2019年02月27日
HCV撲滅間近? 肝臓専門医の今後は
非A非B型肝炎と言われ、治療方法がないおそるべき肝炎、C型肝炎と言われていたのに、飲み薬で撲滅できる時代になりました。隔世の感がします!
HCV撲滅間近? 肝臓専門医の今後は【平成の医療史30年◆C型肝炎編】
武蔵野赤十字病院・泉並木氏に聞く―Vol. 2
平成の医療史30年2019年2月14日 (木)配信 消化器疾患
泉並木氏
平成の30年間で大きく変わったC型肝炎の歴史。
直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の登場によって患者数は大幅に減少し、C型肝炎撲滅が間近に迫ってきたが、
専門家の見通しは……?
引き続き、武蔵野赤十字病院院長の泉並木氏の話を紹介する。
(聞き手・まとめ:m3.com編集部・河野祐子/2018年11月29日取材、全2回連載)
IFNフリー治療、ガイドライン委員会でもめた理由
――インターフェロン(IFN)フリー治療の登場によって、流れが一変しました。
IFNフリー治療は、C型肝炎治療の歴史の中でも最も大きな出来事と言えるでしょう。
2014年(平成26年)に最初のIFNフリー治療薬、ダクラタスビル(商品名:ダクルインザ)、アスナプレビル(商品名:スンベプラ)が出て、経口薬を半年間飲むだけで、90%という高いSVR率(ウイルス学的著効率)が得られるようになりました。
この時、東京医科歯科大学(当時)の榎本信幸先生(現山梨大学教授)らとC型肝炎ウイルス(HCV)の耐性変異というものを調べていたのですが、両剤とも薬剤耐性変異があると効かないということが分かりました。
そのため、治療前に薬剤耐性変異があるかないかを調べて、効かないと分かった患者さんには投与すべきではないと主張しました。
すると、日本肝臓学会の治療ガイドライン委員会でも議論になりました。
IFNがなくても効く薬なら制限しないでどんどん使ってあげたらいいのではないかという意見と、
効かない人に投与したら耐性変異が残って後々大変なのではないかという意見に割れたのです。
私たちには、薬剤耐性がある人に使ったら効かないし、
抗ウイルス薬はHCVを殺す薬ですから、いったん投与したら、これを逃れるために
さらに新たな耐性変異ができて治療が難しくなる
のではないかという考えがありました。
ガイドライン委員会で投票を募った結果、耐性変異を調べて効果があると分かった人に使いましょうということになりました。
まず、発癌リスクを見極めた上で、IFNで治療できる人なら、シメプレビル(商品名:ソブリアード)+Peg-IFN+リバビリンを選択するようにしました。
しかし、大もめでしたね。というのも、欧米ではアスナプレビルが認可されなかったので、世界の中で例がなくて、日本独自で指標を作らなくてはいけなかったからなんです。
ウイルス発見から30年で「治る病気」に
日本では世界に1年遅れて、2015年にレジパスビル・ソホスフビル(商品名:『ハーボニー』)が使えるようになりました。
国内の治験結果では、ウイルス学的著効(SVR)率がなんと『100%』でしたから、一気に進歩したというわけです。
1錠8万円、3カ月で670万円という価格も話題になりましたけれども、肝癌に進行する患者が減ったことを考えれば、それだけの価値があったという評価になります。
そこから先もさまざまな薬剤が出ましたが、やはりハーボニーのインパクトは大きかったですね。
IFNなしで、『3カ月薬を飲むだけで』ほとんどの人が『治る』というのは、まさにターニングポイントでした。
その後、ダクラタスビルとアスナプレビルの併用療法での治療失敗例に複雑な薬剤耐性変異ができて、
ハーボニーも奏効しないという症例が発生しました。
現状でも治癒に至らない方がいるという問題が残っています。
そこで、現在AMEDと厚生労働省の研究班で、全国の都道府県の肝疾患拠点病院から依頼を受けた症例についてHCVの薬剤耐性変異を調べて、結果をお返ししています。
この結果を参考にして、2回目の治療前に薬剤耐性変異を測定して、適切な薬剤を選択するという制度が行われています。
現在は、ほとんどの方がグレカプレビル・ピブレンタスビル(商品名:『マヴィレット』)で治っています。
特にP32の欠損がなければ治癒率が高い。
この薬剤で再治療を実施するか否かについては、
P32欠損の有無を測定した結果を参考に決定しているので、
問題はほとんど解決されてきています。
ウイルス発見からわずか30年で治るようになったということになります。
私は、検査法の進歩と普及、新薬の治験など、この30年間で全部体験しました。
C型肝炎治療の歴史が自分の医師としてのキャリアに重なっているのです。
医師にとって、これほど面白い時代はなかったのではないかと思っています。
C型肝炎撲滅が見えてきたが…
――30年後、C型肝炎はなくなっていると思いますか。
国内の感染者は限りなくゼロに近づいていくでしょう。
でも、完全制圧というのは難しいかもしれません。
世界保健機関(WHO)は2030年までの撲滅を目標に掲げていますが。
覚醒剤の回し打ち、入れ墨などによる再感染があるんですね。
いまだに透析施設、歯科クリニックで感染する危険性もゼロではありません。
近年は海外に行く日本人、日本を訪れる外国人が多くなりましたから、今まで国内で見られなかったゲノタイプ3、4も見られます。
潜在的キャリアの問題も残っています。
検診施設、かかりつけ医では、肝機能が悪い患者さんにはC型肝炎、B型肝炎の検査を当たり前のように実施しています。
問題は、症状がなく普通の生活を送っている方。
まだたくさんいると思いますね。
肝臓専門医の未来は?
