2018年10月22日
『オヤジおこし』第5話 父と息子の対立と葛藤
○せいの時計店・居間(夜)
時生が夕飯を食べている。
清野が入ってきて、
清野「遅かったですね」
時生は黙って食べている。
清野「この間は、ぶったりしてごめんね」
時生は手を止める。
時生「……」
清野「この町をでてゆくのですか?」
時生、うなずく。
時生「寂しくなります」
清野、お茶を入れる。
清野「僕は、一人暮らししたことないんです。だからちょっと憧れます」
清野は時生の前に湯呑を置く。
清野「好きな町の好きな家に住んで、好きなもの食べて好きなことして。自由って素晴らしいですね。好きなことドンドンやらないと人生すぐに終わっちゃいます」
時生「……」
清野「時間って貴重ですね」
清野、お茶を飲む。
○同・夫婦の部屋(夜)
清野がたんすの引き出しをあける。
と、見慣れない箱。
清野、箱を開けてみる。
「インスピレーション」と書かれた取扱い説明書。
清野「インスピレーション?」
取扱い説明書をどけると、女性用大人のおもちゃ。
清野、手が震える。
と、光が鼻歌を歌いながら入ってくる。
清野はあわてて引出をしまうが、指をはさんでしまう。
清野「イタ!」
悶絶する清野。
光「だいじょぶ?」
清野「だいじょぶじゃないです」
光、おもちゃの箱に気付き、
光「あ〜ん、みつかっちゃったん〜」
光、丁寧におもちゃの箱をしまう。
光「通販で一番売れてるっていうから何かと思ったらコレだったの。てへ」
清野「光さんはどこまで自由な人なんですか」
光「やだー。まだ試してないの」
清野「僕は、光さんの何なんですかっ」
光「夫でしょ」
清野「僕のムスコは傷つきました」
光「やだ、ごめん」
清野「僕のムスコに謝ってください」
光「ごめんね、ごめんね〜」
清野、メガネを触る。
清野「僕は、僕は……」
清野、光を押し倒す。
光「やーん」
喜ぶ光。
清野、動きを止める。
清野「お風呂入ってきます」
○同・風呂場
墨で書かれた「故障中」の張り紙。
清野「忘れてました」
○かめの湯・外観(夜)
○同・中(夜)
清野、脱衣所でキチンと服をたたみ、メガネをそっと置く。
清野がタオルを腰に巻いて入っていく。
と、時生が湯船に浸かっている。
清野「おー、奇遇ですねー」
時生、タオルを顔にかける。
清野は石鹸で身体を洗い、お湯をかぶってから湯船につかる。
清野「一緒にお風呂に入るのなんて、何年ぶりでしょう」
時生「……」
清野「時生は小さいころお風呂が嫌いでね。入れるのに苦労しました」
時生「……」
清野「お風呂でウンチしちゃうんですよ。僕潔癖だから死ぬかと思ったけど、不思議なことに時生のウンチだけは大丈夫でした」
時生「……」
清野「時生は、広告のデザイナーになりたい んですよね?」
時生「……」
清野「僕は、実は、商社マンになりたかったんです。商社マンになって、世界を股にかけてビジネスをするのに憧れていました。アメリカとかヨーロッパとか、アフリカとか!」
時生「全然違うじゃん」
清野「そうですね。高校卒業して、時計屋を継いで……お見合いして、光さんと結婚して、時生が生まれて。あっという間に21年経っちゃいました」
時生「それでいいの?」
清野、顔を洗って、
清野「光さんと時生が幸せなら」
時生「父ちゃんは?」
清野「……」
時生、湯船を出る。
清野、時生の背中を見ている。
清野「時間が経つのは早いですね……」
壁に、親亀の上に子亀が乗っている絵。
○せいの時計店・夫婦の部屋(夜)
清野がふすまを開ける。
光がイビキをかいて寝ている。
清野、ため息。
○同・書斎(夜)
清野が硯で墨をすっている。
清野、真剣な顔。
清野、筆に墨をつける。
清野、半紙に「欲情」と書く。
……続く。
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
齋藤なつ
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