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2021年02月13日

田山花袋「蒲団」本文13〜22/全58


★「蒲団」13〜22・・・http://14highschool.jugem.jp/?eid=2534

(^_-)-☆アスカミチル
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蒲団VOL,22

君が門辺(かどべ)をさまよふは

巷(ちまた)の塵(ちり)を吹き立つる

嵐のみとやおぼすらん。

その嵐よりいやあれに

その塵よりも乱れたる

恋のかばねを暁の



歌を半ばにして、細君の被(か)けた蒲団を着たまま、すっくと立上って、座敷のほうへ小山のごとく動いて行った。

何処へ?何処へいらっしゃるんです?と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにも関(かま)わず、
蒲団をきたまま、厠(かわや)の中へ入ろうとした。

細君は慌てて、
「貴郎(あなた)、貴郎、酔っぱらってはいやですよ。そこは手水場(ちょうずば)ですよ。」
いきなり蒲団を後から引いたので、蒲団は厠の入口で細君の手に残った。

時雄はふらふらと危く小便をしていたが、それがすむと、いきなりどうと厠の中に寝てしまった。
細君が汚がって頻りに揺すったり何かしたが、時雄は動こうとも立とうとも為ない。そうかと云って眠ったのではなく、赤土のような顔に大きい鋭い目を明(あ)いて、戸外(おもて)に降りしきる雨をじっと見ていた。

時雄は例刻をてくてくと牛込矢来町の自宅に帰って来た。
彼は三日間、その苦悶と戦った。

彼は性として惑溺(わくでき)することが出来ぬ或る一種の力を有(も)っていた。


引用書籍
田山花袋著「蒲団」新潮社刊




蒲団VOL,21

寂寥(さびしさ)に堪えず、午(ひる)から酒を飲むと言い出した。細君の支度の為ようが遅いのでぶつぶつ言っていたが、膳に載せられた肴がまずいので、遂に癇癪(かんしゃく)を起して、自棄(やけ)に酒を飲んだ。

一本、二本と徳利の数は重なって、時雄は時の間(ま)に泥の如く酔った。細君に対する不満ももう言わなくなった。
徳利に酒が無くなると、只、酒、酒というばかりだ。

そしてこれをぐいぐいと呷(あお)る。気の弱い下女はどうしたことかと呆れて見ておった。男の子の五歳になるのを始めはしきりに可愛がって抱いたり撫でたり接吻したりしていたが、どうしたはずみでか泣き出したのに腹を立てて、ピシャピシャとソノ尻を乱打したので、三人の子供は怖がって、遠巻きにして、平生(ふだん)に似もやらぬ父親の赤く酔った顔を不思議そうに見ていた。

一升近く飲んでそのまま其処に酔い倒れて、お膳のとんぼ返りを打つのにも頓着しなかったが、やがて不思議なだらだらした節で、十年も前にはやった幼稚な新体詩を歌いだした。

引用書籍
田山花袋著「蒲団」新潮社刊




 蒲団VOL,20

時雄は悶えた、思い乱れた。妬みと惜しみと悔恨(くやみ)との念が一緒になって旋風のように頭脳(あたま)の中を回転した。師としての道義の念もこれに交じって、益々炎を盛んにした。わが愛する女の幸福の為めという犠牲の念も加わった。で、夕暮の膳の上の酒は夥しく量を加えて、泥鴨(あひる)の如く酔って寝た。

あくる日は日曜日の雨、裏の森にざんざん降って、時雄の為めには一倍に侘びしい。欅(けやき)の古樹に降りかかる雨の脚(あし)、それが実に長く、限りない空から限りなく降っているとしか思われない。時雄は読書する勇気も無い、筆を執る勇気もない。

もう秋で冷え冷えと背中の冷たい籐椅子に身を横たえつつ、雨の長い脚を見ながら、今回の事件からその身の半生のことを考えた。
彼の経験にはこういう経験が幾度もあった。一歩の相違で運命の唯中に入ることができずに、いつも圏外に立たせられた淋しい苦悶、その苦しい味をかれは常に味わった。

文学の側でもそうだ、社会の側でもそうだ。恋、恋、恋、今になってもこんな消極的な運命に漂わされているかと思うと、その身の意気地なしと運命のつたないことがひしひしと胸に迫った。ツルゲーネフのいわゆるSuper fluous man ! だと思って、その主人公の儚(はかな)い一生を胸に繰返した。


引用書籍
田山花袋著「蒲団」新潮社刊




蒲団 VOL,19


芳子は師の前にその恋の神聖なるを神懸けて誓った。故郷の親たちは、学生の身で、ひそかに男と嵯峨に遊んだのは、既にその精神の堕落であると云ったが、決してそんな汚れた行為はない。

