2019年01月22日
冠動脈石灰化スコア(CACスコア)の隠れた実力
冠動脈石灰化スコア(CACスコア)の隠れた実力
肥満の人、
コレステロール値が気になる、
家族に狭心症、心筋梗塞にかかった人がいる
方は読んでみてください。
単純CTによる冠動脈石灰化スコアの隠れた実力
造影剤使わず低線量、スコアがゼロなら「超低リスク」
2018/12/27 高志 昌宏=シニアエディター
2018年11月に発表された米国の新しいコレステロール管理ガイドラインでは、
冠動脈石灰化(coronary artery calcium:CAC)スコアによるリスク層別化が推奨に加えられた。
欧米ではCACスコアと心血管イベントの関連について多くのエビデンスがあり、リスク評価指標としての臨床的意義が確立している。我が国でも活用できそうだ。
桜橋渡辺病院の小山靖史氏
「健診で異常が指摘されたといった集団の場合、動脈硬化性疾患の好発年齢となる60歳代になっても、
冠動脈石灰化の指標であるCACスコアがゼロなら男性の95%、女性の98%は冠動脈疾患をほぼ否定できる。CACスコアは心血管疾患のより精緻なリスク評価を可能にする有用な指標で、
比較的低リスクな1次予防の人の追加の検査や治療方針の決定に威力を発揮する」
こう話すのは、桜橋渡辺病院(大阪市北区)心臓・血管センター画像診断科長の小山靖史氏だ。
同病院には、明らかな冠動脈疾患の症状はないが健診で血液生化学や心電図の異常を指摘されたとして、
循環器系の精査を目的とした紹介患者が多く受診する。
このような患者に対して小山氏は、まず造影剤が不要な単純CTで心臓と臍部を撮影。
冠動脈石灰化と腹部肥満を評価した上で、追加の検査や治療方針を考える。
図1は、CACスコアがゼロおよび1〜100の患者について、冠動脈CTで有意狭窄(50%以上)病変の存在が否定された割合を見たもの。CACスコアがゼロであれば女性は年齢にかかわらず、男性でも60歳代程度までは、有意狭窄が見つかる確率はかなり低いことが分かる。
「高齢男性を除けば、CACスコアがゼロなら造影剤を使う冠動脈CTまで行う必要はまずないだろう」(小山氏)。
CACスコアがゼロであれば、女性は年齢にかかわらず、男性でも60歳代程度までは、有意狭窄が見つかる率はかなり低い。有意狭窄否定率が低くCACスコアでは冠動脈疾患を否定できない階層を赤字で示した。(小山氏による、図はクリックで拡大)
一方でスコアが1以上であれば、一定の割合で有意狭窄が見つかってくる。CACスコアは動脈硬化の指標であり、一般に若年層では低値だ。その若年層でスコアが高値の場合は年齢不相応な石灰化ということになり、冠動脈CTを含めた精査が必要という。
桜橋渡辺病院では検査症例がデータベース化されており、新たな患者でCACスコアを調べると有意狭窄が見つかる確率が自動的に算出され、電子カルテに表示される。「CACスコアによる判定を説明した上で、性・年齢、糖尿病や高血圧といった危険因子、さらには社会的状況も踏まえ患者とよく話し合って、冠動脈CTや負荷試験まで行うか、コレステロールが高ければどの程度の強度のスタチン治療を行うかなど、その後の方針を決めている」と小山氏。
CACスコアがゼロなら冠動脈にプラークはない
CTによる冠動脈石灰化の評価で最も一般的な方法は、提唱者の名前が冠されたアガトストン・スコアだ。
提唱は1990年で、CACスコアといえば通常はアガトストン・スコアを指す。
1980年代に実用化された電子ビームCTによってCTの時間分解能が飛躍的に高まり、心電図と同期させた心臓の断層撮影が可能になった。
現在ではマルチスライスCTでも同等な精度で計測できるようになっている。
75歳男性の心臓単純CT画像
冠動脈の左主幹部、前下行枝、回旋枝に高度の石灰化を認める。
本症例のCACスコアは約573で、冠危険因子として高血圧、喫煙、脂質異常症がある。
内臓脂肪面積は175.5cm2でメタボリック症候群の診断基準を満たしていた。
(小山氏による写真)
同スコアでは、各スライスでCT値が130HU以上、面積が1mm2以上ある高吸収域を有意な石灰化領域とし、その面積に、各石灰化領域の最大CT値によって1から4の重み付けの係数を乗じる。これを、冠動脈起始部から心尖部まで3ミリ間隔で撮影された全スライスで行い、合算する。現在のCT装置では計測はほぼ自動化されており、数分で結果が出るそうだ。
