2019年07月05日
【寄稿】平成の3大トピックス & 令和の医療を展望する
昭和62年に大学を卒業して、昭和64年に平成元年に変わり、
以降33年、3大トピックスを実感してきました。
CTは画像が荒く、頭しか撮れない、から始まり、
今は全身CTが撮れ、ヘリカルCTが出て飛躍的に画像解析が向上しました。
3D表示が当たり前にできるようになりました。
超音波検査、MRI、PETの出現、進歩も目の当たりにしました。
【寄稿】平成の3大トピックス & 令和の医療を展望する
札幌がんセミナー理事長 小林 博
平成を彩った3大ニュース
平成時代の代表的なニュースとして、
@画像診断など医療機器の開発
A鎮痛薬の開発による痛みの解消など緩和医療の登場
Bゲノム医療―の3つに絞ってみた。
1.医療機器の開発
機器の開発と進歩は産業界のみならず医療界でも顕著であった。
最たる事例は画像診断のための機器(CT、MRI、PETなど)の開発である。
がんは以前は、血液検査による腫瘍マーカーで見つけられることが多かったが、
その多くはある程度進行したがんであった。
これに比べ、画像診断はその局在を含めごく小さながんでも見つけることができるため、
早期発見、早期治療に大いに役立ち、結果的にがんの治療成績の向上に大きく貢献した。
治療面では内視鏡手術、ロボット手術の登場も大きい。
手際よく正確に、しかも患者にとっての負担が少ない手術を、
外科医だけでなく内科医でも行えるようになった。
患者の心身の負担とか苦痛を減らしQOLの向上に役立っただけでなく、
5年生存率の上昇にも寄与することとなった。
がん治療の機器として陽子線、重粒子線による放射線治療が身近なものになってきた。
その中でも、肺その他微少な動きのある臓器がんに対する動体追跡陽子線治療の実用化も特筆に値する。
その他、私たちが普段あまり気にしていないちょっとした医療器具の改良、改善
の恩恵を受けていることが各分野に意外と多いことに気付く。
2.緩和医療の登場
がんを攻撃したたくことに専念した時代がずいぶん長く続いた。
この間に学んだことは、がんをたたこうとするばかりに
生体の受けるダメージに気付かずにいてはいけないこと、
むしろがん患者のQOLを十分考慮した上での治療でなければいけないということであった。
こうした苦い経験を踏まえて、平成に入って「緩和医療」という新しい概念が浸透してきたのである。
その中でも、がんによる「痛みからの解放」が最大の成果であろう。
少なくともWHO推奨の鎮痛法で行う限り、
副作用もほとんどなく痛みが解消されるようになった。
患者にとっては画期的な進歩であり、誠に大きな福音である。
痛みの解消は身体的な面だけではない。
その後、心の痛み、あるいは精神的な痛み(スピリチュアルな痛み)に対するケアについても、
緩和医療の延長として広く理解され対処されるようになってきた。
仕事についてのがん患者の悩みは深い。
しかし最近では、患者が離職しなくとも済むようになってきた。
つまり社会のサポート態勢が整ってきた。
平成の30年間で、がんへの対応が大きく変わってきた、
というより医療が社会とともに「成熟した」といってよいのでないだろうか。
3.ゲノム医療の始まり
ゲノム医療が始まったのは比較的最近、平成の後半になってからのこと。
患者の遺伝子をはじめとした全ての遺伝情報(ゲノム)を解析して、
最も適切な治療法を決めようとするもの。
それがゲノム医療である。
「分子標的療法」といわれるものはその成果の1つ。
がんの分類も少し変わってきた。
従来の分類は臓器別、組織型別になされてきたが、それだけでは間に合わなくなってきた。
臓器の違ったがんであっても変異した遺伝子が共通であれば、
臓器の枠を越えてその変異に拮抗する同じ薬を使って治療することになる。
つまり変異遺伝子別に見る新たながんの考え方が生まれてきた。
ゲノム医療のための検査キットの製造販売も認められた。
今後、解析装置の性能向上やコストダウンが進めば、ゲノム医療はさらに広く普及し、
これが「令和」の新時代にやがて大きく開花することになるのであろう。
ただ、残念ながら少なくとも現状では、
ゲノム医療の恩恵にあずかれる患者はまだほんの一部にすぎない。
このことには十分留意しておきたい。
令和の医療を展望する:DALYの高い疾患ががんにとって代わるか
1.がん年齢の高齢化
人口の高齢化はますます進む。これに伴ってがん年齢の高齢化も一段と加速していく。
がん年齢の高齢化は単に死亡年齢が延びたからではない。
むしろ、がんにかかる罹患年齢が高齢化してきたことが原因なのである。このことは十分銘記しておきたい。
