2018年10月18日
『オヤジおこし』第1話 父と息子の対立と葛藤
登場人物
清野清(50)時計屋さん
清野時生(21)その息子
清野光(47)その妻
犬飼次郎(50)タバコ屋さん
小田信子(50)区役所の職員
あけみ(22)キャバクラ嬢
松尾(55)ラーメン屋さん
中島(53)お風呂屋さん
第1話
○トキノ荘通り・全景(朝)
シャッターが閉まっている商店街。
野良猫がニャーと鳴く。
○せいの時計店・外観(朝)
スズメがチュンチュンと鳴く。
空き缶の転がる音。
○同・店内(朝)
柱時計、置時計、腕時計が陳列されている。
カチコチと時計の音。
柱時計がボーンと7時を告げる。
清野清(50)がシャッターをガラガラガラッと開ける。
清野は髪をピッチリ七三に分けて、メガネをかけている。
○同・居間(朝)
ちゃぶ台の上に朝食が用意されている。
清野光(47)が味噌汁を運んでくる。
光「父ちゃん、ごはんだよ」
光の親指が、お椀の中に入ってしまう。
清野がお椀を見て、
清野「手を洗うとき、爪ブラシ使ってますか?」
光はエプロンで指をふきながら、
光「はい、つかってまーす!」
清野「うそをついてもわかります」
光はべーと舌を出す。
清野「今、味噌汁の中に指が入りました」
光「そう?ぜんぜん気が付かなかったけど」
清野はメガネに触る。
清野「親指の第一関節まで入りました」
清野はお椀をお盆に戻して立ち上がる。
○同・台所(朝)
清野がお椀を電子レンジに入れる。
レンジに1分かける。
腕組みして待っている清野。
電子レンジがチンという。
清野「よし、これで殺菌完了」
○同・居間(朝)
清野時生(21)が入ってくる。
時生はリクルートスーツを着ている。
光代がテレビを見ながら、
光「お、ビシッと決まってるねぇ」
時生、横目で朝ごはんを見る。
清野が来て、
清野「ネクタイが曲がっています」
時生、無視。
光「ネクタイが曲がってるって」
時生、めんどくさそうにネクタイを直す。
清野、正座でご飯を食べる。
と、犬飼次郎(50)がガラス戸の向こうに顔を出す。
犬飼の声「ちゃーっす!」
清野「おう」
清野がガラス戸を開ける。
犬飼が清野にキャバクラのチラシを見せる。
清野は怪訝な顔でチラシを見る。
犬飼「見学にいかねえか?」
清野「ちょっと待っててくださいね。僕に5分ください」
清野は犬飼に手でパーをしてみせる。
時計は7時27分を示している。
清野、ガラス戸を閉める。
清野は正座でご飯を食べながら、
清野「(時生に向かって)就職活動はうまくいってますか?」
時生は無視してご飯を食べている。
光「がんばってるよね〜」
清野「今の人は仕事を選び過ぎてるんじゃないですか」
光「なによ、就職活動したことないくせに」
清野「僕の場合は選んでる余裕なんかなかったんです」
光「はいはい。高校生のときにお父さんが亡くなって、仕方なく時計屋をついだんだもんね」
清野「だから時生にはなんとなく仕事を選んでほしくないんです。本当に好きなことを……」
時生が箸を置く。
時生「ごちそうさま」
光「はーい」
清野「まだ話が終わってません」
時生は立ち上がり、
時生「いってきます」
清野は時計を見て、ご飯をかき込む。
時計は7時31分を示している。
○同・店内(朝)
清野と犬飼が座って話している。
犬飼「町おこしの起爆剤にキャバクラを持ってくるってのはどうだい?リーダー」
清野「キャバクラ、ですか?リーダーってなんですか、やめてください」
犬飼「キャバクラを売りにして町を活性化させようって企画、どうだい?いいアイデアだろ?」
清野「うーん。男性客が集まるかもしれませんが、この町のイメージに合ってるかどうか」
犬飼「とりあえず、どんな店か行ってみないとわからないだろ?リーダー」
清野はチラシを見ながら、
清野「いやー。どう考えてもいかがわしいですよね。行く意味ないんじゃないですか?リーダーじゃないですから僕は」
犬飼「よっしゃ、今夜7時に集合ってことで。他にも行きたい奴いるから誘っとく」
清野「僕は行きませんよ」
犬飼はチラシを置いていく。
清野は丁寧にチラシを畳んでゴミ箱に捨てる。
○同・居間
光がお茶を飲んでいる。
テレビで「夫婦のセックスレス」をテーマにトーク番組をやっている。
清野が入ってきて、
清野「お茶にしましょう」
光「自分でいれて」
清野「冷たいじゃないですか?どうしたんですか?」