――では、肝臓専門医の今後は?
C型肝炎が治せる時代になったおかげで患者さんの数が減り、肝臓専門医も減りました。
ただ、専門医の数が減ったせいか、私どもの病院に紹介されてくる肝臓癌の症例が減ったという実感はありません。
『最近、肝臓癌で紹介』されてくる方は、HCVもB型肝炎ウイルスも持っておらず、『脂肪肝、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)から癌に進行した症例』が多い。
脂肪肝で癌になる危険性の高い人をどうやって見分けるか、
肝癌への進行をどうやって防いでいくかということが大きな課題になっています。
30年たって、またスタート地点に?
現在、NASHには治療薬がありません。
診断しても、せいぜいビタミンEの投与くらい。
患者さんには「運動して食事制限してください」としか言えないのです。
私たち肝臓専門医からすると、現在の状況は、C型肝炎が「非A非B型肝炎」と呼ばれ、原因が分からず肝庇護剤を投与していた時代に似ているんですね。
30年たって、スタート地点に戻ったような感じがしています。今後、NASHの機序が解明されたり、治療薬が登場したりすれば、また状況も一気に変わってくるでしょう。(了)
HCV撲滅間近? 肝臓専門医の今後は【平成の医療史30年◆C型肝炎編】
武蔵野赤十字病院・泉並木氏に聞く―Vol. 2
平成の医療史30年2019年2月14日 (木)配信 消化器疾患
泉並木氏
平成の30年間で大きく変わったC型肝炎の歴史。
直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の登場によって患者数は大幅に減少し、C型肝炎撲滅が間近に迫ってきたが、
専門家の見通しは……?
引き続き、武蔵野赤十字病院院長の泉並木氏の話を紹介する。
(聞き手・まとめ:m3.com編集部・河野祐子/2018年11月29日取材、全2回連載)
IFNフリー治療、ガイドライン委員会でもめた理由
――インターフェロン(IFN)フリー治療の登場によって、流れが一変しました。
IFNフリー治療は、C型肝炎治療の歴史の中でも最も大きな出来事と言えるでしょう。
2014年(平成26年)に最初のIFNフリー治療薬、ダクラタスビル(商品名:ダクルインザ)、アスナプレビル(商品名:スンベプラ)が出て、経口薬を半年間飲むだけで、90%という高いSVR率(ウイルス学的著効率)が得られるようになりました。
この時、東京医科歯科大学(当時)の榎本信幸先生(現山梨大学教授)らとC型肝炎ウイルス(HCV)の耐性変異というものを調べていたのですが、両剤とも薬剤耐性変異があると効かないということが分かりました。
そのため、治療前に薬剤耐性変異があるかないかを調べて、効かないと分かった患者さんには投与すべきではないと主張しました。
すると、日本肝臓学会の治療ガイドライン委員会でも議論になりました。
IFNがなくても効く薬なら制限しないでどんどん使ってあげたらいいのではないかという意見と、
効かない人に投与したら耐性変異が残って後々大変なのではないかという意見に割れたのです。
私たちには、薬剤耐性がある人に使ったら効かないし、
抗ウイルス薬はHCVを殺す薬ですから、いったん投与したら、これを逃れるために
さらに新たな耐性変異ができて治療が難しくなる
のではないかという考えがありました。
ガイドライン委員会で投票を募った結果、耐性変異を調べて効果があると分かった人に使いましょうということになりました。
まず、発癌リスクを見極めた上で、IFNで治療できる人なら、シメプレビル(商品名:ソブリアード)+Peg-IFN+リバビリンを選択するようにしました。
しかし、大もめでしたね。というのも、欧米ではアスナプレビルが認可されなかったので、世界の中で例がなくて、日本独自で指標を作らなくてはいけなかったからなんです。
ウイルス発見から30年で「治る病気」に
日本では世界に1年遅れて、2015年にレジパスビル・ソホスフビル(商品名:『ハーボニー』)が使えるようになりました。