いまのがん年齢は70歳代後半、間もなく80歳代となり、
やがて「がん死亡年齢=寿命」の年齢に近くなっていく。
そうなれば「老いを憎めない」ように、
高齢者のがんに関する限り「がんもまた憎めない」存在になってくる。
このような状態になったとき「がんはもう解決に近づいた」と受けとめていいのではないか。
ただ、例外がある。小児がんとAYA世代、あるいは希少がん。
これらはなんとしても解決しなければならない、深刻な焦眉の問題である。
2.AI(人工知能)の医療への参入
AIは膨大なデータを瞬時に解析して一定の答えを導き出す人工知能である。
AIは膨大な情報を学習することによって病理組織診断だけでなく、画像診断、さらに治療面など広く医療面での貢献が期待される。AIは「ゲノム医療」の領域にも入ってくるであろう。
いずれにしても、AIは医療者の負担軽減に大いに役立つ。
ただし、AIの判断を的確に活用できる人材の育成が必要となる。
AIは老化の速度をコントロールすることも可能になる。
これで高齢化はさらに進むことになるであろう。
AIによってQOLの向上も可能になる。
例えばAIを駆使することで生活習慣の見直しや改善が進めば、
名実ともに「QOLの高い人生100年」の時代が目の前のものになってくる。
3.がんに代わり脅威となる疾病
死因1位のがんといえども、いずれ解決に向かう。
だが、世の中から病気がなくなることはない。
がんに代わり脅威となる疾患は何か?
私は認知症をはじめとする精神・神経系疾患ではないかと思う。
例えばうつ病、統合失調症、パーキンソン病、不眠症など。
他に筋委縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋委縮症など。
これらの疾患はWHOが発表した「死亡率とDALYの関係」が示すように、
疾患に伴う苦しみががんによる苦しみよりさらに大きく、
また苦しむ期間がずっと長い。
にもかかわらず、死に直結するものではないから世の関心を受けにくい。
だが、患者は「いっそ死ぬことができたら、どれほど楽か」
と思えるほどの苦しみに長く耐えていかねばならない。
DALYの高い疾患こそ、死に直結するがんにとって代わる
令和時代の病気として表立ってくると思う。
以降33年、3大トピックスを実感してきました。
CTは画像が荒く、頭しか撮れない、から始まり、
今は全身CTが撮れ、ヘリカルCTが出て飛躍的に画像解析が向上しました。
3D表示が当たり前にできるようになりました。
超音波検査、MRI、PETの出現、進歩も目の当たりにしました。
【寄稿】平成の3大トピックス & 令和の医療を展望する
札幌がんセミナー理事長 小林 博
平成を彩った3大ニュース
平成時代の代表的なニュースとして、
@画像診断など医療機器の開発
A鎮痛薬の開発による痛みの解消など緩和医療の登場
Bゲノム医療―の3つに絞ってみた。
1.医療機器の開発
機器の開発と進歩は産業界のみならず医療界でも顕著であった。
最たる事例は画像診断のための機器(CT、MRI、PETなど)の開発である。
がんは以前は、血液検査による腫瘍マーカーで見つけられることが多かったが、
その多くはある程度進行したがんであった。
これに比べ、画像診断はその局在を含めごく小さながんでも見つけることができるため、
早期発見、早期治療に大いに役立ち、結果的にがんの治療成績の向上に大きく貢献した。
治療面では内視鏡手術、ロボット手術の登場も大きい。
手際よく正確に、しかも患者にとっての負担が少ない手術を、
外科医だけでなく内科医でも行えるようになった。
患者の心身の負担とか苦痛を減らしQOLの向上に役立っただけでなく、
5年生存率の上昇にも寄与することとなった。
がん治療の機器として陽子線、重粒子線による放射線治療が身近なものになってきた。
その中でも、肺その他微少な動きのある臓器がんに対する動体追跡陽子線治療の実用化も特筆に値する。
その他、私たちが普段あまり気にしていないちょっとした医療器具の改良、改善
の恩恵を受けていることが各分野に意外と多いことに気付く。
2.緩和医療の登場
がんを攻撃したたくことに専念した時代がずいぶん長く続いた。
この間に学んだことは、がんをたたこうとするばかりに
生体の受けるダメージに気付かずにいてはいけないこと、
むしろがん患者のQOLを十分考慮した上での治療でなければいけないということであった。
こうした苦い経験を踏まえて、平成に入って「緩和医療」という新しい概念が浸透してきたのである。
