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2024年09月24日

小林多喜二の「蟹工船」で執筆脳を考える−不安障害2

2 小林多喜二(1903−1933)の「蟹工船」のLのストーリー

 「蟹工船」の購読脳を「悲惨な労働者の姿と当時の日本の権力」とし、共生の読みによる五感を交えたメンタルヘルスからの執筆脳を「行動のトリガーとしての意欲と不安」にする。周知のように、プロレタリアと呼ばれる労働者は、劣悪な条件で働き、しかも低賃金を余儀なくされ、過労死や失業転職も日常茶飯事であった。いくら働いても貧困で富を得るのは一部の財閥に決まっており、戦争に行って血を流して死ぬのは労働者であった。帝国主義の戦争は、労働者にとって何の利益ももたらさなかった。
 渡邉(2014)にもあるように、多喜二は、国家権力や財閥に対して次第に怒りと憎悪を覚えるようになる。1928年に行われた普通選挙で労農党の候補を応援した時、共産党への弾圧や国家維持法違反による労農組合員の逮捕を受けて、多喜二は強い憤りを覚えた。
 当然のことながら、心の病との関連を考えることができる。大塚他(2007)によると、心の病気の原因は、一つが生物学的な基盤、即ち、脳や神経伝達物質、ホルモン、遺伝子の異常などに起因する身体的なものであり、また一つが無意識の心理、即ち、生活から生まれる学習理論、個人の認知や思考パターン、人間の価値、罪、決定の自由といった問題を処理する能力、社会や文化の影響などである。前者は身体因による精神の病であり、後者は心因による心の病といえる。
 小林多喜二の場合、心因による心の病が考えられる。何か行動を起こすとき、欲求や衝動が行動の動機づけとなり、意味や目的を持った行動をしようとする意思が働く。行動を制御する意思と欲求を合わせて意欲といい、物事を積極的に行おうとする精神作用のことをいう。出版物も当局の弾圧下にあるため、「蟹工船」の購読脳から執筆脳の信号の流れを刺激に対して過敏に反応する強迫観念による不安障障の併発とする。以下では、「多喜二と積極性故の不安障害」というシナジーのメタファーを考察していく。

(1) 購読と執筆の信号の流れ
購読脳「悲惨な労働者の姿と当時の日本の権力」→ 執筆脳「行動のトリガーとしての意欲と不安」、故に「多喜二と不安障害」

花村嘉英(2019)「小林多喜二の「蟹工船」の執筆脳について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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