2018年10月19日
『オヤジおこし』第2話 父と息子の対立と葛藤
○美術大学・全景
○同・カフェテラス
数人の学生の中にリクルートスーツ姿の時生。
学生「いいよなぁ、時生は実家が時計屋だろ?最悪そこで働けばいいじゃん」
時生「絶対イヤだね」
学生「なんで?」
時生「世界が狭すぎるだろ?生まれ育った町で一生終わるなんてぞっとするよ」
○せいの時計店・店内
クマのぬいぐるみを椅子に座らせている清野。
時生の声「俺は、広告のデザイナーになってデカイ仕事をして有名になる。地味な時計屋で一生終わるなんてまっぴらごめんだ」
クマのぬいぐるみに敬礼をする清野。
○カフェテラス
時生、紙コップを握りつぶす。
○キャバクラ・外観(夜)
○同・店内(夜)
清野、犬飼、あけみ(22)、松尾(55)、中島(53)、が酒を飲んでいる。
あけみ「ゆるキャラなんてどうですか?」
犬飼「ゆるキャラ?」
あけみ「たとえば〜、トキボンとか!」
犬飼「トキボン、いいね〜」
松尾と中島うんうんとうなずく。
清野、黙って酒を飲んでいる。
あけみ「こんなかんじ〜」
あけみがコースターの裏に置き時計のイラストを描く。
犬飼「あけみちゃん、天才!かわいいだけじゃなくて頭もいいし、絵もうまいんだから天は二物を与えずってあれウソだね!ガハハハ」
松尾と中島も笑う。
あけみが清野を見て、
あけみ「お客さんはどう思います?」
清野「トキノ荘通りのトキはわかります。でも、ボンって何ですか?」
あけみは、イラストにクチヒゲを描きながら、
あけみ「うーん、お客さんのお店は確か時計屋さんでしょ。時計がボーンって鳴るからトキボン、なんちゃって」
犬飼、松尾、中島、爆笑。
清野はメガネに触る。
あけみ「あ、やだ、怒ってる?」
清野「怒ってません」
あけみ「怒ってる〜」
あけみが清野の手に触る。
清野はおしぼりで触られた手をふく。
あけみ「お客さん、へん!」
犬飼「そう、変なの、こいつ」
清野「時間の無駄だ。というか人生の無駄だ。帰ります」
清野は財布を出す。
あけみ「えー、帰っちゃうの〜。もうちょっといてよ〜」
犬飼「いいところなのに、帰るなよリーダー」
あけみ「リーダー?」
犬飼「そう、トキノ荘通り商店街、町おこしのリーダー」
清野「僕はリーダーじゃありません」
犬飼「まーまーまー、とにかくトキボンの線で行こうや。トキボンをはやらせて人集め、決まり!さ、乾杯乾杯」
あけみ、犬飼、松尾、中島がグラスを合わせる。
4人「かんぱーい」
清野はおしぼりで手をふく。
○トキノ荘通り・全景
人気のない商店街。
トキボン(とぼけた時計のキャラクター、クチヒゲが特徴)のポスターやらぬいぐるみやらが散乱している。
○せいの時計店・店内
清野、犬飼が腕組みをしている。
二人の間にトキボンのぬいぐるみ。
犬飼「絶対流行ると思ったんだがなー」
清野「何がいけなかったんでしょう。このゆるキャラ全盛の時代に……」
犬飼「残ったのは借金だけか……」
清野「デザインがまずかったんじゃないでしょうか。もっとキチンとした人に頼んだ方が良かったんじゃ……」
犬飼「俺は好きだぜ、あけみちゃんの絵」
清野「タダほどこわいものはないですね」
犬飼の腹がグーと鳴る。
犬飼は腹を押さえて、
犬飼「なあ、腹減らないか?」
○ラーメン「松尾」・外観
○同・店内
カウンターで松尾がニコニコしている。
時生がラーメンをすすっている。
犬飼、清野が入ってくる。
犬飼「ちゃーっす。お、時生じゃん」
時生が気づいて軽く挨拶する。
犬飼と清野がテーブル席につく。
松尾が水を運んでくる。
犬飼「ラーメン2つとギョーザ1つ」
松尾「あいよ」
犬飼「(時生に向かって)就職活動してんだって?」
時生、軽くうなずく。
犬飼「せいの時計店に就職しちゃえばいいじゃん、なー」
犬飼、清野に同意を求める。
清野、黙って水を飲む。
時生「俺は、オヤジみたいにはなりたくないから」
清野、松尾、動きが止まる。
犬飼「お前、言っていいことと悪いことがあるぞ!」
時生「俺は、一生ここで終わるなんてまっぴらごめんです。こんなさびれた商店街、早くなくなっちゃえばいいのに」
清野が立ち上がり、時生に平手打ちする。
ラーメンのどんぶりが揺れる。
松尾「ああ!」
清野「謝りなさい。ここの商店街の人たちに謝りなさい」
犬飼、松尾が清野を見つめている。
時生「ダサイんだよ。オヤジも、この商店街も。吐き気がする」
時生、荷物を持って出ていこうとする。
トキボンのぬいぐるみが床に落ちる。
清野「時生!」
時生がぬいぐるみを蹴飛ばし、出ていく。
店のドアがピシャッと閉まる。
清野「すみません」
清野、頭を下げる。
清野、殴った手を反対の手で押さえる。
犬飼「俺が余計なこといっちまったから……」
犬飼、ぬいぐるみを拾う。
清野、メガネに触る。
清野「僕、町おこしのリーダーやらせていただきます」
犬飼「え?」
清野「ご協力、よろしくお願いします」
犬飼「やった!よろしく、よろしく!」
犬飼、拍手する。
犬飼「まっちゃん、ビール、ビールだよ、何ボーっとしてんだよ」
松尾、あわててビールの用意。
……続く。
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
齋藤なつ
ホームページ作成サービス「グーペ」
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