2019年10月08日
できるのか、脳のクロックアップ
できるのか、脳のクロックアップ
夢見たことは無いだろうか、自分だけ時間の流れが、ゆっくり見えたらいいのにと、高速で飛んでくるボールや振り下ろされる竹刀、いきなり繰り出されるパンチが高速度カメラで撮ったようにゆっくり見えたらいいのにと。
反射神経が鈍く球技が苦手だった子供の頃の私はいつもそんな夢想に浸っていた。どんな攻撃やパンチや凶器もよけることができ、多人数相手でも相手の攻撃が当たらない方法は、自分の時間軸が伸びればいいと。
加速装置
加速装置は、故、石森章太郎先生の「サイボーグ009」に出てくる島村ジョーに施されたサイボーグ手術だ。
装置をオンにするとあまりに高速で動くので周りからは動作の結果しか見ることが出来ず、映画のコマが飛んだように姿が消えてしまう。
その中でも印象に残っているエピソードがある。009(ジョー)が目を覚ますと、皆が止まってしまっている。すべてが静止した世界で一人取り残されてしまう。
絶望しかけた頃にギルモア博士の手紙を発見する。そこには加速装置の一部、脳の制御系の故障により加速装置が切れなくなっているとのメッセージで謎が解ける。009が永遠と感じて絶望した時間はほんの数秒でしかなかったが、加速中の彼の脳は永遠の時間に感じていたのだ。
時間延長現象
まあ、そこまでは無理としても、反射神経や身体動作の速さは脳の処理速度の速さ次第なのではないだろうか。ならば、それを鍛える方法がみつかれば加速した世界も夢じゃないのか。実は、脳の処理速度が上がって時間延長現象が起きることがある。経験のある方もいるかもしれないが、事故が起きてる最中や死にかけてる時だ。いきなりすべてはスローモーションになり落下したり、激突したり、していくのを鮮明に認識する現象だ。もし、これを人為的に起こすことが出来れば加速装置も夢じゃなくなる。
見えなければ何も出来ない
自分の反応時間より早く物事が起こるとたいていは反応できない。気付いたら打たれてたり、終わってたり。
脳が認識して処理できないと何もできない。なので、もし、事故など危機的状況で脳が加速するなら処理能力も上がるはず、との仮説で時間延長現象の実験を行った科学者がいる。
ベイラー医科大学のDavid Eagleman氏は、すごく夢のある面白い実験を行った。手首に時計型の装置を付けて地上45メートルから紐なしで落とされる。(運が悪くなければ)大きなネットの上に着地する。
イーグルマン先生の期待通り被験者達は大変な恐怖を感じて時間延長現象が起きたと報告した。だが、結果は期待したようなものではなかった。
具体的には被験者は腕時計を付けて通常読み取れないほどの速度で数字を表示する。そしてバンジージャンプを行い落ちながら腕時計の数字を読み取れるか実験したのだ。
時間延長現象が起きていれば加速した脳は高速で動く数字を見ることが出来たはずだが、何度やっても一人も見ることは出来なかった。だが、時間延長現象は起きていたという。これはどう考えればいいのか。
科学者の出した仮説的結論は時間延長現象は脳の錯覚であり、実際に脳が加速して時間が伸びているわけではなく、記憶のされ方が通常とは異なるのだ、とのこと。危機的状況の時に脳がターボモードには入るようだが時間間隔を伸ばすのではなく記憶領域をギュンと引き延ばして通常より詳細に記憶に焼き付けていく、なので後から思い返したときに時間がスローモーションで過ぎたように感じるようなのだ。
残念ながら、危険なトレーニングで自らを追い込み時間延長現象で脳を加速させて、相手のパンチが見えるようになると言うのは科学的にありえない話だった。
しかし、武術、武道の世界は奥深い。そんなありえない話も生理学も脳科学も無い時代に経験知として時間を操作して武術に活かしていた痕跡がある。それが、無拍子。
次回、無拍子
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