1からの続きです

4) 信頼性というハードル


 広く一般の人が使うワクチンは、そう簡単にはできない。しかし大統領選挙を11月頭に控えたトランプ大統領は、新型コロナワクチンは「選挙のころ、いや選挙前にもできるかもしれない」と、何度もほのめかした。

米食品医薬品局(FDA)はワクチン承認審査の厳格性、透明性を強調しているが、政権の圧力で拙速な開発、承認が行われるのではないかと不安に感じる市民も少なくない。

 特に新型コロナワクチンでは、バイオンテック社とファイザー社のmRNAワクチン候補のように、遺伝子技術を使った新しいタイプのワクチンも開発されており、「本当にうまく行くの?」と、つい疑心暗鬼になりがちだ。

 最終的に承認された新型コロナワクチンができても、一般の人がその安全性や有効性に疑いを持つようでは、使ってもらえない。ワクチン開発に取り組む9社のCEOは9月8日、「FDAの専門家が求める基準を満たす第3相試験によって、安全性と有効性が確立されるまでは、規制当局に承認および緊急使用許可を申請しない」という異例の共同声明を発表している。


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5) mRNAワクチンの実用化なるか?

 mRNAは、タンパク質を合成する『指令』を写し取った遺伝物質。新型コロナのmRNAワクチンを接種すると、体内ではそのmRNAの指示に従って、コロナウイルスの一部のタンパク質が作りだされる。それに反応して、抗体やT細胞反応などの免疫が誘導されるという仕組み。

mRNAワクチンは、病原体の毒性をなくして作る従来の不活化ワクチンより早く製造でき、変異が早い病原体や個別化がんワクチンとしての活用などで期待がかかっているが、まだ実用化されたものはない。

 バイオンテック社とファイザー社のmRNAワクチン候補は、動物実験で有効性や安全性を確かめた後、最も安全で適切な用量を特定するために、米国では今年5月にヒトを対象とした小規模治験を開始した。約120人から得た予備的データでは、2回のワクチン接種による重篤な有害事象はなく、中和抗体活性やT細胞反応が示されている。

 またサルを使ったチャレンジ試験(ワクチン接種後、意図的にコロナウイルスに曝露させる)では、予防効果も示されたそう。

これとは別に、米モデルナ社と米国立衛生研究所(NIH)で開発したmRNAワクチン候補も、全米で第3相試験を実施している。

 トランプ大統領のように政治目的でワクチンを早く承認しろという人もいれば、ワクチン陰謀論者や、何のワクチンであれ使いたくないという反ワクチン派もいる。しかし米国ではこれまでに、650万人が新型コロナウイルスに感染し、19万人が命を落としたという現実がある。パンデミックはすぐにはなくならない。

雑音には耳を貸さず、科学にもとづき粛々と治験を進め、有効で安全なワクチンが一つでも多く完成することを期待したい。

参考リンク

(注1)米国立衛生研究所の臨床試験データベースに掲載されている治験詳細(英文リンク)

(注2)米国での人種別新型肺炎による死亡調査(英文リンク)

(注3)ファイザーとBioNTech、1億2000万回のBNT162mRNAワクチン候補を日本に提供(報道発表)

(注4)ファイザーとBioNTech、COVID-19に対するmRNAワクチン候補を決定し、国際共同第2/3相試験を開始(報道発表)

参考:新型コロナワクチンの早期実用化に向けた厚生労働省の取り組み