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2019年06月17日

「君にカノンを!」(第一話)

「無意味な言葉が僕の翼になる」より。
2010年11月24日投稿。




※この話は続くかどうかわかりませんが続きものです
※第一話ですが先に数日前に上げた「君にカノンを!」を読んでもらえれば趣旨が伝わると思います
 後で記事へのリンク貼ります
  →リンク貼りました(11/25)
※趣旨を理解した上で、読みたい方だけどうぞ











「けっせい!」


かのん。
僕はこの名前が嫌いだった。
だいたいどうかしてるよ、男の名前にかのん、なんて。
「ごめんね、ごめんねかのんちゃん」
あの人は言う。僕がいじめられて帰った日はいつも。
ったく、誰のせいでいじめられてると思ってるの?
僕はたまにあの人の顔を殴りたくなるのだけど、そんなことできないからただ溜め息を吐く。
もう、どうでもいいよ、放っておいて。って。
慣れた、というのは少し違うけど、たぶんそれに似たところなんだろう。
小学校から中学校まで、もうずっと同じネタでいじめられ続けてきたんだ、仕方ないよ。
まぁ、中学校になったら童顔という要素も加わったんだけど。
ずっとそんな感じだったから、僕はどうにか変わりたくて、変わりたくて。そんな時に出会ったのが、あの、バンドだった。
忘れられない、エレキの音。
鼓膜が破けるんじゃないかってぐらい爽快で、聞いているだけで感情が高揚していくのが分かって。
ベース、ドラム、そして全てをまとめるように裂けるような掠れた声!
そしてあの衣装!
たった一度のあの出会いで、あぁ、僕もこうありたい、そう思わされるほど、彼らの存在は僕の中に強烈に焼きついた。
そして、そんな時に限ってチャンスは舞い降りてくる。
市で開催されるカラオケ大会。市民全員を対象としたカラオケ大会で、言ってしまえばいわゆるのど自慢だ。
僕は出ることにした。意を決して。
僕は変わるんだ!
その想いを胸に、今まで着たことのない服を買って、僕はそれに挑んだ。
変わりたい、その一心で。
まぁ、結果から言うと、惨敗だったわけだけど。
ただ、僕はその時気付いたんだ。本当に自分がしたいこと。
そして、出会ってしまったんだ。君に。
君の声、君の表情、君の服装。
君の全て!
僕は惹かれていた。
カッコいい。
そう思うと何故か胸が苦しくなって、身体中の熱が頬に集まったかのような錯覚にも陥って。
どうしようもないよ。
惹かれてたんだ。
でも、それは君も同じだろう?
だから約束したんだ。
きっと、いつか、二人で、
バンドを組もう、って。


その約束が後悔に変わるのにそう遠い時間は掛からなかったけど!


「結成」


「と、いうわけで、俺達は今から同じバンドの仲間だ!」
顔を輝かせて桜は言った。
集まったのは真っ黒でパンキッシュな服を着た計五人。彼らはどうやら、いわゆるビジュアル系のバンドを目指しているらしい。服装とそのメイクからそれが伺える。
集まった面々はそれなりに未来を夢見ているのだろう、表情も活き活きしていて、見ていて清々しい。
ただ、一人を除いて、は。
「ねぇ、さくらちゃん、どうして初ライブ(予定)の衣装、」
「何だよ、文句あんのかよかのん。」
ぎろりっ、桜の眼がかのんを射抜く。
それに一瞬、びくっ、大きく肩を震わせてから、恐る恐るだろう、かのんは口を開いた。
「えっと、初ライブ(予定)の衣装のことなんだけど、」
「あ、それは大丈夫だよかのんちゃん。私の服、貸すから」
雅子がにっこりと微笑んだ。
「あぁ、じゃあ僕がわざわざ買う必要はないんだね、ってそういう問題じゃないよ!」
ばしっ!
かのんは思いっきり初ライブ(予定)の計画書を地面に叩きつけた。
そして地団駄を踏む。
「ちょっと皆よく考えてよ!僕は男だよ!」
何で、何で……、
かのんはぎりりっ、歯を軋ませる。そして、声の限り叫んだ。
「何で記念すべき初ライブにゴスロリ着なきゃいけないんだよぉー!」
と、
ばしんっ、
叫んだかのんの頬に、桜の平手が飛んできた。
「俺が見たいからだ!」
えぇー!
そそそ、そんな理由で?
しかも相手は真顔だ。すごく真剣、そうな、表情だ。
かのんはくらくら目眩を感じ、数歩、後ろによろけながら下がった。
っていうか何でさっき叩かれたの?ねぇ何で?
かのんがもうどうすればいいのか分からなくなって口をあんぐり開けたままでいると、桜は首を横に振って、本当にかのんはしょうのない奴だ、とでも言いたそうな表情をする。
いやでもそれは僕の台詞だからね?
かのんは心の中で叫んだ。
また叩かれたくないから口にはしないけど。
と、再び桜は口を開いた。
「おいかのん、俺が本当に自分の欲望のためだけにお前にゴスロリ着せようとしてると思ってんのか?」
いやだってさっき自分でそう言ったじゃないか。
というツッコミは心の中にしまっておいて。
「俺は悲しい、悲しいぞかのん!」
「え、あ、うん、何かごめん」
言う桜の顔があまりにも悔しそうなので、かのんは謝る。
でもこれ別に謝る場面じゃなくね?
すぐにそう思い直したけれど、もう手遅れだった。
「俺は何も自分の欲望のためだけにこうしたわけじゃない!皆だって見たいだろう!かのんのゴスロリ姿!」
えぇー!
「見たい!」
ってええぇえぇ、即答ですか皆さん!
「というわけで、初ライブ、かのんにはゴスロリを着てもらう。以上!今日はこれにて解散!」
がーん、と驚愕した表情のかのんを尻目に、桜は解散の号令を出す。
すると、集まったそれぞれは「じゃ、また明日ー」なんて呑気な言葉を発しながら散り散りに別れていって。


「そんなのってないよぉー!」


叫んだかのんの声は、誰にも届かない。
否、
叫んだかのんの声は、皆の耳に届いてはいるが、その悲痛な想いが受け入れられることは、絶対に、ない。
だから、届かない。


こうして、ここに、金木桜をリーダーとする未来のビジュアル系バンド(予定)が誕生したのであった。


第一話「結成」終わり






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