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2021年02月13日

田山花袋「蒲団」本文1〜3/全58


(^_-)-☆アスカミチル
オッス光るハート
本文を直接
貼るよん〜〜〜。

読書スタート。
お銚子&杯マティーニ(カクテルグラス)マグカップカップ日本茶ラーメン食パンたこくコ:彡



★「蒲団」1〜3・・・http://14highschool.jugem.jp/?eid=2532
文学評論家、福田恆存(ふくだつねのり)解説

「かれ(田山花袋)の文学が今日われわれに何を教えうるか。
(田山花袋の)文学青年らしいナイーブな感受性は、そのままうら若い明治日本の特徴であった。
痴呆といってもいいほどに、明治人の精神が外(西洋)に向かって開かれていたということ。
田山花袋のような善良な市民がいなければ、西洋の近代文学は、曲がりなりにもわれわれのものにはならなかったでしょう。」
                       昭和25年3月25日評


 
       

 田山花袋「蒲団」@


小石川の切支丹坂から極楽水に出る道のだらだら坂を下りようとして渠(かれ)は考えた。
「これで自分と彼女との関係は一段落を告げた。三十六にもなって、子供も三人あって、あんなことを考えたかと思うと、馬鹿々々しくなる。けれど・・・・・・けれど・・・・・・本当にこれが事実だろうか。あれだけの愛情を自身に注いだのは単に愛情としてのみで、恋ではなかったろうか。」

数多い感情ずくめの手紙、二人の関係はどうみても尋常ではなかった。妻があり、子があり、世間があり、子弟の関係があればこそ敢えて激しい恋に落ちなかったが、語り合う胸の轟(とどろき)、相見る眼の光、その底には確かに凄まじい暴風(あらし)が潜んでいたのである。

機会に遭遇(でっくわ)しさえすれば、その底の底の暴風は忽ち勢いを得て、妻子も世間も道徳も子弟の関係も一挙にして敗れてしまうであろうと思われた。少なくとも男はそう信じていた。

それであるのに、二三日来のこの出来事、これから考えると、女は確かにその感情を偽り売ったのだ。自分を欺いたのだと男は幾度も思った。けれど文学者だけに、この男は自(みずか)ら自分の心理を客観するだけの余裕を持っていた。

年若い女の心理は容易に判断し得られるものではない。かの温かいうれしい愛情は、単に女性特有の自然の発展で、美しく見えた目の表情も、やさしく感じられた態度も都(すべ)て無意識で、無意味で、自然の花が見る人に一種の慰みを与えたようなものかもしれない。




一歩を譲って女は自分を愛して恋していたとしても、自分は師、かの女は門弟、自分は妻あり子ある身、かの女は妙齢の美しい花、そこに互いに意識の加わるのを如何(いかん)ともすることはできまい。

いや、さらに一歩を進めて、あの熱烈なる一封の手紙、陰に陽にその悶(もだえ)を訴えて、丁度自然の力がこの身を圧迫するかのように、最後の情を伝えて来た時、その謎をこの身が解いて遣らなかった。

女性のつつましやかな性(さが)として、その上に猶(なお)露(あら)わに迫ってくることがどうしてできよう。
そういう心理からかの女は失望して、今回のようなことを起こしたのかもしれぬ。

「とにかく時機は過ぎ去った。かの女は既に他人(ひと)の所有(もの)だ!」
歩きながら渠(かれ)はこう絶叫して頭髪をむしった。


引用書籍
 「蒲団」田山花袋著 新潮社刊


田山花袋著「蒲団」A


縞(しま)セルの背広に、麦藁帽、藤蔓(ふじつる)の杖(ステッキ)をついて、やや前のめりにだらだらと坂を下りて行く。

時は九月の中旬、残暑はまだ耐え難く暑いが、空には既に清涼の空気が道わたって、深い緑の色が際立って人の感情を動かした。

肴屋(さかなや)、酒屋、雑貨店、その向こうに寺の門やら裏多那うらだな)の長屋やらが連なって、久堅町(ひさかたまち)の低い地には数多(あまた)の工場の煙突が長い煙を漲(みなぎ)らしていた。

その数多い工場の一つ、西洋風の二階の一室、それが渠(かれ)の毎日通う処で、十畳敷きほどの広さの部屋の中央(まんなか)には、大きい一脚のテーブルが据えてあって、傍に高い西洋風の本箱、この中には総て種々の地理書が一杯入れられてある。

渠はある書籍会社の嘱託を受けて地理書の編集の手伝いに従っているのである。文学者に地理書の編集!渠は自分が地理の趣味を持っているからと称して進んでこれに従事しているが、内心これに甘んじておらぬことは言うまでもない。

遅れがちなる文学上の閲歴、断片のみを作って、未だに全力の試みをする機会に遭遇せぬ煩悶、青年雑誌から月ごとに受ける罵評の苦痛、渠自らはその他日成すあるべきを意識してはいるものの、中心これを苦に病まぬわけには行かなかった。

社会は日増しに進歩する。電車は東京市の交通を一変させた。女学生は勢力になって、もう自分が恋をした頃のような旧式の娘は見たくも見られなくなった。

青年はまた青年で、恋を説くにも、文学を談ずるにも、その態度が総(すべ)て一変して、自分等とは永久に相触れることが出来ないように感じられた。

 引用書籍
 田山花袋「蒲団」新潮社刊




田山花袋著「蒲団」B新潮社刊


で、毎日機械のように同じ道を通って、同じ大きい門を入って、輪転機関の屋(いえ)を動かす音と職工の臭い汗との交わった細い間を通って、事務室の人々に軽い挨拶して、こつこつと長い狭い梯子を上って、さてその部屋に入るのだが、東と南に明いたこの室(へや)は、午後の激しい日影を受けて、実に耐えがたく暑い。

それに小僧が無精で掃除をせぬので、卓の上には白いほこりがざらざらと心地悪い。渠(かれ)は椅子に腰を掛けて、煙草を一服吸って、立ち上がって、厚い統計書と地図と案内記と地理書とを本箱から出して、さて静かに昨日の続きの筆を執り始めた。

けれど、二、三日来、頭脳(あたま)がむしゃくしゃしているので、筆が容易に進まない。一行書いては筆を留(と)めてそのことを思う。また一行書く、また留める、又書いてはまた留めるという風。そしてその間に頭脳に浮かんでくる考えは、総て断片的で、猛烈で、急激で、絶望的の分子が多い。

ふとどういう連想か、ハウプトマンの「寂(さび)しき人々』を思い出した。

引用書籍
田山花袋「蒲団」新潮社刊

★「蒲団」4〜12・・・http://14highschool.jugem.jp/?eid=2533

★「蒲団」13〜22・・・http://14highschool.jugem.jp/?eid=2534

★「蒲団」23〜33・・・http://14highschool.jugem.jp/?eid=2535

★「蒲団 34〜40・・・http://14highschool.jugem.jp/?eid=2538

★「蒲団」41〜58(58:最終章)・・・http://14highschool.jugem.jp/?eid=2537

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