2013年07月27日
弓子は先斗町を通るのは
弓子は先斗町を通るのははじめてだったが、路地の中ですれちがった芸者をつかまえて、
「桔梗家ってどこでしょう……?」
と、きくとふっと、赧くなりながら、教えてくれた。
「桔梗家ってどこでしょう……?」
と、きくとふっと、赧くなりながら、教えてくれた。
その芸者が赧くなったのは、そこが鶴雄の家で、その芸者が鶴雄に岡惚れしているからだとは、無論弓子には判るはずはなかった。
いや、鶴雄が先斗町に住んでいることすら、弓子は知らないのだ。
知らずに、弓子は女中に案内されて、小郷のいる部屋へはいって行った。
その部屋には、男は小郷ひとりだから、すぐ、
「あ、こいつだな」
と、判った。
途端に、弓子の眼はギラギラと燃えた。
「こいつが姉さんをひどい眼に合わせた男なのか」
そう思うと、弓子はみるみる顔色が青ざめて行く自分を感じたが出来るだけ平静を装って、
「はじめまして。京洛日報の相馬弓子です」
と、早口に言った、
「名刺をくれ」
と、言われれば、
「入社した許りで、注文した名刺が間に合わないんですの」
とごまかすつもりだった。
しかし、小郷はさすがにそんな野暮なことは言わなかった。
ただ弓子のはっとするような澄み切った美しさに、舌を巻いていた。
「婦人記者だと宮子が言いよった時、何だか美人のような気がしたが、これほどのシャンとは思わなかった」
と、小郷はだらしなく呟きながら、
「さア、どうぞ、敷き給え。ビールはどうじゃ。酒の方がいいかね」
「あたし、いただけませんの」
「じゃ、料理でも……」
手を鳴らそうとすると、君勇は、
「あてが言うて来ます」
と、ふらふらと出て行った。
階下へ行けば、鶴雄の顔が見られるのだった。
「今料理を言ったから、まアゆっくり遊んで行ったらいいだろう。――こういう情緒も一度味っとくがいい」
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