2013年06月22日
儂と二人で書斎に入って
そして、儂と二人で書斎に入って、儂は隔った椅子の向うから、先主がしきりに草案を認めているのを眺めておりました。それは、オクターヴォ判型の書簡紙に二枚ほどのものでしたが、認め終ると、その上に金粉を撒いて、さらに廻転封輪で捺しました。
たぶん貴方は、あの方がいっさいを旧制度的に扱うのを――つまり、その復古趣味を御存じでしょうな。ところで、それが済むと、その二葉を金庫の抽斗の中に蔵めて、当夜は室の内外に厳重な張番を立て、その発表を翌日行うことになりました。ところが、翌朝になると、ズラリと家族を並べた前で、先主はなんと思ったか、いきなりその中の一葉を破ってしまったのです。そして、そのズタズタに寸断したものにさらに火をつけて、またその灰を粉々にして、それをとうとう、窓から雨の中に投げ捨ててしまいました。その周到をきわめた、いかにも再現されるのを懼れるような行為を見ても、その内容が疑いもなく、異常に熾烈な秘密だったに相違ありません。そして、残った一葉を厳封して、それを金庫の中に蔵め、死後一年目に開くよう儂に申し渡されました。ですから、あの金庫は、まだ開く時機が到来していないのですよ。法水さん、儂にはどうしても、故人の意志を欺くことが出来んのです。看護師求人 口コミ 看護師求人/募集はナースバンク∞(日本最大級の求人掲載)
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