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2016年03月21日
2016年03月15日
笑う老人
その老人は首が曲がっている。角度で言えばほぼ90度、突きだした首の先に頭が乗っかっている。見た目ではかなり病んでいるように見えるが、その姿で仕事をしている。休み時間には休憩室で仮眠もしているが、きちんとバッグ、洋服、靴を揃え、アイマスクまでして長いすに横たわる。頭には枕まで用意している。眠る前にはいつも、若者のように携帯電話をひとしきり操りうなずく。顔面には見せないが和やかな笑顔が拡がって行く。誰かにメールでもしているのか、嬉しそうにも見える。だから相手が気になる。
この老人は食事の後に歯磨きもしている。この職場は世の中の吹きだまりのような場所で、東北や北海道、九州、沖縄など全国から来た人達が働く。いや、日本人だけではなく、ありとあらゆる外国人達も働いている、そう言う場所である。だから怖い人や危ない人も含まれているから危険ゾーンだと言う人もいる。その中で、老人はせっせと歯を磨く。当然不自然な格好なので普通には磨けない。顔が下を向いているので磨きながら下に泡を垂らす。だから首にはタオルが掛かっている。幼児のよだれかけのようにタオルを前に垂らす。歯磨きの様相は見るに絶えない。でも見てしまった。脳裏からは離れない。
人は見た目ではないし、自分が感じた通りに当人も思っている訳ではない。人はそれぞれの価値観を持って生きている。自分の物差しでは測れない世界がここに存在する。