互いに恋を自覚したのは、寧ろ京都で別れてからで、東京に帰って来てみると、男から熱烈なる手紙が来ていた。それで始めて将来の約束をしたような次第で、決して罪を犯したようなことは無いと女は涙を流して言った。

時雄は胸に至大の犠牲を感じながらも、その二人の所謂(いわゆる)神聖なる恋の爲めに力を尽くすべく余儀なくされた。
時雄は悶えざるを得なかった。わが愛するものを奪われたということは甚だしくその心を暗くした。

元より進んでその女弟子を自分の恋人にする考は無い。そういう明らかな定まった考があれば前に既に二度までも近寄ってきた機会を掴むに於いて敢えて躊躇(ちゅうちょ)するところは無い筈だ。

けれどその愛する女弟子、淋しい生活に美しい色彩を添え、限りなき力を添えてくれた芳子を、突然人の奪い去るに任すに忍びようか。機会を二度まで掴むことは躊躇したが、三度来る機会、四度来る機会を待って、新たなる運命と新たなる生活を作りたいとはかれの心の底の微(かす)かなる願であった。


引用書籍
田山花袋著「蒲団」新潮社刊




「蒲団」VOL,18

四月に入ってから、芳子は多病で蒼白い顔をして神経過敏に陥っていた。シュウソカリを余程多量に服してもどうも眠られぬとて困っていた。

絶えざる欲望と生殖の力とは年頃の女を誘うのに躊躇(ちゅうちょ)しない。芳子は多く薬に親しんでいた。
四月末に帰国、九月に上京、そして今回(こんど)の事件が起った。

今回の事件とは他でもない。芳子は恋人を得た。そして上京の途次、
恋人と相携えて京都嵯峨(さが)に遊んだ。

その遊んだ二日の日数が出発と着京との時日に符号せぬので、東京と備中(広島県)との間に手紙の往復があって、詰問した結果は恋愛、神聖なる恋愛、二人は決して罪を犯してはおらぬが、将来は如何にしてもこの恋を遂げたいとの切なる願望(ねがい)。

時雄は芳子の師として、この恋の証人として一面月下氷人(げっかひょうじん)の役目を余儀なくされたのであった。
芳子の恋人は同志社の学生、神戸協会の秀才、田中秀夫、年二十一。

引用書籍
田山花袋著「蒲団」新潮社刊




蒲団17



この機会がこの一年の間に少なくとも二度近寄ったと時雄は自分だけで思った。

一度は芳子が厚い封書を寄せて、自分の不束(ふつつか)なこと、先生の厚恩に報ゆることが出来ぬから自分は故郷に帰って農夫の妻になって田舎に埋れてしまおうということを涙交じりに書いた時、

一度は或る夜芳子が一人で留守番をしているところへゆくりなく時雄が行って訪問した時、この二度だ。



初めの時は時雄はその手紙の意味を明らかに了解した。その返事をいかに書くべきかに就いて一夜眠らずに懊悩(おうのう)した。
穏やかに眠れる妻の顔、それを幾度か窺(うかが)って自己の良心のいかに麻痺せるかを自ら責めた。そしてあくる朝送った手紙は、厳呼(げんこ)たる師としての態度であった。




二度目はそれから二月ほど経(た)った春の夜、ゆくりなく時雄が訪問すると、芳子は白粉(おしろい)をつけて、美しい顔をして、火鉢の前にぽつねんとしていた。

「どうしたの。」と訊(き)くと、
「お留守番ですの。」
「姉は何処(どこ)へ行った?」
「四谷に買い物に。」
と言って、じっと時雄の顔を見る。

いかにも艶かしい。時雄はこの力ある一瞥(いちべつ)に意気地なく胸を躍らした。
二言三言(ふたことみこと)普通のことを語り合ったが、その平凡なる物語が更に平凡でないことを互いに思い知ったらしかった。

この時、今十五分も一緒に話し合ったならば、どうなったであろうか。女の表情の眼は輝き、言葉は艶(なま)めき、態度がいかにも尋常(よのつね)でなかった。

「今夜は大変綺麗にしてますね?」
男は態(わざ)と軽く出た。
「え、先程、湯に入りましたのよ。」
「大変に白粉が白いから。」
「あらまア先生!」と言って、笑って体を斜(はす)に嬌態(きょうたい)を呈した。

時雄はすぐ帰った。まア好いでしょうと芳子はたって留めたが、どうしても帰ると言うので、名残り惜しげに月の夜を其処(そこ)まで送って来た。その白い顔には確かにある深い神秘が籠(こ)められてあった。


引用書籍
田山花袋著「蒲団」新潮社刊











「蒲団」16

芳子と時雄との関係は単に師弟の間柄としては余りに親密であった。この二人の様子を観察したある第三者の女の一人が妻に向かって、
「芳子さんが来てから時雄さんの様子はまるで変りましたよ。二人で話しているところを見ると、魂は二人ともあくがれ渡っているようで、それは本当に油断がなりませんよ。」と言った。

