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2024年09月23日

川端康成の「雪国」の多変量解析−クラスタ分析と主成分9

◆場面3

二人は振り向くなり、「火事、火事よ!」「火事だ。」
火の手が下の村の真中にあがっていた。駒子はなにか二声三声叫んで島村の手をつかんだ。
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黒い煙の巻きのぼるなかに炎の舌が見えかくれした。その火は横に這って軒を舐め廻っているようだった。
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「どこだ、君が元いたお師匠さんの家、近いんじゃないか。」
「ちがう。」「どのへんだ。」「もっと上よ。停車場寄りよ。」炎が屋根を抜いて立ちあがった。
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「あら、繭倉だわ。繭倉だわ。あら、あら、繭倉が焼けてるのよ。」と、駒子は言い続けて島村の肩に頬を押しつけた。「繭倉と、繭倉よ。」A1+2B1C2D1

火は燃えさかって来るばかりだが、高みから大きい星空の下に見下すと、おもちゃの火事のように静かだった。そのくせすさまじい炎の音が聞こえそうな恐ろしさは伝わって来た。島村は駒子を抱いた。
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「こわいことないじゃないか。」
「いや、いや、いや。」と、駒子はかぶりを振って泣き出した。その顔が島村の掌にいつもより小さく感じられた。固いこめかみが顫えていた。A1+2B1C2D2

火を見て泣き出したのだが、なにを泣くのかと島村はいぶかりもしないで抱いていた。駒子は不意に泣きやむと顔を離して、「あら、そうだった、繭倉に映画があるのよ、今夜だわ。人がいっぱいはいっているのよ、あんた…。」A1+2B2C2D1

「そりゃあ大変だ。」「怪我人が出てよ。焼け死ぬわ。」二人はあわてて石段を駆け登った。
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上の方で騒ぐ声が聞こえるからだ。見上げると高い宿屋の二階三階も、たいていの部屋が障子をあけた明りの廊下に人が出て火事を見ていた。A1+2B1C2D2

庭のはずれに並んだ聞くの末枯が宿の燈か星明りかで輪郭を浮かべ、ふと火事が写っていると思わせたが、その菊のうしろにも人が立っていた。二人の顔の上へ宿の番頭などが三四人ころぶように下りて来た。
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花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より

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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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