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2022年07月19日

元玉切り

 間伐作業は込み入った林内で行うことが多いため、伐倒しても、倒した木が地面に落ちず、他の木によりかかった状態になることがよくあります。これを「かかり木」といいます(下図参照)。

6 かかり木.png

 かかり木になった場合、林業の教科書ではフェリングレバーチルホールといった器具を用いて外すよう書かれていますが、私はよく「元玉切り」をして外しています。元玉切りは、かかっている木の幹を切り落とすことで、かかり木を外す方法です(下図参照)。

ojskod.png

 元玉切りは危険なため、林業の教科書では禁止事項として挙げられているかかり木処理方法のうちの1つとなっています。では、なぜ元玉切りをするのかというと、極端な例え話になりますが、山奥の切り捨て間伐現場でチルホールを持ち歩きながら作業をし、かかり木になるたびにチルホールをセットしては外してを繰り返していると、とてもではないですが作業が進まない(赤字になる)し、重いチルホール一式を持ち運ぶだけで疲れてしまいます。
 とはいえ、元玉切りは禁止事項であるため、ここでは元玉切りをしても危険ではない程度の小径木であることを前提に話を進めます。そして、元玉切りが危険だと判断した場合は、無理せずテープ等でかかり木があることが分かるように表示をするか、器具等を用いた適切な方法で処理しましょう。

 元玉切りの具体的なやり方について説明する前に、まず「片持ち材」と「両持ち材」の切り方について説明します。

8 片持ち材・両持ち材.png

 上図のように、片持ち材は丸太の端っこを切る際の状態で、両持ち材は丸太が橋のようにかかっており、その真ん中を切る際の状態です。
 片持ち材の場合、上図のように下から切り込みを少し(直径の1/3〜1/5程度)入れた後、上から切り落とします。何も考えず上から一刀両断したくなりますが、切れかかった材が地面に落ちると、バーが挟まれる場合があります(下図参照)。とはいえ、基本的に片持ち材は太い丸太でない限り、上から勢いよく切れば、バーを挟まれることなく切り落とせます。

9 片持ち材・挟まれ.png

 両持ち材の場合、先ほどの図のように、上から切り込みを、直径の1/3〜1/4程度入れた後、下から切り上げ、切断します。上から一気に切り落とそうとすると、圧縮力が働き、高確率でバーが挟まれます(下図参照)。

loi.png

 太い丸太の場合、圧縮力が大きくなり、バーが挟まれやすくなるため、圧縮力をより逃がすために、上からの切り込みをVの字に入れておくのが無難です(下図参照)。

11 Vの字カット.png

 片持ち材、両持ち材の切り方について理解したところで、いよいよ元玉切りに入るのですが、根元部分が地面に付いたかかり木(すっとん切りをして地面に落とした際のかかり木)は、基本的に両持ち材と同じ状態です。よって、上から切り込み(木が太い場合はVの字の切り込み)を少し(直径の1/4程度)入れ、下から切り上げます。下から切り上げるので、この方法を「切り上げ法」と呼ぶことにします。
 下から切り上げる際、上からの切り込みと合致する手前くらいで、木が自重で割れ、沈み込んできます。この沈み込みを感じたら、すぐにバーを抜きます。バーを抜くのが遅れると、切れかけの木にバーが挟まれ、退避が遅れて危険です。2つに割れた(切れた)木が、自分の方に転がりかからないような、安全な状態(例えば、水平で低い位置にある両持ち材)であれば、最後まで切り上げても良いのですが、そうでなければ、完全に切れる前に退避することが大事です。
 切り上げ法でかかり木が外れればいいのですが、たいていは外れず、先ほどより真っすぐ立った状態になります(下図参照)。

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【切り上げ法】

 上図の右側のように、ほぼ真っすぐ立った状態になれば、倒したい方向の側(受け口側)に、直径の1/4程度の切り込みを入れた後、反対側(追い口側)からも切り込みを入れていきます。この際、受け口側の切り込みと合致する手前まで切り進め、バーを抜きます。そして、受け口側から木を手で押すと、ツルが「バチッ」とちぎれて地面に落ちます(下図参照)。最後に手で押すので、この方法を「プッシュ法」と呼ぶことにします。プッシュ法の原理は、切り上げ法(両持ち材)と同じですが、木が垂直に近い状態だと自重では割れないので、手で押して割ってあげるイメージです。

