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2018年10月09日

読書: NHK 取材班『ここまで来た! うつ病治療』, 香山リカ『がんばらなくていい生き方』

● NHK 取材班『ここまで来た! うつ病治療』

デイケアの友人からいい本だったと教えられて読んだ. 2011 年頃に NHK スペシャルで放送された同名の番組を書籍化したもの.
鬱病は脳の病気である, という立場から最新の脳科学によって鬱病の仕組み, 治療方法がどこまで進んでいるのかを解説している.
現在はもっと進んでいるだろう.
光トポグラフィー, 鬱病に関係することがわかってきた脳内部位の働き, 電気治療 (電気ショック療法ではない), 認知行動療法などが取り上げられている.

何よりこの本を読んでよかったのは自分が興味を持っていた, 鬱病に関わる脳の仕組み, 脳科学の立場から見た認知行動療法について触れられていたことである.
これらをもっと知るには, たとえばどういう本を読んだらいいのかの方向がわかってくる.

こういう研究が実際の鬱病治療に広く活かされるかかどうかはまだわからない.
本の出版から時間は経ったが実情はどうなっているのだろう.

鬱病を含めた精神疾患を, 脳の病気 (機能不全) という立場からの研究だけで解明できるのかどうかも自分にはわからない.
心とは何か, という問題に対して脳科学の研究者はどのような仮説や考えを持っているのだろう.
聞いてみたい.

● 香山リカ『がんばらなくていい生き方』

この本は作業療法の友人から勧められた.

どうすればストレスの少ない生き方ができるかをテーマにしたエッセイ風の読み物. 軽い感じで読める.
著者もそういう軽く読めることを念頭において書いたのだろう.

自分をもっと甘やかしていい, 「コミュニケーション」とは「話を聴くこと」, 自分を責めすぎない, などメンタルヘルスの啓発本によく出てくるであろうフレーズを通じて, ストレスを少なくする生き方のヒントが提示されている.

興味を持った文章が三つあった.

一つ目は「コミュニケーションとは話を聴くこと」という文章.
話を聴くことの上手い人がコミュニケーションに長けているということは確かにある.
実際に自分が出会った何人かのコミュニケーションに秀でた人も, この人は自分の話をちゃんと聞いて, その上で自分の考えを話してくれる, と感じる人たちだった.
もちろん, これは誰にでもできることではない.

その点を踏まえてか本書では, 聴き上手の話の聴き方の一つとして, 「あなたの言いたいことはよく理解した」という姿勢を示し続けることの必要性を挙げている.
これは意識しさえすればできる.

断定できるのは自分がこれをやっていたから.
あなたは話をちゃんと聴いてくれると言ってもらえたこともある.
もっとも現在では, そのような自分がいたということが信じられない.

人の話をきちんと聴くことは, 少なくとも自分の場合はその相手の世界に入り込んでしまうことで, 精神的な負担が大きかった.
その揺り戻しで自分自身が押し潰された.
そうならずに人の話を聴くことができるようになれるだろうか.

二つ目は「筋が通らないときは怒れ」という言葉.
ここの文章は少し辛かった.

鬱病と診断されて 10 年近く経ったある時に, 自分の感情の起伏が極端に小さくなっていることに気が付いた.
鬱病により感情表現が乏しくなっていく.
想像力や思考力が低下していく.
このまま鬱病が悪化していったら, 感情が摩滅して最期は廃人になってしまうのではないかと思った.

現在, 随分回復はしてきていると思うが, 喜びや怒り, 特に怒りの感情を抱くことがほとんど無い.
怒りは何か行動を起こす, 何かを始めるための強いエネルギーになると思っているのだが, 怒りが消え失せた生というのを想像すると恐ろしい.

著者がこの文章の中で書いている, 自分が全て悪いと思い込む前に, 制度や他者が間違っているときはそれらが悪いと働きかけて改善を促す, という以前に, そのためのパワー ── おそらく怒り ── が現在の自分には出てこない.
ではどうすればいいのか. わからない.

なお本書では, 筋が通らないときに怒ることは実際にはとても難しい, と書いている.

最後に, 著者がなぜ精神科医になったか, その経緯が書いてあったこと.
著者によれば, 精神科なら緩くて大らかなのではと何となく感じて, それがきっかけで完全に成り行きでなってしまったらしい.
初めて知った.

精神科医がどうしてその道を選んだのかに興味がある.
これまで自分が何人もの精神科医に診てもらっていることと, 現在通っているクリニックで最初に担当してもらった研究肌の老医師の印象が強かったことで関心を持ったのだ.

本の内容そのものと言うより, 本の中の一節から自分の問題にあらためて触れる機会となった.
posted by 底彦 at 20:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書
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