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2014年03月07日
表通りも賑やかだったが
少し入り込んだところにある下宿へ行くまでの横町は、別の意味で賑やかであった。表通りは名高い大きな書店や、文房具屋や、支那料理などの目貫の商店街であったが、一歩横町へ入ると、モダアニズムの安価な一般化の現われとして、こちゃこちゃした安普請のカフエやサロンがぎっちり軒を並ベ、あっちからもこっちからも騒々しいジャズの旋律が流れて来るのだった。

庸三はせっかく行ってみても、葉子がいなかったりすると、張り合いがないので、なるべくなら行かないことにしていたが、彼女の動静はやっぱり気にかかった。狭い下宿の部屋で、瑠美子も加えて三人枕を並べるのは、何と言っても憂鬱だったし、昼間下宿の飯を食いながら、そこにぼんやりしているのも苛立たしかったが、何かというとやはり足がそっちへ向いた。一緒に外へ出て支那料理を食べたり、昔し錦町に下宿していた時分、神保町にいた画家で俳人である峰岸と一緒に、よく行ったことのある色物の寄席へ入ってみたりした。
川口 歯医者
Posted by salchan at 12:36 | この記事のURL
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