Softbank World 2019に登壇したソフトバンクグループ 代表取締役会長兼社長の孫正義氏は「これから起こるAI革命では起業家が推進のエンジンになる」と話し、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資対象であるスタートアップ4社のCEOを紹介した。いずれもAIで業界に破壊的な革新を起こしており、通常では考えられないような実績を叩き出している企業だ。
世界でも有数のAI企業4社が、それぞれの“武器”について語った。 OYOはホテル・住宅事業を営んでいるインドの企業だ。創業してわずか6年弱で、世界一のホテル企業になろうとしている。同社のミッションは「快適な居住空間の創造」。快適な空間を創造し提供することで、上流層だけでなく中間層を含む32億人以上の人々が人生の一日一日、豊かな暮らしを生きることを目指している。世界のホテルの97%以上は客室数が150室未満。しかし大手ホテルチェーンは150室以上の物件しか扱うことはない。「だからといってこのような小さなホテルが大手と競合できないわけではない」とRitesh氏は語る。そこで同氏は小さな稼働していない建物に着目し、競争力を高めることに取り組むことから始めた。現在、OYOはヨーロッパからアジア、アメリカに至る80カ国において110万室以上の客室と契約。85万以上のホテルと民泊を80カ国で展開しいる。 「ほかのホテルは30〜100年の歴史がある。なぜOYOが創業6年という短い時間で、世界第2位のホテルブランドへ成長したのか。その秘訣(ひけつ)を紹介したい」とRitesh氏。第一が既存のホテルブランドより早い意思決定が行えることだ。既存のホテルチェーンは物件の決定に関する意思決定をするのに6カ月〜12カ月程度かける。対してOYOは数億というデータポイントで分析、リアルタイムで予測し、遅くとも5日間以内に契約を行使するという。「これはほかのホテルチェーンより36倍速い。これにより毎月9万以上の客室をオープンしている」(Ritesh氏) 経営の効率アップだけではない。 「OYOは先進的なデータサイエンティストを使って、どのようなインテリアデザインにすると稼働率がアップするかを計算させている」(Ritesh氏) 最適な家具を選択することで客室の稼働率が3倍になった例もある。たとえば米テキサス州ダラスにあるOYOホテルダラスホテルでは、照明を明るくし、清掃をよりよくしたことで、最初18%だった稼働率を数週間で90%まで上げ、以後も約90%を維持しているという。これと似た取り組みを、同社が購入した100万ものホテルで実施したという。さらに同社はオペレーションの改善にも取り組んだという。スタッフに客室清掃管理アプリを提供し、よりスマートに清掃すれば給与が上がるという仕組みを作った。これにより以前はスタッフ1人当たりの清掃客室数が4部屋だったのが、現在は2.5倍の10部屋になった。「同時に、客室清掃員の所得も2.5倍になった」とRitesh氏は説明する。 また機械学習に基づくアルゴリズムで1日当たり5000万件の価格調整を実施。 「1秒当たり730回の最適化をすることで、60秒当たり4万3000回価格が変更。常に最善の価格を提供できるようにしている」(Ritesh氏) OYOはAIを動的な価格設定、収益予測、ホテルデザイン、供給目標に活用したことで、今のような成長を手に入れたというわけだ。だがOYOが目指すのは、世界最大のホテルチェーンである。 「テクノロジーを駆使し、より豊かな居住空間を求める32億を超える世界中のミドルクラスの人々の暮らしに変革をもたらすこと。ぜひ、みなさんもサポートしてほしい」(Ritesh氏) 350倍の収穫性を誇る屋内農園 孫社長が紹介した4人目の変革者がPlenty共同創設者でありCEOのMatt Barnard氏である。PlentyはAIで農業の変革に取り組んでいる企業だ。同社の農場は従来とは異なり、AIを駆使した屋内農場である。そのような農場を作った背景には、Barnard氏の健康への強い思いがある。 健康には栄養価の高い食事が不可欠だ。さまざまな食品があるが、その中でも野菜は健康の維持には欠かせない。その野菜をより多く摂取してもらうには「夢中になる味と、それが簡単に手に入る環境を作ることが大事だと考えた」とBarnard氏は語る。同氏は農場育ちだが、「当時は味や収穫量はコントロールしたくてもできなかった」と振り返る。Plentyが運営する屋内農場は、非常に安全な環境になっており、「農薬や殺菌などは一切必要ない」とBarnard氏。最高の味覚、高い栄養価を提供できるよう環境、栽培方法をAIでコントロールしているからだ。 「成長もコントロールしているので、非常に効率よく収穫できるようになっている。最大350倍の収穫性がある」とBarnard氏。これまで多くの農業の専門家が野菜の産出量、収穫量を増やすことに取り組んで来た。その期間は約300年。それを同社はたった1年で実現したのだ。野菜の育成に欠かせない水についても、従来の95%以上の節水が実現しているという。 しかもPlentyの農場であれば、人々が生活する近くで野菜の栽培ができる。そのため運輸コストもかからない。顧客は新鮮でより味覚的にも優れた収穫物を手に入れられる。「現在は、栄養と健康に力を入れている。そのためには味、収穫、値段が重要だと思い、このようなアプローチをしている」とBarnard氏は語る。
Plentyでは160万のデータポイントを各プラントに設置し、データを取得。それをAIに学習させるべく、「世界最大のトレーニングセンターを作った」とBarnard氏は話す。AIの活用で30のパラメータを最適化、最高の味覚、栄養、収穫高、低コストを実現。さらに400万の作物の収穫、64億の細胞方式、高い満足度で健康に良い最高の農作物の実現をしたという。野菜嫌いの子どもでもPlentyで作った野菜は食べたくなるという声が続々届いているという。 たとえば同社が得意とする野菜の1つであるケールは、どういった味が好まれるか徹底的に分析し、みんなに好まれる味にした。その結果、「これまでのケールとはまったく違うので名前を変えるべきだ、と言われている」とBarnard氏は笑う。加えて、Plentyはまた天候などの自然現象に左右されないため、需要に合わせて野菜を安定的に供給にも貢献できる。 「人間と地球を両方健康にしていきたい」と最後にBarnard氏は語り、壇上から降りた。 (※本記事は2019年7月開催「Softbank World 2019」 の講演内容をもとに再構成したものです。)
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