2024年09月23日
森鴎外の「佐橋甚五郎」で交絡を考える2
2 実例
森鴎外の執筆時の脳の活動を感情として、「森鴎外と感情」というシナジーのメタファーを考えたことがある。感情の下に情動と畏敬があり、情動の下に創発と誘発がある。「山椒大夫」と「佐橋甚五郎」の違いは、前者が誘発の強い情動(外から内)で、後者が創発の強い情動(内から外)というところにある。感情と対になる概念は行動である。
武芸に優れ遊芸も巧者であった佐橋甚五郎は、欲求が満たされず怒りの情動が攻撃的な行動を促す。蜂谷との賭けであれ、小山城攻めの軍功であれそうである。思いが満たされないため、不快感が生じて情動が現れている。ここでは、満たされない欲求が原因で結果を攻撃的な行動にする。金品は、原因結果の一例になる。一方、情動はどうであろうか。隠れた因子として交絡因子になりうるであろうか。
1 ある時、信康の物詣の際に、通りすがりの沼に下りていた鷺を撃てるかどうかで小姓の蜂谷と口論になった。そこで何かを賭けることにした。鉄砲の銃弾は運良く鷺に命中した。甚五郎は、蜂谷に金熨斗付きの大小を求めた。しかし、蜂谷は拒んだ。翌日、蜂谷は傷もないのに死んでいた。甚五郎の行方がわからない。武士の意地を内から外への思考とすると、脳の活動としては創発が考えられる。甚五郎の欲求は、蜂谷が拒絶したために満たされない。欲求の充足は阻止された。そこで怒りが生じ情動が生まれる。こうした創発は、人に攻撃的な行動を促すため、1は成立する。
2 家康は事情を察してから源太夫に言い放つ。奉公として甚五郎に武田方の甘利四郎三郎を討たせることになった。甚五郎は、目の上の瘤であった小山の城で甘利を討ち、さらには北條氏に対陣を張って軍功を収めた。ところが甚五郎に賞美の言葉はなかった。その上、甘利に可愛がられていたとのことで、大阪へ遷った羽柴家への使いを見送られる。その後、源太夫の邸へも立ち寄らずに行方がわからなくなった。不快感が生じて情動が現れているため、2は成立である。
3 24年の月日を経て朝鮮からの使いとして朝鮮人になりすまして甚五郎は家康の前に現れる。不快感があればあるほど、情動が働いて、攻撃的な行動になる。然りである。武士の意地が働いて、気持ちが高揚している。従って、情動は中間因子になる。3は成立である。1から3の全てが成立するため、情動は、交絡因子になりえる。
花村嘉英(2021)「森鴎外の『佐橋甚五郎』で交絡を考える」より
森鴎外の執筆時の脳の活動を感情として、「森鴎外と感情」というシナジーのメタファーを考えたことがある。感情の下に情動と畏敬があり、情動の下に創発と誘発がある。「山椒大夫」と「佐橋甚五郎」の違いは、前者が誘発の強い情動(外から内)で、後者が創発の強い情動(内から外)というところにある。感情と対になる概念は行動である。
武芸に優れ遊芸も巧者であった佐橋甚五郎は、欲求が満たされず怒りの情動が攻撃的な行動を促す。蜂谷との賭けであれ、小山城攻めの軍功であれそうである。思いが満たされないため、不快感が生じて情動が現れている。ここでは、満たされない欲求が原因で結果を攻撃的な行動にする。金品は、原因結果の一例になる。一方、情動はどうであろうか。隠れた因子として交絡因子になりうるであろうか。
1 ある時、信康の物詣の際に、通りすがりの沼に下りていた鷺を撃てるかどうかで小姓の蜂谷と口論になった。そこで何かを賭けることにした。鉄砲の銃弾は運良く鷺に命中した。甚五郎は、蜂谷に金熨斗付きの大小を求めた。しかし、蜂谷は拒んだ。翌日、蜂谷は傷もないのに死んでいた。甚五郎の行方がわからない。武士の意地を内から外への思考とすると、脳の活動としては創発が考えられる。甚五郎の欲求は、蜂谷が拒絶したために満たされない。欲求の充足は阻止された。そこで怒りが生じ情動が生まれる。こうした創発は、人に攻撃的な行動を促すため、1は成立する。
2 家康は事情を察してから源太夫に言い放つ。奉公として甚五郎に武田方の甘利四郎三郎を討たせることになった。甚五郎は、目の上の瘤であった小山の城で甘利を討ち、さらには北條氏に対陣を張って軍功を収めた。ところが甚五郎に賞美の言葉はなかった。その上、甘利に可愛がられていたとのことで、大阪へ遷った羽柴家への使いを見送られる。その後、源太夫の邸へも立ち寄らずに行方がわからなくなった。不快感が生じて情動が現れているため、2は成立である。
3 24年の月日を経て朝鮮からの使いとして朝鮮人になりすまして甚五郎は家康の前に現れる。不快感があればあるほど、情動が働いて、攻撃的な行動になる。然りである。武士の意地が働いて、気持ちが高揚している。従って、情動は中間因子になる。3は成立である。1から3の全てが成立するため、情動は、交絡因子になりえる。
花村嘉英(2021)「森鴎外の『佐橋甚五郎』で交絡を考える」より
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