石灰化は動脈硬化の最終像というイメージがあるが、実は炎症や組織の破綻・修復に伴う微細な石灰化は、比較的早期から始まっている。また、病理所見では石灰化所見の数倍のプラークが認められるが、存在部位は必ずしも一致しない。そこでCACスコアは、冠動脈全体の動脈硬化の程度を示す指標と見なされている。
虚血性心疾患対策を国是とする米国では冠動脈石灰化に関してもかなり以前から多くの研究が行われ、エビデンスも豊富だ。既に2006年、米国心臓協会(AHA)は無症状の1次予防の人を対象とした冠動脈石灰化の評価について、表1のようにまとめている。
表1 CTによる冠動脈石灰化プラーク評価の解釈と指針
(1)CACスコアがゼロなら、不安定プラークを含めた動脈硬化性プラークの存在は高率で否定できる。
(2)CACスコアがゼロなら、有意狭窄病変は高率で否定できる(陰性的中率95〜99%)
(3)CACスコアがゼロなら、今後2〜5年間の心血管イベントのリスクは低い(年間0.1%)
(4)CACスコアが1以上なら、冠動脈に動脈硬化性プラークが存在する。
(5)冠動脈石灰化の量が多いほど、性・年齢にかかわらず動脈硬化性プラークの量も多い。
(6)冠動脈石灰化の総量は動脈硬化性プラークの総量との関連が強いものの、
動脈硬化性変化の全体量は過小評価している。
(7)CACスコアが高ければ(100超)、今後2〜5年間の心イベントのリスクは高い(年間2%超)
(8)冠動脈石灰化の評価により、標準的な中等度リスクを持つ人のリスク予測能が改善される。
CACスコアの測定は、冠動脈イベントが中等度リスク(年間1.0〜2.0%)の人に対して、
リスク再評価を伴う臨床上の意思決定のときに考慮すべきである。
(9)CACスコアが1以上の患者において、リスク層別化の補助を超えた追加の検査
(負荷試験や冠動脈カテーテル検査など)の判断は、CACスコアだけでは行うべきでない。
CACスコアは狭窄の重症度との関連はほとんどなく、
病歴や広く使われている他の臨床的基準で判断すべきである。
(出典:Circulation. 2006;114:1761-91.)
肥満の人、
コレステロール値が気になる、
家族に狭心症、心筋梗塞にかかった人がいる
方は読んでみてください。
単純CTによる冠動脈石灰化スコアの隠れた実力
造影剤使わず低線量、スコアがゼロなら「超低リスク」
2018/12/27 高志 昌宏=シニアエディター
2018年11月に発表された米国の新しいコレステロール管理ガイドラインでは、
冠動脈石灰化(coronary artery calcium:CAC)スコアによるリスク層別化が推奨に加えられた。
欧米ではCACスコアと心血管イベントの関連について多くのエビデンスがあり、リスク評価指標としての臨床的意義が確立している。我が国でも活用できそうだ。
桜橋渡辺病院の小山靖史氏
「健診で異常が指摘されたといった集団の場合、動脈硬化性疾患の好発年齢となる60歳代になっても、
冠動脈石灰化の指標であるCACスコアがゼロなら男性の95%、女性の98%は冠動脈疾患をほぼ否定できる。CACスコアは心血管疾患のより精緻なリスク評価を可能にする有用な指標で、
比較的低リスクな1次予防の人の追加の検査や治療方針の決定に威力を発揮する」
こう話すのは、桜橋渡辺病院(大阪市北区)心臓・血管センター画像診断科長の小山靖史氏だ。
同病院には、明らかな冠動脈疾患の症状はないが健診で血液生化学や心電図の異常を指摘されたとして、
循環器系の精査を目的とした紹介患者が多く受診する。
このような患者に対して小山氏は、まず造影剤が不要な単純CTで心臓と臍部を撮影。
冠動脈石灰化と腹部肥満を評価した上で、追加の検査や治療方針を考える。
図1は、CACスコアがゼロおよび1〜100の患者について、冠動脈CTで有意狭窄(50%以上)病変の存在が否定された割合を見たもの。CACスコアがゼロであれば女性は年齢にかかわらず、男性でも60歳代程度までは、有意狭窄が見つかる確率はかなり低いことが分かる。
「高齢男性を除けば、CACスコアがゼロなら造影剤を使う冠動脈CTまで行う必要はまずないだろう」(小山氏)。
CACスコアがゼロであれば、女性は年齢にかかわらず、男性でも60歳代程度までは、有意狭窄が見つかる率はかなり低い。有意狭窄否定率が低くCACスコアでは冠動脈疾患を否定できない階層を赤字で示した。(小山氏による、図はクリックで拡大)