その中でも、がんによる「痛みからの解放」が最大の成果であろう。
少なくともWHO推奨の鎮痛法で行う限り、
副作用もほとんどなく痛みが解消されるようになった。
患者にとっては画期的な進歩であり、誠に大きな福音である。
痛みの解消は身体的な面だけではない。
その後、心の痛み、あるいは精神的な痛み(スピリチュアルな痛み)に対するケアについても、
緩和医療の延長として広く理解され対処されるようになってきた。
仕事についてのがん患者の悩みは深い。
しかし最近では、患者が離職しなくとも済むようになってきた。
つまり社会のサポート態勢が整ってきた。
平成の30年間で、がんへの対応が大きく変わってきた、
というより医療が社会とともに「成熟した」といってよいのでないだろうか。
3.ゲノム医療の始まり
ゲノム医療が始まったのは比較的最近、平成の後半になってからのこと。
患者の遺伝子をはじめとした全ての遺伝情報(ゲノム)を解析して、
最も適切な治療法を決めようとするもの。
それがゲノム医療である。
「分子標的療法」といわれるものはその成果の1つ。
がんの分類も少し変わってきた。
従来の分類は臓器別、組織型別になされてきたが、それだけでは間に合わなくなってきた。
臓器の違ったがんであっても変異した遺伝子が共通であれば、
臓器の枠を越えてその変異に拮抗する同じ薬を使って治療することになる。
つまり変異遺伝子別に見る新たながんの考え方が生まれてきた。
ゲノム医療のための検査キットの製造販売も認められた。
今後、解析装置の性能向上やコストダウンが進めば、ゲノム医療はさらに広く普及し、
これが「令和」の新時代にやがて大きく開花することになるのであろう。
ただ、残念ながら少なくとも現状では、
ゲノム医療の恩恵にあずかれる患者はまだほんの一部にすぎない。
このことには十分留意しておきたい。
令和の医療を展望する:DALYの高い疾患ががんにとって代わるか
1.がん年齢の高齢化
人口の高齢化はますます進む。これに伴ってがん年齢の高齢化も一段と加速していく。
がん年齢の高齢化は単に死亡年齢が延びたからではない。
むしろ、がんにかかる罹患年齢が高齢化してきたことが原因なのである。このことは十分銘記しておきたい。
いまのがん年齢は70歳代後半、間もなく80歳代となり、
やがて「がん死亡年齢=寿命」の年齢に近くなっていく。
そうなれば「老いを憎めない」ように、
高齢者のがんに関する限り「がんもまた憎めない」存在になってくる。
このような状態になったとき「がんはもう解決に近づいた」と受けとめていいのではないか。
ただ、例外がある。小児がんとAYA世代、あるいは希少がん。
これらはなんとしても解決しなければならない、深刻な焦眉の問題である。
2.AI(人工知能)の医療への参入
AIは膨大なデータを瞬時に解析して一定の答えを導き出す人工知能である。
AIは膨大な情報を学習することによって病理組織診断だけでなく、画像診断、さらに治療面など広く医療面での貢献が期待される。AIは「ゲノム医療」の領域にも入ってくるであろう。
いずれにしても、AIは医療者の負担軽減に大いに役立つ。
ただし、AIの判断を的確に活用できる人材の育成が必要となる。
AIは老化の速度をコントロールすることも可能になる。
これで高齢化はさらに進むことになるであろう。
AIによってQOLの向上も可能になる。
例えばAIを駆使することで生活習慣の見直しや改善が進めば、
名実ともに「QOLの高い人生100年」の時代が目の前のものになってくる。
3.がんに代わり脅威となる疾病
死因1位のがんといえども、いずれ解決に向かう。
だが、世の中から病気がなくなることはない。
がんに代わり脅威となる疾患は何か?
私は認知症をはじめとする精神・神経系疾患ではないかと思う。
例えばうつ病、統合失調症、パーキンソン病、不眠症など。
他に筋委縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋委縮症など。
これらの疾患はWHOが発表した「死亡率とDALYの関係」が示すように、
疾患に伴う苦しみががんによる苦しみよりさらに大きく、
また苦しむ期間がずっと長い。
にもかかわらず、死に直結するものではないから世の関心を受けにくい。
だが、患者は「いっそ死ぬことができたら、どれほど楽か」
と思えるほどの苦しみに長く耐えていかねばならない。
DALYの高い疾患こそ、死に直結するがんにとって代わる
令和時代の病気として表立ってくると思う。
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