昭和という時代

タイトルから想像されるように、タクシー運転手が主人公のドラマです。

このドラマの主人公は緒形拳さん。
一流商社に勤めていたけれど、ある理由から退社して、タクシー運転手をしています。

この辞めた理由は、リストラを実行していたから、と思ってしまいまいがちですが、時代はまだバブル前。
人員整理の片棒をかついだのではありません。

この緒形拳さん演じる運転手が運転手仲間と繰り広げる人生模様です。

脚本は山田太一さん。鋭いセリフがちりばめれ、名優たちが演じています。

さて、今回はその第2回を取り上げたいと思います。
男というものは、美人に弱いです。
緒方拳さん演じるタクシー運転手、朝田英一も例外ではありません。


朝田はある夜、大原麗子演じる訳ありの女性を乗客にします。

「とにかくまっすぐ走って」
という彼女は、朝田にとっては上客です。
しかし、彼女の訳ありの様子が気になります。

朝田の予感どおり彼女は海で自殺しようとします、朝田に助けれます。

彼女から
「100万円、私に貸せる」
と言われて
「事情によっては貸すから、必要な金額を言ってくれ」
と切り返します。

彼女が必要な金は200万円であることを知り、その金を工面するために朝田は社長に給料の前借を頼みます。この社長を演じているのが辰巳柳太郎さん。
緒方拳さんと辰巳柳太郎さんのやり取りは絶品です。

社長から前借を断られて、朝田は他で金を工面し、彼女に200万円を渡します。

さて、朝田の同僚に村田という男がいます。この男、見合いをたくさんしているのですが、断られ続けています。
その彼に班長の辻井が見合いを勧めます。相手はタクシー運転手の休憩所の食堂に勤める大里美代子。榊原郁恵さんが演じています。

この二人、いったんは、互いが
「相手のことが気に入らない」
と言って断るのですが、
いつしか付き合い始めています。

これを辻井が見つけてしい激怒することになります。
付き合いだした理由を問いただされて、互いに
「アラが見えて気に入らないけど、他に女がいねえから一緒になるっつうのか。」
とか
この程度が自分に合っている」
とか言う二人に、辻井は

「結婚なんつぅのはね、決心なんだよ。決心してするもんなんだよ。
　ズルズル、しょうがないから一緒になるなんつぅのは、ダメなんだよ。
　決心して、この女が一番好きだ。この男が一番好きだ。
　嘘でもそう思い込んで一緒になるもんなんだ。
　そりゃ世間にはこれだけ人間がいるから、当の相手よりイイのがいるかも知れねえ。
　そりゃいるのは当たり前だ。でもよ、こいつがこの世の中で一番好きだ。そういう風に思い込むんだ。」
と言い切り、
「互いにそう思えるようになるまで結婚を許さない」
と言うのでした。

結局は二人でそのように思うことになり、めでたく結ばれるのでした。

一方、男に手切れの金を渡した大原麗子さん演じる女性は
朝田宛の手紙を事務所に置いて、男と一緒に旅に出て、朝田の前から消えます。

最後、朝田は社長に向かって
「やはり、恋でした」
と言うのでした。

さて、この作品で大原麗子さんの彼氏役は役所広司さん。
ちょっと鋭い目つきですが、ほとんどセリフがありません。

今の、セリフのうまい役所さんからは想像できません。

また、この作品で、辰巳柳太郎さんと緒方拳さんの師弟競演が見ものです。

いかにもやり手ながら、ひょうひょうとして掴みどころのない辰巳柳太郎さん演じる社長。
人間味がありそうで、断るときには何の躊躇もなく断る。
ひとつひとつの演技がまさに、タクシー会社の社長さんはこんな感じか、と思わせます。

一方で、元商社マンながら、ワケあって退職して、タクシー運転手をしている演じる男。
緒方さんの演技が光ります。

互いが互いの心の内を探りながら、話をしているという演技が、まさに演技と思えない素晴らしさです。