光「別に」
清野が急須にお湯を注いでいる。
テレビの声「主婦Aさんのお悩み。こどもができてから夫婦生活がないんです。私の方から誘っても、仕事で疲れてるからって主人に拒絶されてしまって……」
清野、湯呑にお茶をつぐ。
光「最後にしたのっていつだっけ?」
清野「はい?」
光「だから、父ちゃんと最後にセックスしたの、いつだったっけ?」
清野、お茶をふき出し、むせる。
清野「昼間から何ですか?そんなこと急に聞かれても……あ、時生が小6の時です」
光「覚えてんじゃん」
清野「12月24日のクリスマスイブでした」
光「正確に覚えすぎ」
清野「すいません」
光、テレビの音を小さくして、
光「なんでしなくなっちゃったんだろ」
清野「なんででしょう」
光「あ、そうだ、父ちゃんが前と後で必ずお風呂に入るから、めんどくさくなっちゃったんだ」
清野「僕のせいですか?」
光「そうだよ、めんどくさいんだよ」
清野「僕はめんどくさくないですよ」
光は清野をじっとみる。
光「無理。今さら父ちゃんのこと男性として見るなんて無理」
清野「失礼な」
光「父ちゃんは父ちゃんだからね。家族だから」
清野「僕は今でも光さんとできます」
光は笑い出す。
光「ごめんね、笑ったりして。でも、父ちゃんまだ立つの?」
光、真面目な顔。
清野は赤くなって、
清野「立ちます!立ちますよ!もうビンビンです!」
清野、腕を突き上げる。
光は笑う。
光「あ、そーなんだ。もったいないねー」
清野「笑いごとじゃありません」
清野はメガネを触る。
光「浮気してもいいよ」
清野「え?」
光「あたし、父ちゃんと無理だから、したけりゃ浮気してきていいよ」
清野は湯呑を落とす。
湯呑からお茶がこぼれる。
○同・書斎
清野が硯で墨をすっている。
清野、真剣な顔。
清野、筆をとり、墨を付ける。
清野、半紙に向かって「無常」と書く。
……続く。
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
齋藤なつ
ふとんクリーナーはレイコップ
清野清(50)時計屋さん
清野時生(21)その息子
清野光(47)その妻
犬飼次郎(50)タバコ屋さん
小田信子(50)区役所の職員
あけみ(22)キャバクラ嬢
松尾(55)ラーメン屋さん
中島(53)お風呂屋さん
第1話
○トキノ荘通り・全景(朝)
シャッターが閉まっている商店街。
野良猫がニャーと鳴く。
○せいの時計店・外観(朝)
スズメがチュンチュンと鳴く。
空き缶の転がる音。
○同・店内(朝)
柱時計、置時計、腕時計が陳列されている。
カチコチと時計の音。
柱時計がボーンと7時を告げる。
清野清(50)がシャッターをガラガラガラッと開ける。
清野は髪をピッチリ七三に分けて、メガネをかけている。
○同・居間(朝)
ちゃぶ台の上に朝食が用意されている。
清野光(47)が味噌汁を運んでくる。
光「父ちゃん、ごはんだよ」
光の親指が、お椀の中に入ってしまう。
清野がお椀を見て、
清野「手を洗うとき、爪ブラシ使ってますか?」
光はエプロンで指をふきながら、
光「はい、つかってまーす!」
清野「うそをついてもわかります」
光はべーと舌を出す。
清野「今、味噌汁の中に指が入りました」
光「そう?ぜんぜん気が付かなかったけど」
清野はメガネに触る。
清野「親指の第一関節まで入りました」
清野はお椀をお盆に戻して立ち上がる。
○同・台所(朝)
清野がお椀を電子レンジに入れる。
レンジに1分かける。
腕組みして待っている清野。
電子レンジがチンという。
清野「よし、これで殺菌完了」
○同・居間(朝)
清野時生(21)が入ってくる。
時生はリクルートスーツを着ている。
光代がテレビを見ながら、
光「お、ビシッと決まってるねぇ」
時生、横目で朝ごはんを見る。
清野が来て、
清野「ネクタイが曲がっています」
時生、無視。
光「ネクタイが曲がってるって」
時生、めんどくさそうにネクタイを直す。
清野、正座でご飯を食べる。
と、犬飼次郎(50)がガラス戸の向こうに顔を出す。
犬飼の声「ちゃーっす!」
清野「おう」
清野がガラス戸を開ける。
犬飼が清野にキャバクラのチラシを見せる。
清野は怪訝な顔でチラシを見る。
犬飼「見学にいかねえか?」
清野「ちょっと待っててくださいね。僕に5分ください」
清野は犬飼に手でパーをしてみせる。
