大正時代の列車に乗って行く、ダム立入禁止場所見学の旅です。
富山県は黒部市、温泉で有名な宇奈月(うなづき)から山奥の欅平(けやきだいら)までを結ぶのが黒部峡谷鉄道。
トロッコ列車でゆられながらの秘境旅は、黒部峡谷の見どころを堪能できる人気の観光だ。
今回乗り込んだのは、この凸型の機関車が引っ張るトロッコ列車。
ED型といわれる昭和9年登場の機関車だ。
現在は更新された箱型のEDR型などが主力となる中、「黒部峡谷パノラマツアー」ではED型が今も利用されている。
パノラマツアーは、トロッコ電車終点の欅平駅からさらに奥へ進む旅。
竪坑エレベーターを使って上部へ移動し、トンネルや山道を歩き、標高860mのパノラマ展望台を迎える。
一般人は立ち入りが禁止されている、関西電力工事用区域内に立ち入れる、魅力のツアーだ。
これから向かう「出し平ダム(だしだいらだむ)」も、普段は立ち入りが禁止されている場所だけに、冒険心がかき立てられ、ワクワクが止まらない。
トロッコ電車の旅客車は何種類もあり、大正12年製造の古い歴史を誇るのが、この「ハ型」といわれるもの。
元々は貨車として製造され、のちに改造で屋根や座席が取り付けられた車両だ。
人が乗ることを想定していない作りのため、身体に伝わる振動が激しく、乗り心地が非常に悪い。
昭和初期の機関車に大正時代の旅客車。
レトロな列車での旅は、長い時を経て開発された、黒部峡谷の歴史を思い起こさせる。
関係者専用列車に乗って出し平ダムに到着。
ゲート上の丸い屋根が特徴的な、重力式コンクリートダムが、立派にたたずむ。
出し平ダムは、日本で初めて排砂(はいさ)ゲートを設置したダムだ。
排砂とは、ダム湖の底に溜まった土砂を排出する作業を指す。
土砂の多い黒部川においては必要不可欠な作業であり、下流の宇奈月ダムと連携して排砂している。
ダムの機能低下を防ぐ目的のほか、河川において自然に近い土砂の流れを作り、海岸線の後退を防ぐ役割も担っている。
江戸時代から現在まで、黒部川扇状地である下新川地区では、海岸線が120〜250mも後退したと言われている。
海岸侵食を防ぐために、課題とされているのが河川から海岸へ流れる土砂の確保。
海岸の侵食と堆積のバランスを保つため、ダム建設に排砂設備はなくてはならないものなのだ。
放出方向に向かって右下の排砂ゲートを、上から望む。
排砂ゲートは、堤体のかなり下の方に位置しているのがわかる。
排砂作業時は、貯水池の水位を下げ、自然に近い川の流れを作ってあげる。
ゲートが下方に位置しているのはそのためだ。
年数回程度、洪水時に行われる排砂作業では、左右両側の排砂ゲートから勢いよく土砂が流れ出る。
土砂は本来の川の流れに戻り、長い旅路を経て海岸にたどり着く。
堆積する土砂は、波により侵食された土砂を補い、既定の海岸線を保つのだ。
あまりによくできた自然摂理の偉大さに、思わず感嘆の声がもれる。
黒部の開発を象徴するトロッコ電車とダム。
自然開発において、自然との対話は、我々人類にとって願われる永遠の課題なのかもしれない。
改稿・編集 HT
詳しくは以下のリンクを参照してください。
黒部峡谷鉄道 https://www.kurotetu.co.jp
自然との共存を目指した「ダム排砂」(宇奈月ダム) - ダム便覧
http://damnet.or.jp/cgi-bin/binranB/TPage.cgi?id=67
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