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2014年06月02日
さすがに敷居は高かった
女中に会わせる顔もなかった。が、思い切って勝手口からはいり、女中にきけば、
「ママはお留守どす。いま、東京へ立たはりました」
「チマ子は……?」
「こないだ(この間)からお居しまへんのどっせ」
 家出したらしいと、軽口の女中がペラペラと喋るのをききながら、魂が抜けたように料理場でぺたりとへたり込んでいると、貴子がいない失望よりも、家出したチマ子への心配が銀造をぽうっとさせ、いきなり十も老けてしまった。しかし、その時、電話が掛ってきて、
「M署……?」
 とききかえしている電話口の女中の声を聴いた途端、はや銀造の眼はピカリと光り、青ざめた顔を緊張が走った。

丁度その頃、京都駅では、二十一時に大阪を出た東京行き急行列車がホームにはいり、昼間しめし合わせた乗竹侯爵と落ち合った貴子が、東京の女友達と一緒に、二等車へ乗ろうとしていた。大阪からその汽車に乗っていた章三は、貴子たちが二等車にはいって来たのを見て、ニヤリと凄い微笑を泛べた。
「やっぱりおれの思った通りや」
 貴子は今日の昼間、夜の九時頃に立つといっていたが、その時間に出る東京行きの急行はこの二十一時大阪発の一本しかないと、章三は田村から大阪へ帰った足で、すぐ切符の手配をして、その汽車に乗り込んだのだった。
 もっとも、貴子がただ女友達と二人きりで乗ったとすれば、章三のその計画も無意味なものになってしまうところだったが、案の定貴子は上品な顔立ちの青年と二人空いた座席へ並んで腰を掛けた。その青年の顔を一目見るなり、章三は、
「あいつやな、乗竹侯爵は……」
 と、疑いもなくピンと来て、自分の勘の適中に満足した。しかし、その満足は、非常に愉快なものだ――といっては、言い過ぎになる。
 なぜなら、げんに章三の眼の前にある光景は、自分の妾がよその男と旅行しようとしている――いわば章三のような自尊心の強い男にとっては、随分と男の下る事実なのだ。しかも、その男、乗竹春隆は昨夜田村へ、陽子を連れて来ているのだ。
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Posted by salchan at 14:41 | この記事のURL
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