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〈756〉トートバッグは知っている〜The tote bag knows everything〜〈前篇〉

トートバッグは知っている



そのトートバッグは1982年、オークランドのはずれにある工場で大量生産された他の兄弟たちと産声をあげた

生まれてすぐ、郊外のあるスーパーマーケットで運命的な出会いを果たす

買ってくれたのは、青い瞳と、ブラウンの癖っ毛、ひとなっつこい笑顔が印象的な少年だった

名前をジミーという

バッグの持ち手に目立たないようその名前をサインペンで記された

これはジミーの性格をあらわしていると、後になってトートバッグは思った

最初の仕事は、彼の学業の手伝いだった

重い本にペンケース、それからランチボックスも運んだ

丈夫なだけがとりえだったが、それが幸いし、重宝された

ジミーが就職するとしばらく出番がなくなった

倉庫のすみっこで毎晩のように雄たけびをあげて泣いた

・・・というのは嘘で、泣きたかったが泣けず

ただただ、晴れた日は星を数え、くもりの日は雲の動きを追いながら

思い出にふける日々が続いた

ジミーが結婚したのは26才のときだった

奥さんの名前はケリーといった

ケリーは聡明で、ジミーをよく支えた

二人が新しい家に引っ越すとき、トートバッグはてっきり置いてかれるものだとばかり思っていた

ケリーがその存在を再び見出してくれた

新しい仕事はスーパーマーケットでの手伝いだった

このチャンスを逃してなるものかと

体をぱんぱんに張り裂ける覚悟で、メークインをおさめた

働くことはこれほどに幸せなのか

道具冥利につきると、トートバッグは思った

たいていはケリーとコンビを組んでの仕事だったが

重いときにジミーへ持ち手が変わる

その瞬間がトートバッグはこの上なく好きだった




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