一方でスコアが1以上であれば、一定の割合で有意狭窄が見つかってくる。CACスコアは動脈硬化の指標であり、一般に若年層では低値だ。その若年層でスコアが高値の場合は年齢不相応な石灰化ということになり、冠動脈CTを含めた精査が必要という。
桜橋渡辺病院では検査症例がデータベース化されており、新たな患者でCACスコアを調べると有意狭窄が見つかる確率が自動的に算出され、電子カルテに表示される。「CACスコアによる判定を説明した上で、性・年齢、糖尿病や高血圧といった危険因子、さらには社会的状況も踏まえ患者とよく話し合って、冠動脈CTや負荷試験まで行うか、コレステロールが高ければどの程度の強度のスタチン治療を行うかなど、その後の方針を決めている」と小山氏。
CACスコアがゼロなら冠動脈にプラークはない
CTによる冠動脈石灰化の評価で最も一般的な方法は、提唱者の名前が冠されたアガトストン・スコアだ。
提唱は1990年で、CACスコアといえば通常はアガトストン・スコアを指す。
1980年代に実用化された電子ビームCTによってCTの時間分解能が飛躍的に高まり、心電図と同期させた心臓の断層撮影が可能になった。
現在ではマルチスライスCTでも同等な精度で計測できるようになっている。
75歳男性の心臓単純CT画像
冠動脈の左主幹部、前下行枝、回旋枝に高度の石灰化を認める。
本症例のCACスコアは約573で、冠危険因子として高血圧、喫煙、脂質異常症がある。
内臓脂肪面積は175.5cm2でメタボリック症候群の診断基準を満たしていた。
(小山氏による写真)
同スコアでは、各スライスでCT値が130HU以上、面積が1mm2以上ある高吸収域を有意な石灰化領域とし、その面積に、各石灰化領域の最大CT値によって1から4の重み付けの係数を乗じる。これを、冠動脈起始部から心尖部まで3ミリ間隔で撮影された全スライスで行い、合算する。現在のCT装置では計測はほぼ自動化されており、数分で結果が出るそうだ。
石灰化は動脈硬化の最終像というイメージがあるが、実は炎症や組織の破綻・修復に伴う微細な石灰化は、比較的早期から始まっている。また、病理所見では石灰化所見の数倍のプラークが認められるが、存在部位は必ずしも一致しない。そこでCACスコアは、冠動脈全体の動脈硬化の程度を示す指標と見なされている。
虚血性心疾患対策を国是とする米国では冠動脈石灰化に関してもかなり以前から多くの研究が行われ、エビデンスも豊富だ。既に2006年、米国心臓協会(AHA)は無症状の1次予防の人を対象とした冠動脈石灰化の評価について、表1のようにまとめている。
表1 CTによる冠動脈石灰化プラーク評価の解釈と指針
(1)CACスコアがゼロなら、不安定プラークを含めた動脈硬化性プラークの存在は高率で否定できる。
(2)CACスコアがゼロなら、有意狭窄病変は高率で否定できる(陰性的中率95〜99%)
(3)CACスコアがゼロなら、今後2〜5年間の心血管イベントのリスクは低い(年間0.1%)
(4)CACスコアが1以上なら、冠動脈に動脈硬化性プラークが存在する。
(5)冠動脈石灰化の量が多いほど、性・年齢にかかわらず動脈硬化性プラークの量も多い。
(6)冠動脈石灰化の総量は動脈硬化性プラークの総量との関連が強いものの、
動脈硬化性変化の全体量は過小評価している。
(7)CACスコアが高ければ(100超)、今後2〜5年間の心イベントのリスクは高い(年間2%超)
(8)冠動脈石灰化の評価により、標準的な中等度リスクを持つ人のリスク予測能が改善される。
CACスコアの測定は、冠動脈イベントが中等度リスク(年間1.0〜2.0%)の人に対して、
リスク再評価を伴う臨床上の意思決定のときに考慮すべきである。
(9)CACスコアが1以上の患者において、リスク層別化の補助を超えた追加の検査
(負荷試験や冠動脈カテーテル検査など)の判断は、CACスコアだけでは行うべきでない。
CACスコアは狭窄の重症度との関連はほとんどなく、
病歴や広く使われている他の臨床的基準で判断すべきである。
(出典:Circulation. 2006;114:1761-91.)
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