2013年12月05日
会いたてからつけ
他人行儀らしい。もっと打ち解けてくれたっていいじゃないの」
というと愛子は当惑したように黙ったまま目を上げて葉子を見た。その目はしかし恐れても恨んでもいるらしくはなかった。小羊のような、まつ毛の長い、形のいい大きな目が、涙に美しくぬれて夕月のようにぽっかり[#「ぽっかり」に傍点]とならんでいた。悲しい目つきのようだけれども、悲しいというのでもない。多恨な目だ。多情な目でさえあるかもしれない。そう皮肉な批評家らしく葉子は愛子の目を見て不快に思った。大多数の男はあんな目で見られると、この上なく詩的な霊的な一瞥を受け取ったようにも思うのだろう。そんな事さえ素早く考えの中につけ加えた。貞世が広い帯をして来ているのに、愛子が少し古びた袴をはいているのさえさげすまれた。
「そんな事はどうでもようござんすわ。さ、お夕飯にしましょうね」
葉子はやがて自分の妄念をかき払うようにこういって、女中を呼んだ。
というと愛子は当惑したように黙ったまま目を上げて葉子を見た。その目はしかし恐れても恨んでもいるらしくはなかった。小羊のような、まつ毛の長い、形のいい大きな目が、涙に美しくぬれて夕月のようにぽっかり[#「ぽっかり」に傍点]とならんでいた。悲しい目つきのようだけれども、悲しいというのでもない。多恨な目だ。多情な目でさえあるかもしれない。そう皮肉な批評家らしく葉子は愛子の目を見て不快に思った。大多数の男はあんな目で見られると、この上なく詩的な霊的な一瞥を受け取ったようにも思うのだろう。そんな事さえ素早く考えの中につけ加えた。貞世が広い帯をして来ているのに、愛子が少し古びた袴をはいているのさえさげすまれた。
「そんな事はどうでもようござんすわ。さ、お夕飯にしましょうね」
葉子はやがて自分の妄念をかき払うようにこういって、女中を呼んだ。
貞世は寵児らしくすっかりはしゃぎきっていた。二人が古藤につれられて始めて田島の塾に行った時の様子から、田島先生が非常に二人をかわいがってくれる事から、部屋の事、食物の事、さすがに女の子らしく細かい事まで自分一人の興に乗じて談り続けた。愛子も言葉少なに要領を得た口をきいた。
「古藤さんが時々来てくださるの?」
と聞いてみると、貞世は不平らしく、
「いゝえ、ちっとも」
「ではお手紙は?」
「来てよ、ねえ愛ねえさま。二人の所に同じくらいずつ来ますわ」
と、愛子は控え目らしくほほえみながら上目越しに貞世を見て、
「貞ちゃんのほうに余計来るくせに」
となんでもない事で争ったりした。
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「古藤さんが時々来てくださるの?」
と聞いてみると、貞世は不平らしく、
「いゝえ、ちっとも」
「ではお手紙は?」
「来てよ、ねえ愛ねえさま。二人の所に同じくらいずつ来ますわ」
と、愛子は控え目らしくほほえみながら上目越しに貞世を見て、
「貞ちゃんのほうに余計来るくせに」
となんでもない事で争ったりした。
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