいや、でもだからって確認する担当が可愛い系とかそういうのはやっぱり間違ってるよ。
かのんは思う。が、言えない。
「で、俺がギターでお前がボーカル!だろ?」
ばしんっ、
桜が景気づけのためかかのんの背中を叩いた。
ってやけに痛かったんですが!
はあぁ、大丈夫かな……。
かのんは先が不安になって、溜め息を吐いた。
するとそんなかのんを見て、桜は笑いながら言った。とても、楽しそうに。
「大丈夫だって!俺がリーダーなんだ、上手くいくって!」
「だからそれが一番不安なんだけど!」


こうして、各人の担当が決まったのであった。


終わり






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