2020年04月15日
マスク不足 企業、増産ためらう
写真日経電子版マスクを検品する従業員(名古屋市天白区)
「マスク不足 企業、増産ためらう」
まさかの、見出しだった。が、企業の論理からすると、確かにそうだろう。片や、正義感では「増産そして、国内流通優先」としたいところだろう。
マスク・防護服…医療装備が不足 企業、増産ためらう
2020/4/15 1:00 (2020/4/15 3:55更新)日本経済新聞 電子版
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、医療従事者が使うマスクや防護服の不足が深刻化している。各国政府が争奪戦を繰り広げ、安定供給は見通せない。医療に欠かせないが、平時の市場規模は小さく、日本企業は感染終息後の供給過剰を嫌って増産や参入に二の足を踏む。政府による買い取りや新規参入を促す技術移転など踏み込んだ対策が喫緊の課題だ。
不足が深刻なのは「個人防護具」(PPE=パーソナル・プロテクティブ・エクイップメント)と呼ばれる医師や看護師への感染を防ぐマスク、防護服、手袋などだ。
厚生労働省は当面、医療用サージカルマスクが約2億7千万枚、防護服が約180万枚、フェースシールドが約900万枚不足するなどとみて調達と供給を計画する。
なかでも微粒子まで遮断できる高性能医療用マスク「N95」が厳しい。本来使い捨てであるN95の再利用を厚労省が呼びかけるほど逼迫する。
厚労省によると今後数カ月で1300万枚の調達をめざすが、4月中に確保できるのは70万枚にすぎない。国内大手の興研の売上高は年86億円で投資余力に乏しい。
N95は国内需要の3割を輸入に頼るが「中国が自国向け供給を優先させており、輸入が滞っている」(マスクメーカーの山本光学)という。原料の不織布も4割を輸入に頼り、その半分は中国製で品薄懸念が強まる。
防護服も深刻だ。当面必要とされる180万枚に対し、国内供給量は月16万枚程度にとどまる。国内販売で6〜7割のシェアを握る米デュポンや東レも海外工場で増産を急ぐが追いつかない。
防護服は中国や東南アジアで作られ、中小零細が主体の国内生産では輸入品にコストで太刀打ちできない。素材を熱で圧着する専門技術なども必要で、国内アパレルメーカーは「製造は考えていない」という。
医療用手袋は世界シェア7割のマレーシア勢の輸出が滞り、日本で入手しにくい状況が続く。
「補修品でもいいからほしい」。防護服などの輸入・販売を手掛けるモレーンコーポレーション(東京・中野)には医療機関の注文が殺到する。神奈川県の病院の担当者は「1人1日1枚だったマスクの制限がやっと2枚になった」とこぼす。
こうした医療資材は人工呼吸器のように政府の承認を必要とはしない。ただ、病院側では国際規格や国内規格を満たしているかどうかを参考に調達している。
需要が急増しているにもかかわらず、企業の動きは鈍い。N95の場合、平時から気管内挿管の際などに用途が限られるが、直径0.3マイクロメートルの粒子を95%以上遮断するなど高度な製造技術が必要だ。認証には1年ほどかかる。アイリスオーヤマは「N95は認証ハードルも高く、設備投資を決断しにくい」と指摘する。
生産拠点を新設すると、需要がピークを過ぎれば、過剰設備になりかねないという懸念も企業を慎重にさせる。日本アパレルソーイング工業組合連合会は「政府が在庫リスクを払拭する施策を打ち出さない限り国内メーカーによる大規模な増産は難しい」と指摘する。
すでに感染急増に直面した欧米各国は、企業を動かすのに躍起になっている。トランプ米政権は「国防生産法」でメーカーに生産を命じて買い取ったり、国外への輸出停止を命じたりしている。
欧州も輸入関税の免除とともに輸出規制に踏み切った。欧州連合(EU)域内で製品を生産・流通させるのに必要な安全基準認証について、欧州委員会は世界保健機関(WHO)の推奨事項にのっとるなどの条件を満たせば、例外的に認証無しの生産・流通を認める構えだ。
欧州委の要請で、欧州の規格を整備する各委員会が医療用マスクや使い捨て手袋といった製品の規格を無料で公開した。「製造業の生産を増やし、多様化を促す」(EUのブルトン欧州委員)狙いがある。
■国の生産支援急務、自民議連は買い取り求める声
医療資材の不足を巡っては、国による買い取り制度を設け、設備投資を後押しすべきだとの声が自民党内で上がる。
自民党の「優れた医療機器を国民に迅速かつ安全に届けるための議員連盟」の鴨下一郎会長は「新型コロナウイルスの終息期までは、国が企業の経営リスクを減らすためにお金を出すべきだ」と話す。人工呼吸器やマスク、防護服など医療関連用品を国がほぼ全量買い取り、医療機関に供給すべきだと主張する。
企業は将来の需要減退を恐れて新分野の生産に参入しにくい。「国が事前に企業が売り残した在庫を備蓄分として一定量買い取る方針を示すべきだ」と鴨下氏は語る。
異業種の参入を促すには、既存の企業などが持つノウハウの移転も有効だ。特許庁のデータベースでは「マスク」や「防護服」といったキーワードを入力すると、企業が外部に提供している特許を調べることができる。
海外では異業種が既存事業者と提携して参入する例が相次ぐ。米国ではフォード・モーターが医療分野のメーカーであるゼネラル・エレクトリック(GE)、スリーエム(3M)とマスクやフェースシールド、人工呼吸器の製造で協力する。
新型コロナの感染拡大は止まらず、院内感染も次々と明らかになった。医療資材の増産や新規参入を後押しする制度改革をためらう余裕はない。
(ブリュッセル=竹内康雄、杉原淳一、大林広樹、竹内悠介)
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