他(はた)から見れば、無論そう見えたに相違なかった。けれど二人は果たしてそう親密であったか、どうか。

若い女の浮かれがちな心、浮かれるかと思えばすぐ沈む。些細なことにも胸を動かし、つまらぬことにも心を痛める。恋でもない、恋でなくも無いというようなやさしい態度、時雄は絶えず思い惑った。

道義の力、習俗の力、機会一度至ればこれを破るのは帛(きぬ)を裂くよりも容易だ。唯(ただ)、容易に来らぬはこれを破るに至る機会である。

引用書籍
田山花袋著「蒲団」新潮社刊



「蒲団」15

「女子ももう自覚せんければいかん。昔の女のように依頼心を持っていては駄目だ。ズウデルマンのマグダの言った通り、父の手からすぐに夫の手に移るような意気地なしでは為方が無い。
日本の新しい婦人としては、自ら考えて自ら行うようにしなければいかん。」

こう言っては、イプセンのノラの話や、ツルゲーネフのエレネの話や、露西亜(ろしあ)、独逸(どいつ)あたりの婦人の意志と感情と共に富んでいることを話し、さて、
「けれど自覚と云うのは、自省ということをも含んでおるですからな。無暗に意志や自我を振り回しては困るですよ。自分の遣ったことには自分が全責任を帯びる覚悟がなくては。」

芳子にはこの時雄の教訓が何より意味があるように聞こえて、渇仰の念が愈々(いよいよ)加わった。基督教の教訓より自由でそして権威があるように考えられた。

芳子は女学生としては身装(みなり)が派手過ぎた。黄金(きん)の指輪をはめて、流行をおった美しい帯をしめて、すっきりとした立ち姿は、路傍の人目を惹(ひ)くに十分であった。

美しい顔と云うよりは表情のある顔、非常に美しい時もあれば何だか醜い時もあった。眼に光があってそれが非常によく働いた。

四五年前までの女は感情を顕(あら)わすのに極めて単純で、怒った溶(かたち)とか笑った溶とか、三種、四種位しかその感情を表すことが出来なかったが、今では情を巧みに顔に表わす女が多くなった。

芳子もその一人であると時雄は常に思った。




「蒲団」14

麹町土手三番町の一角には、女学生もそうハイカラなのが沢山居ない。それに、市ヶ谷見附の彼方(あちら)には時雄の細君の里の家があるのだが、この付近は殊に昔風の商家の娘が多い。で、少なくとも芳子の神戸仕込のハイカラはあたりの人の目を聳(そばだ)たしめた。時雄は姉の言葉として、妻から常に次のようなことを聞かされる。

「芳子さんにも困ったものですねと姉が今日も言っていましたよ、男の友達が来るのは良いけれど、夜など一緒に二七(不動)に出かけて、遅くまでかえって来ないことがあるんですって。そりゃ芳子さんはそんなことは無いのに決まっているけれど、世間の口が喧(やかま)しくって仕方がないと言っていました。」

これを聞くと時雄は決まって芳子の肩を持つので、
「お前たちのような旧式の人間には芳子の遣ることなどは判(わか)りゃあせんよ。男女が二人で歩いたり話したりすれば、すぐあやしいとか変だとか思うのだが、一体、そんなことを思ったり、言ったりするのが旧式だ、今では女も自覚しているから、為ようと思うことは勝手にするさ。」
この議論を時雄はまた得意になって芳子にも説法した。

引用書籍
田山花袋著「蒲団」新潮社刊



「蒲団」13

その寓していた家は麹町の土手三番町、甲武(こうぶ)の電車の通る土手際で、芳子の書斎はその家での客座敷、八畳の一間、前に往来の頻繁な道路があって、がやがやと往来の人やら子供やらで喧(やかま)しい。

時雄の書斎にある西洋本箱を小さくしたような本箱が一閑張の机の傍にあって、その上には鏡と、紅皿と、白粉の罎(びん)と、今一つシュウソカリウムの入った大きな罎がある。

これは神経過敏で、頭痛(あたま)が痛くって為方(しかた)が無い時に飲むのだという。本箱には紅葉(こうよう)全集、近松世話浄瑠璃(せわじょうるり)、英語の教科書、ことに新しく買ったツルゲーネフ全集が際立って目に附く。

で、未来の閨秀(けいしゅう)作家は学校から帰って来ると、机に向かって文を書くというよりは、寧(むし)ろ多く手紙を書くので、男の友達も随分多い。男文字の手紙も随分来る。中にも高等師範の学生に一人、早稲田大学の学生に一人、それが時々遊びに来たことがあったそうだ。

引用書籍
田山花袋著「蒲団」新潮社刊







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