2024年09月23日
川端康成の「雪国」の多変量解析−クラスタ分析と主成分6
◆場面2 葉子が気持ちを打ち明ける
「なにがおかしいんだ。」
「だって、私は一人の人しか看病しないんです。」「え?」
「もう出来ませんの。」
「そうか。」と、島村はまた不意打ちを食わせて静かに言った。A1+2B1C2D1
「毎日君は蕎麦畑の下の墓にばかり参ってるそうだね。」「ええ。」
「一生のうちに、外の病人を世話することも、外の人の墓に参ることも、もうないと思ってるのか?」「ないわ。」A1+2B1C1D1
「それに墓を離れて、よく東京へ行けるね?」
「あら、すみません。連れて行って下さい。」
「君は恐ろしいやきもち焼きだって、駒子が言ってたよ。あの人は駒子のいいなずけじゃなかったの?」
A1+2B2C2D2
「行男さんの?嘘、嘘ですよ。」
「駒子が憎いって、どういうわけだ。」
「駒ちゃん?」と、そこにいる人を呼ぶかのように言って、葉子は島村をきらきら睨んだ。「駒ちゃんをよくしてあげて下さい。」A1+2B1C2D2
「僕はなんにもしてやれないんだよ。」葉子の目頭に涙が溢れて来ると、畳に落ちていた小さい蛾を掴んで泣きじゃくりながら、「駒ちゃんはわたしが気ちがいになると言うんです。」と、ふっと部屋を出て行ってしまった。A1+2B1C2D2
島村は寒気がした。葉子の殺した蛾を捨てようとして窓をあけると、酔った駒子が客を追いつめるるような中腰になって拳を打っているのが見えた。空は曇っていた。島村は内湯に行った。A1B1C2D1
隣の女湯へ葉子が宿の子をつれて入って来た。着物を脱がせたり、洗ってやったりするのが、いかにも親切なものいいで、初々しく母の甘い声を聞くように好もしかった。そしてあの声で歌いだした。
A2B1C2D2
裏へ出て見たれば 梨の樹が三本 杉の樹が三本 みんなで六本
下から鳥が 巣をかける 上から雀が 巣をかける
森のなかの螽斯 どういうて囀るんや お杉友達墓参り
墓参り一丁一丁一丁や A2B1C2D2
手鞠唄の幼い早口で生き生きとはずんだ調子は、ついさっきの葉子など夢かと島村に思わせた。
A2B2C2D2
葉子が絶え間なく子供にしゃべり立てて上がってからも、その声が笛の音のようにまだそこらに残っていそうで、黒光りに古びた玄関の板敷きに片寄せてある、桐の三味線箱の秋の夜更けらしい静まりにも、島村はなんとなく心惹かれて、持ち主の芸者の名を読んでいると、食器を洗う音の方から駒子が来た。
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花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
「なにがおかしいんだ。」
「だって、私は一人の人しか看病しないんです。」「え?」
「もう出来ませんの。」
「そうか。」と、島村はまた不意打ちを食わせて静かに言った。A1+2B1C2D1
「毎日君は蕎麦畑の下の墓にばかり参ってるそうだね。」「ええ。」
「一生のうちに、外の病人を世話することも、外の人の墓に参ることも、もうないと思ってるのか?」「ないわ。」A1+2B1C1D1
「それに墓を離れて、よく東京へ行けるね?」
「あら、すみません。連れて行って下さい。」
「君は恐ろしいやきもち焼きだって、駒子が言ってたよ。あの人は駒子のいいなずけじゃなかったの?」
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「行男さんの?嘘、嘘ですよ。」
「駒子が憎いって、どういうわけだ。」
「駒ちゃん?」と、そこにいる人を呼ぶかのように言って、葉子は島村をきらきら睨んだ。「駒ちゃんをよくしてあげて下さい。」A1+2B1C2D2
「僕はなんにもしてやれないんだよ。」葉子の目頭に涙が溢れて来ると、畳に落ちていた小さい蛾を掴んで泣きじゃくりながら、「駒ちゃんはわたしが気ちがいになると言うんです。」と、ふっと部屋を出て行ってしまった。A1+2B1C2D2
島村は寒気がした。葉子の殺した蛾を捨てようとして窓をあけると、酔った駒子が客を追いつめるるような中腰になって拳を打っているのが見えた。空は曇っていた。島村は内湯に行った。A1B1C2D1
隣の女湯へ葉子が宿の子をつれて入って来た。着物を脱がせたり、洗ってやったりするのが、いかにも親切なものいいで、初々しく母の甘い声を聞くように好もしかった。そしてあの声で歌いだした。
A2B1C2D2
裏へ出て見たれば 梨の樹が三本 杉の樹が三本 みんなで六本
下から鳥が 巣をかける 上から雀が 巣をかける
森のなかの螽斯 どういうて囀るんや お杉友達墓参り
墓参り一丁一丁一丁や A2B1C2D2
手鞠唄の幼い早口で生き生きとはずんだ調子は、ついさっきの葉子など夢かと島村に思わせた。
A2B2C2D2
葉子が絶え間なく子供にしゃべり立てて上がってからも、その声が笛の音のようにまだそこらに残っていそうで、黒光りに古びた玄関の板敷きに片寄せてある、桐の三味線箱の秋の夜更けらしい静まりにも、島村はなんとなく心惹かれて、持ち主の芸者の名を読んでいると、食器を洗う音の方から駒子が来た。
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花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
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