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【プッシュ法】

 ただ、上記の手順だと、追い口側の切り込みを深く入れすぎてしまい、受け口側の切り込みと合致し、木が切断され、バーが挟まれることがあります。そのような事態を防ぐために、通常作業で私や先輩は、切り込みを入れる順番を逆にします(追い口側から切り込みを入れます)。その際、受け口側(2番目)の切り込みは、追い口側の切り込みから若干上にずらした位置に入れ、バーを軽く当てる程度(直径の1/4もいらない)で充分です(下図参照)。

260 プッシュ法(3)aaa.png
【プッシュ法(追い口側から切り込みを入れた場合)】

 プッシュ法をする際、木が太い場合は、押す(倒す)時にかなり力を要します。その際、受け口側の切り込みをV字型にすると、押す時に倒れやすいのですが、他にもメリットがあります。それは木の重心により倒れる方向が若干ずれるので、V字型の切り込みを作った方が、より確実に狙った方向に倒せるという点です(下図参照)。

ttt.png

一概にかかり木といっても、木が地面に付きそうなくらい寝た状態から、木が真っすぐ立った状態まで、様々あります。なるべく早く地面に落とす(木を横に寝かす)ことを最終目標とし、基本的には切り上げ法を繰り返しながら、かかった角度を垂直に近づけていき、最後にプッシュ法で倒す流れになります。

 間伐は山の斜面で行うことが多いですが、斜面でプッシュ法をする際、斜面上方向(倒れた木の樹冠が上を向く方向)が最も倒しやすい方向になります。なぜなら、重力の関係上、あまり力がいらない(少し押せば倒れる)からです。人によって違うかもしれませんが、私は斜面の下側から上側に向けて枝払い・玉切りするのがやりやすいこともあり、上方向に倒すことが多いです。逆に、斜面下方向(倒れた木の樹冠が下を向く方向)に倒すのは、かなり力がいるため、木が太い場合は不可能です(下図参照)。
 
16 斜面でのプッシュ法.png

 ここで、プッシュ法の例外的な特性があるのですが、斜面上方向にかかっている木を上方向(倒れた木の樹冠が上を向く方向)に倒す場合、かかった木がある程度斜めに寝た状態でも(垂直に近い状態ではなくても)、プッシュ法で通常と同じくらいの力で倒せます。また、斜めに寝た状態のかかり木の方が、手で押した際に「ポ〜ン」と遠くによく飛び、倒れる確率も高いです(下図参照)。むしろ通常の手順(切り上げ法で木を垂直にした後にプッシュ法)の方が手間です。プッシュ法の例外的な特性として、覚えておくと良いと思います。

rty.png
【斜めに寝た状態のかかり木でもプッシュ法が可能な場合】

 先程も少し触れましたが、プッシュ法で追い口側の切り込みを入れる際に、切りすぎると、受け口側の切り込みと合致し、木が切断され、バーが挟まれることがあります。そのような時の対処法は主に3つあります。
 1つ目は、片手で木を押して隙間を作り、その間にバー(チェーンソー)を引き抜きます(下図参照)。

15 バーが挟まれる(2).png
【バーが挟まれた際の対処法@】

 2つ目は、チェーンソーを時計回りにコネコネ回転させながら、引き抜きます(下図参照)。

261 バーが挟まれる(4).png
【バーが挟まれた際の対処法A】

 3つ目は、クサビを打って隙間を作り、バー(チェーンソー)を引き抜きます(下図参照)。

262 バーが挟まれる(5).png
【バーが挟まれた際の対処法B】

 上記3つの対処法でもうまくいかず、また危険だと判断した場合は、無理せず同僚を呼んで対応しましょう(一人がチェーンソーを抜いて、もう一人が積み木を崩す、または挟まった位置の上を切る等)。

 その他、プッシュ法の注意点として、手で押して「ポ〜ン」と飛んだかかり木の根元部分が、周囲の立木に当たり、立木を傷つける恐れがあります(下図参照)。よって、倒す方向を決める際は、かかり木の樹冠が立木と立木の間に落ちる方向を確認するだけでなく、根元部分が飛んだ方向に立木が無いかも考慮する必要があります。

