2014年03月26日
白耳義のアントワアプ
ホテル・アムステルダム自慢の家庭料理というのは、夫人自身が台所に立って、采配を振っているものだった。先夫に死なれて、尠からざる遺産とともにこのホテル商売を引き継ぐと間もなく、当時巴里とアントワアプの間をダイヤモンドを持って始終往ったり来たりしていた常客の一人と出来合って、結婚したのだった。
魚が水を飲むように、あおり続けている。結婚後、まるで人が変ったようだ。一日に一度、巴里の最高級商店街であるルュウ・ドュ・ラ・ペェへ出掛けて、そこのキャルティエだのブッシュロンだのの大宝石商の飾り窓に並んでいる素晴らしい金剛石を、物欲しそうに覗いて来るのを私かに唯一の楽しみにしているだけで、ホテルにいる時は何時も苦虫を噛み潰したような顔を据えて、無愛想に構え込んでいる。が、それにも係らずホテルは数年の間、先代当時の繁昌を保持して来たのだが――俄かにここに、「自殺ホテル」などと有難くない評判を取ることとなった。
超常現象
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