時計は7時27分を示している。
清野、ガラス戸を閉める。
清野は正座でご飯を食べながら、
清野「(時生に向かって)就職活動はうまくいってますか?」
時生は無視してご飯を食べている。
光「がんばってるよね〜」
清野「今の人は仕事を選び過ぎてるんじゃないですか」
光「なによ、就職活動したことないくせに」
清野「僕の場合は選んでる余裕なんかなかったんです」
光「はいはい。高校生のときにお父さんが亡くなって、仕方なく時計屋をついだんだもんね」
清野「だから時生にはなんとなく仕事を選んでほしくないんです。本当に好きなことを……」
時生が箸を置く。
時生「ごちそうさま」
光「はーい」
清野「まだ話が終わってません」
時生は立ち上がり、
時生「いってきます」
清野は時計を見て、ご飯をかき込む。
時計は7時31分を示している。
○同・店内(朝)
清野と犬飼が座って話している。
犬飼「町おこしの起爆剤にキャバクラを持ってくるってのはどうだい?リーダー」
清野「キャバクラ、ですか?リーダーってなんですか、やめてください」
犬飼「キャバクラを売りにして町を活性化させようって企画、どうだい?いいアイデアだろ?」
清野「うーん。男性客が集まるかもしれませんが、この町のイメージに合ってるかどうか」
犬飼「とりあえず、どんな店か行ってみないとわからないだろ?リーダー」
清野はチラシを見ながら、
清野「いやー。どう考えてもいかがわしいですよね。行く意味ないんじゃないですか?リーダーじゃないですから僕は」
犬飼「よっしゃ、今夜7時に集合ってことで。他にも行きたい奴いるから誘っとく」
清野「僕は行きませんよ」
犬飼はチラシを置いていく。
清野は丁寧にチラシを畳んでゴミ箱に捨てる。
○同・居間
光がお茶を飲んでいる。
テレビで「夫婦のセックスレス」をテーマにトーク番組をやっている。
清野が入ってきて、
清野「お茶にしましょう」
光「自分でいれて」
清野「冷たいじゃないですか?どうしたんですか?」
光「別に」
清野が急須にお湯を注いでいる。
テレビの声「主婦Aさんのお悩み。こどもができてから夫婦生活がないんです。私の方から誘っても、仕事で疲れてるからって主人に拒絶されてしまって……」
清野、湯呑にお茶をつぐ。
光「最後にしたのっていつだっけ?」
清野「はい?」
光「だから、父ちゃんと最後にセックスしたの、いつだったっけ?」
清野、お茶をふき出し、むせる。
清野「昼間から何ですか?そんなこと急に聞かれても……あ、時生が小6の時です」
光「覚えてんじゃん」
清野「12月24日のクリスマスイブでした」
光「正確に覚えすぎ」
清野「すいません」
光、テレビの音を小さくして、
光「なんでしなくなっちゃったんだろ」
清野「なんででしょう」
光「あ、そうだ、父ちゃんが前と後で必ずお風呂に入るから、めんどくさくなっちゃったんだ」
清野「僕のせいですか?」
光「そうだよ、めんどくさいんだよ」
清野「僕はめんどくさくないですよ」
光は清野をじっとみる。
光「無理。今さら父ちゃんのこと男性として見るなんて無理」
清野「失礼な」
光「父ちゃんは父ちゃんだからね。家族だから」
清野「僕は今でも光さんとできます」
光は笑い出す。
光「ごめんね、笑ったりして。でも、父ちゃんまだ立つの?」
光、真面目な顔。
清野は赤くなって、
清野「立ちます!立ちますよ!もうビンビンです!」
清野、腕を突き上げる。
光は笑う。
光「あ、そーなんだ。もったいないねー」
清野「笑いごとじゃありません」
清野はメガネを触る。
光「浮気してもいいよ」
清野「え?」
光「あたし、父ちゃんと無理だから、したけりゃ浮気してきていいよ」
清野は湯呑を落とす。
湯呑からお茶がこぼれる。
○同・書斎
清野が硯で墨をすっている。
清野、真剣な顔。
清野、筆をとり、墨を付ける。
清野、半紙に向かって「無常」と書く。
……続く。
※この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
齋藤なつ
価格:381円 |
ふとんクリーナーはレイコップ
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/8213061
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック