2017年08月07日
アガサ・クリスティから (144) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【10】)
(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【10】)
・・・姪と甥のそれぞれに五千ポンドずつ与える。そして、残りの巨額の財産は全部ユーリディシー・スプラッグへ感謝と敬愛の印に残す・・・
ペザリックは正直困ったが、仕方なかった。
病的精神だから無効ということもありえない。
サーモン・クロードは正気だった。
〜〜〜〜〜
サイモンはベルを鳴らして、二人の召使を呼んだ。
二人はすぐにやって来た。
エマ・ゴーント・・・長年、この屋敷に仕え、クロード・サイモンを献身的に看護してきた背の高い中年女性。
ルシー・ディヴィッド・・・健康そうな太った30歳ぐらいの女性料理人。
二人を見つめた後、サイモン・クロードは二人に言った。
「お前たちに遺言の証人になってほしいのだ。エマ、わしの万年筆を持って来てくれ。」
エマは素直に机のところに行った。
すると寝たきりのもどかしさか、老人はじりじりといらついて言った。
「左の引き出しじゃないよ、おい、右の引き出しにあることを知らないのか?」
「いいえ、左の方にございますよ、だんな様。」とエマは万年筆を差し出した。
「そんならお前がこの前まちがって入れたんだな。」
老人はぶつぶつ言い始めた。
「決まった場所に物をしまっておかないというのに、わしは我慢がならないんだ。」
まだ、老人の小言は続いていた。サイモンにはそういうところがあったのだ。
やっとサイモンは万年筆を取り上げ、新しい紙に、私が修正をした下書きを清書し、それから彼の名前を署名した。
続いて、召使二人、エマと料理人も署名をした。
急を要した場合だったので普通の紙に書かれた遺言書だったが、弁護士であるペザリックはその用紙を丁寧に青い封筒に入れた。
召使たちが部屋を引き上げようとした時、サイモンは顔を引きつらせて喘ぎながら、枕に身を埋めた。
慌てて、弁護士は身をかがんで彼を見守った。
エマ・ゴーントも慌てて戻って来た。
しかし、老人は身体を立て直すと弱々しく微笑んだ。
「大丈夫だよ、ペザリック。驚くことはありませんよ。ともかく、やるべきことをやってしまったのだから、これでもう安心して死ぬことが出来ますわい。」
エマ・ゴーントは部屋を出て行っていいのかどうか、気づかわしそうにこちらを見た。
弁護士は安心させるようにうなづくと部屋を後にしようとしたが・・・先刻、慌てていた時に、弁護士が床に落としてしまった青い封筒をまず拾い上げた。
エマはその青い封筒を弁護士に手渡し、弁護士が外套のポケットにしまうのを見て、エマ・ゴーントは部屋を退出した。
サイモン・クロードは弁護士に「あなたは不愉快に思っているでしょうな、ペザリック。」と言った。
そこにはスプラッグ夫人に対する偏見もあるのだと・・・。
「偏見を持つとか持たないとかいう問題じゃありませんよ。スプラッグ夫人にわずかな感謝の印を残すことにはついては私も少したりとも反対はしませんよ。しかし、ざっくばらんに言うと、クロードさん、赤の他人の為に血肉を分けた身内の方達に遺産を残さないというのは間違っていますな。」
(次号に続く)
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