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2017年02月08日

迷宮の歌

それは洞窟の奥深くに住まうケモノ。巨大な角。鋼の様な体躯。灼熱の吐息。牛の頭と人の体を持つ魔獣は、平和を愛する村人達から憎まれていた。恐れられていた。やがて魔獣は「迷宮のミノタウロス」と呼ばれる事になる。

その恐ろしげな見た目とは裏腹に、魔獣はとても優しかった。他の生き物を殺す事もなかったし、花があれば無骨な指で踏まないように気をつけた。洞窟の奥深くに住んだのも、出来るだけ村人を怖がらせない為だった。

ある日、洞窟の奥に少女が迷いこんできた。少女は魔獣を見ると泣き叫び続け、とうとう疲れて気を失ってしまう。魔獣は困惑した。どうしようどうしよう。この子を村まで送り届けなきゃ。お父さんとお母さんが心配しているから……村まで送り届けなきゃ。

少女が居なくなった二日後の朝、憔悴しきった両親の家の前に少女が倒れていた。少女には傷一つ無く眠っているだけ。駆け寄る母があるモノに気付き小さな悲鳴を上げる。少し離れた所に転がっていたのは魔獣の死体だった。その死体には何本もの剣が突き刺さり、薄気味悪い血をまき散らしている。だが、少女を襲ったような痕跡は無かった。むしろ離れる事を望んでいるかのような姿だった。まるで、その血で少女が汚れる事を嫌うかのように。まるで、少女がこわがらないように。その魔獣は体を小さく小さくして死んでいた。
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