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2016年08月11日

小説「アリとギリギリデス」(その3)

 私の視線がポスターの方に向いているのが分かると、彼はますます動揺していたのが、はっきりと分かったのだった。
 呆れた事だが、彼が部屋の中を見られたくなかった理由はこれだったらしい。しかし、一人暮らしの部屋に男が女の裸の写真を貼ったりしているのは、決して特別な事でもないであろう。むしろ、独身の男なら健全な行動のような気もするのだが、この男、なかなかのウブだったようである。
「あ、あのポスターは、そんなヘンなものじゃないんですよ。ボク、このいずみが好きで、これってアングルが・・・」
 彼は慌てて弁解したのだが、その言葉に逆に私はムッとさせられたのだった。
 と言うのも、いずみとは私の名前だったからである。隣の男の住人が、私と同名のセクシーアイドルのヌードを愛好しているとは、なんとも良い気がしない。もしかして、この男、ひそかに私にと気があったのではなかろうか。だから、部屋には、わざわざ、いずみと言う名のモデルの写真を選んで貼って、にやついていたのかもしれない。
「帰ります、あたし!」
 勝手に想像が暴走してしまった私は、急いで彼の部屋の玄関から立ち去る事にした。
 私が急に不機嫌になった事は彼にも分かったらしく、私の後ろで彼がオロオロしていたのは私にもよく感じ取れたのだった。    (つづく)

「ルシーの明日とその他の物語」

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posted by anu at 13:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説
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