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【飛んだかかり木の根元部分が、周囲の立木にぶつかる】

 すっとん切りをした際、切った木がツノ(切株)にかかっているのか、立木にかかっているのか、分からない場合があります(下図参照)。

95 ツノにかかる.png

 この場合、まずかかり木を手で押して、ツノから外します。これで外れれば、立木にかかった状態となり、通常の元玉切りを行います。もし外れない場合も、元玉切りを行うのですが、不安定にかかった状態であるため、下手に切るとバーを挟まれる恐れがあります。そこで、このような場合は、かかり木を上から慎重に切り進めていきます。もし、沈み込みを感じたら、両持ち材の状態であるため、速やかにバーを抜き、下から切り上げます。逆に、上から半分以上切っても、沈み込みが無かった場合は、片持ち材の状態であるため、9割程度切った所でいったんバーを抜き、切断面の状態を確認しながら、上または下からバーを挟まれないよう慎重に切り離します(下図参照)。

96 ツノかかり時の処理.png

 今まで説明した元玉切りの方法は、すっとん切り等をして、かかり木の根元部分が地面に付いた状態での処理方法になりますが、「受け口を作る切り方」でかかり木になった場合は、切断面が完全に切り離されていない(ツルが残っている)ため、処理方法が異なってきます(下図参照)。

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 ツルが残っている状態で、通常の元玉切り(切り上げ法)を行うと、下から切り上げる際、沈み込みが途中で止まり、バーが挟まれる恐れがあります(下図参照)。上からの切り込みをV字型にしても結果は同じです。

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 そこで、そういう場合は上からバーが挟まれそうになるまで慎重に切り進めていき、挟み込みを感じたら「サッ」とバーを抜いた後、下から切り上げます。下からの切り上げが、上からの切り込みと一致した瞬間に、「スパッ」と2つに切れます。その後、くっついたままになった元玉部分(残っているツル)を切り離します(下図参照)。切り上げ法は上からの切り込みを直径の1/4程度で止めますが、この方法は上からの切り込みをそれ以上に大きくする必要があるということが、重要なポイントです。

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 伐倒木がほぼ寝た状態でかかった場合は、残っているツルを上から切り離すことで、通常の両持ち材の状態にする方が、手っ取り早いです。ただし、バーが挟まれやすいので、慎重に行う必要があります(下図参照)。

100 受け口作成時のかかり木処理(2).png

 「すっとん切り」の記事でも少し触れましたが、急斜面では基本的にはすっとん切りはせず、受け口を作る切り方をした方が良いです。なぜなら、急斜面ですっとん切りをした場合、伐倒木が他の木にかからずに一気に倒れ、退避する間もなく伐倒者を直撃する恐れがあること、そして例えかかり木になったとしても、元玉切りをした際、斜面が急であるが故に退避が遅れたり、木が思わぬ方向(伐倒者の方向)へ倒れやすかったりするからです。
 急斜面で伐倒する場合の具体的なやり方として、木がかかることを前提に、受け口を作る切り方をします。その際、なるべき木が角度をつけて倒れる(寝た状態になる)よう努めます。そして、くっついたままになった元玉部分(残っているツル)を切り離し、切り上げ法を何回か繰り返した後、木が垂直に近づいたところでプッシュ法で倒します。
 なぜこのやり方(順序)が良いのかというと、切り上げ法はプッシュ法よりも木が伐倒者の方向へ倒れにくい(特に木が寝た状態であればあるほど)ため、切り上げ法を何回か繰り返すことで、木をどんどん小さくし、最後にプッシュ法で倒す際に、最悪伐倒者の方向に木が倒れても、木が小さくなっているが故に、大きな怪我をするリスクが低いためです。

 以上で、元玉切りの具体的なやり方に関する説明を終わります。
 繰り返しになりますが、元玉切りは禁止事項のため、具体的なやり方が林業の教科書には載っていません。それにもかかわらず、実際の現場では、当たり前のように行われているのが現状です。教科書に載っていないが故に、私は現場で先輩に教えてもらったり、何度もバーを挟まれたり、危ない思いをしたりすることで、元玉切りのやり方を会得してきましたが、教科書的なものがあれば、より安全かつ効率的に作業することができたと思い、今回、この記事を書かせていただきました。
 私は林業経験が浅く、より良いやり方を求めて試行錯誤の段階であり、今回私が説明したやり方がベストなものであるかどうか、正直分かりません。一方で、林業に従事されている方にとっては、当たり前なことが書かれてあるだけだったかもしれません。ともあれ、1つのやり方として、参考にしていただけたら幸いです。




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