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2019年06月17日

「君にカノンを!」(第二話)

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2010年11月24日投稿。




※この話は最後まで続くかどうかわかりませんが続きものです
※第二話です、先に上げた「君にカノンを!」及び「君にカノンを!」(第一話)から読んで下さい
 後で記事へのリンク貼ります
  →リンク貼りました(11/25)
※趣旨を理解した上で、読みたい方だけどうぞ











「れんしゅう!」


俺はずっと、そんな声を求めていた。
透きとおるようなハスキーボイス、それでいて優しい響きを帯びていて、どこか落ち着く。
叫び、歌い、そして泣きそう表情で笑う。
それだけで十分だった。
きっと、二人の間に言葉なんて要らない。
俺はそう思った。
だから、あの時声を掛けたんだ。一生分の勇気を振り絞って。
「なぁ、俺とバンド組まないか?」
どきどきしていた。
いきなりだったし、断られるんじゃないかって、本当に不安だった。
だいたいこんなナリをしているから勘違いされやすいが、俺はそれなりに人見知りの激しい方で、初めてだろうが何度目かだろうが他人と話すのは苦手な質だ。
だけど、そんなの構ってられないぐらい、必死だった。
その声が欲しい。
俺の求めていた声。その声が俺の詩を歌ってくれたなら。どんなに、どんなに幸せだろうって。
いや、だから、絶対、俺はその声を手に入れるんだって。
最初、アイツはきょとんとした表情で目をぱちくりさせて。だから、完全に、無理かな、とは思った。
「悪い、俺……。お前の声が綺麗だったから、つい、その……、」
泣きそうだった、本当は。
帰ろう。
「ごめん、さっきのは忘れてくれ!」
俺は居たたまれなくなって踵を返した。
と、
「僕、僕も君と、君とバンドやってみたい!」
ドクンッ、
その言葉に、心臓が弾けた。
「だから、忘れてくれって言われても忘れてなんてあげない。ねぇ、いつか、」
僕と一緒にバンドやろう?
それは、俺の人生を決める、言葉だった。
「おうっ」
泣きそうな声で返したのを覚えてる。
そしたらアイツは、歌い終わった後のあの泣きそうな笑顔なんかじゃなくて、本当に、嬉しそうに頬を緩ませて。
ドクンッ
また、心臓が弾けた。
そうか、俺が欲しいのは、声だけじゃないんだ。
自覚してしまう。
そう、それが、
俺がアイツに堕ちた瞬間だった。


「練習」


「やぁっ、ダメっ、無理だよぉっ」
はぁ、はぁ、はぁ、
「苦しい、苦しいよさくらちゃん」
潤んだ瞳、瞼を閉じる度、いつか雫が落ちるんじゃないかとさえ思えるほど。
「何言ってんだよ。まだまだこれからだろ。ほら、もっと縛るから背中見せろ背中!」
「いやっ、あっ、ああぁっ!」
ぐうぅっ、過度な力で桜の手がそれを引く。
「いやぁっ、苦しいよさくらちゃぁん!」
がらっ、
「お前ら何やってんの?」
しーん……、
一瞬の沈黙、そして相手の顔を認知した瞬間、かのんの顔が一気に赤くなって。
「なつき君、見ないでぇー!」
「いや、初ライブに向けてかのんにゴスロリ着せる練習してんだよ!」
かのんが悲痛な叫びを上げたのと、嬉々として桜が答えたのがほぼ同時。
「えっと、つまり……、何やってんだ?」
奈月は再び尋ねる。
確かに、二人同時に言われても聞き取れない。
すると今度は桜が、嬉しそうに答える。もちろん指は、かのんが喋れないようにかのんの口に突っ込まれ舌を押さえた状態で、だ。
「コルセット!」
「……。あぁ、そっか、必要な練習だな」
「っふぇ、ひゃっひょひゅひはひへほはふひふぅーん!(って、納得しないでよなつきくーん!)」
奈月が桜に頷くのに即座にツッコミを入れるが、かのんの声が届くことは、というより、かのんの声が聞き届けられることは、なかった。
「っていうか何言ってるか全く分からん」
奈月がマジ顔で言った。
確かに!
それを受けてやっと桜の指が舌の拘束を解く。
「悪ぃ悪ぃ、何かついかのんの舌押さえつけたい衝動にかられちまってさ」
「何簡単にそんなこと言ってんのさくらちゃん!っていうかおかしいでしょ!何で折角防音の練習部屋借りたのにやってる練習が演奏じゃなくてコルセットなの!ねぇおかしいでしょ突っ込もうよ奈月君!」
かのんが必死に言う。が、かのんの声が聞き届けられることは、以下略。
「そういえば桜、初ライブ(予定)の会場についてなんだが、」
「ねぇちょっと無視しないでよぉ!」
「うっせぇ、黙れかのん!」
ばしんっ!
「ぎゃあっ」
恒例、桜による本日の平手打ちは、見事かのんの腰にヒットする。
慣れない、というか過度に締め付けられたコルセット越しに伝わる痛みに、バランスを崩してかのんはばたんっ、派手な音とともに倒れた。が、それを華麗にスルーして二人は話を始める。
酷い。これはいくらなんでも酷い。
かのんは泣きそうな表情で文字通り低姿勢から二人を睨みつけた、が、二人が気にするはずもなく。むしろかのんのことなど完全に視界に入っていないようで。
はぁ……、
かのんは深く溜め息を吐いた。
どこでどう道を間違ったのだろう。考えてみる。だが、残念ながら答えは出なかった。
いや、答えはすぐに出た。
そうだあの時あんな約束をしなければ。
かのんは再び、はぁああぁー、大仰に溜め息を吐いて、もういいやと諦め調子でその場にへたりこんだ。
訂正。既にへたりこんでいた。
そんな時、がちゃり、扉が開く音がして三人の視線が動く。
現れたのは、ゴスロリ服を大量に、といっても三着程度なのだが、なんせゴスロリ服を両手に持った雅子だった。
「おはよ〜!」
ぶんぶんと手と共にシックなふりふりスカートが揺れる。
かのんは嫌な予感がして、即座に立ち上がって逃げようとした。が、逃げ場がない。
だいたい嫌な予感の元凶は、唯一の脱出口である扉から現れたではないか。
「およよ?かのんちゃんどうしたの?あぁ、心配しなくても大丈夫だよ」
雅子はにっこり微笑んだ。
「ちゃんとかのんちゃんに着せたいのチョイスしてきたから!」
「ってそういう問題じゃなぁ〜い!」
だいたい着せたい服って何着せたい服って!それを言うならまだ似合いそうな服でしょ似合いそうな!
かのんは全力で心の中でツッコミを入れた。
この際彼の心の中でも既にゴスロリを着ることに対してもう抵抗もなくなって受け入れていることに関しては突っ込まない方がいいのだろう。
「じゃ、今から早速、」
「試着だな!」
「……、俺、ちょっと飲み物買ってくるし」
「って逃げないでよなつき君!」


かのんの受難はまだ、始まったばかりのようだった。


第二話「練習」終わり






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