国内の治験結果では、ウイルス学的著効(SVR)率がなんと『100%』でしたから、一気に進歩したというわけです。
1錠8万円、3カ月で670万円という価格も話題になりましたけれども、肝癌に進行する患者が減ったことを考えれば、それだけの価値があったという評価になります。
そこから先もさまざまな薬剤が出ましたが、やはりハーボニーのインパクトは大きかったですね。
IFNなしで、『3カ月薬を飲むだけで』ほとんどの人が『治る』というのは、まさにターニングポイントでした。
その後、ダクラタスビルとアスナプレビルの併用療法での治療失敗例に複雑な薬剤耐性変異ができて、
ハーボニーも奏効しないという症例が発生しました。
現状でも治癒に至らない方がいるという問題が残っています。
そこで、現在AMEDと厚生労働省の研究班で、全国の都道府県の肝疾患拠点病院から依頼を受けた症例についてHCVの薬剤耐性変異を調べて、結果をお返ししています。
この結果を参考にして、2回目の治療前に薬剤耐性変異を測定して、適切な薬剤を選択するという制度が行われています。
現在は、ほとんどの方がグレカプレビル・ピブレンタスビル(商品名:『マヴィレット』)で治っています。
特にP32の欠損がなければ治癒率が高い。
この薬剤で再治療を実施するか否かについては、
P32欠損の有無を測定した結果を参考に決定しているので、
問題はほとんど解決されてきています。
ウイルス発見からわずか30年で治るようになったということになります。
私は、検査法の進歩と普及、新薬の治験など、この30年間で全部体験しました。
C型肝炎治療の歴史が自分の医師としてのキャリアに重なっているのです。
医師にとって、これほど面白い時代はなかったのではないかと思っています。
C型肝炎撲滅が見えてきたが…
――30年後、C型肝炎はなくなっていると思いますか。
国内の感染者は限りなくゼロに近づいていくでしょう。
でも、完全制圧というのは難しいかもしれません。
世界保健機関(WHO)は2030年までの撲滅を目標に掲げていますが。
覚醒剤の回し打ち、入れ墨などによる再感染があるんですね。
いまだに透析施設、歯科クリニックで感染する危険性もゼロではありません。
近年は海外に行く日本人、日本を訪れる外国人が多くなりましたから、今まで国内で見られなかったゲノタイプ3、4も見られます。
潜在的キャリアの問題も残っています。
検診施設、かかりつけ医では、肝機能が悪い患者さんにはC型肝炎、B型肝炎の検査を当たり前のように実施しています。
問題は、症状がなく普通の生活を送っている方。
まだたくさんいると思いますね。
肝臓専門医の未来は?
――では、肝臓専門医の今後は?
C型肝炎が治せる時代になったおかげで患者さんの数が減り、肝臓専門医も減りました。
ただ、専門医の数が減ったせいか、私どもの病院に紹介されてくる肝臓癌の症例が減ったという実感はありません。
『最近、肝臓癌で紹介』されてくる方は、HCVもB型肝炎ウイルスも持っておらず、『脂肪肝、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)から癌に進行した症例』が多い。
脂肪肝で癌になる危険性の高い人をどうやって見分けるか、
肝癌への進行をどうやって防いでいくかということが大きな課題になっています。
30年たって、またスタート地点に?
現在、NASHには治療薬がありません。
診断しても、せいぜいビタミンEの投与くらい。
患者さんには「運動して食事制限してください」としか言えないのです。
私たち肝臓専門医からすると、現在の状況は、C型肝炎が「非A非B型肝炎」と呼ばれ、原因が分からず肝庇護剤を投与していた時代に似ているんですね。
30年たって、スタート地点に戻ったような感じがしています。今後、NASHの機序が解明されたり、治療薬が登場したりすれば、また状況も一気に変わってくるでしょう。(了)
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