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2017年03月10日

愚者の盟約

これは悲しい王子のお話。遠い昔にあったある王国の物語。闇の軍勢に攻め寄せられたその国は、赤き目をした人外の兵と空を覆う黒き竜の大群によって一夜の内に崩壊する事となった。敵の侵入を許した王の城では王と王妃が見るも無惨に黒竜の爪によって腹を引き裂かれ、あたり一面は血の海の様になったと言われている。王子と妹姫は辛くも生き延びる事が出来たが、惨劇を目にした王子はその衝撃故に復讐の鬼となってしまう事になる。

これは恐ろしい王子のお話。遠い昔にあったある戦いの歴史。憎き敵兵を殺す事に執着した王子は、日に日に復讐という名の暴力に溺れるようになる。逃げ出す敵兵を引きずり倒して容赦なく殺すのは当たり前。さらには既に死んでいる敵兵を一刻以上も切り刻んでいるのを見た、という兵も出てくる有様だった。指揮官も扱いかねるのか、王子はさらなる過酷な戦場へ赴く事になる。

これは翻弄された王子のお話。遠い昔にあった運命の行方。次なる戦地は女神を守る城。王子は次から次へと敵兵を叩き伏せる。腕を斬り落とし、足を吹き飛ばし、腹を引き破り、頭を刈り落とし、目をえぐり出した。浴びる血と自ら流すそれの区別がつかなくなった頃、傷ついた王子はとうとう倒れる事になる。地溜まりの中で、熱い息を吐きながら苦しみのたうち回る王子。霞む目で見上げると、そこに居たのはあの憎き竜の姿であった。

これは狂った王子のお話。遠い昔にあったある竜との出会い。王子の目の前に現れたのは傷ついた赤き竜。最初は殺そうと思った。色は違えど両親の仇、竜の一族なのだ。剣を振りかぶった王子。その時、忌まわしき赤い竜は言葉を発した。貴様の命を救おう。お互いの魂と引き替えに力を与えようと。王子は考えた挙げ句、竜と契約を行う。たとえ何を失おうとも、相手が竜であっても、その復讐の刃をこのまま振り続けることが出来るのならば構わない。暗い油のような欲望だけが王子の胸の中に満たされていった。
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