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2012年04月16日

―郭公―(後編(という名のおまけ))(半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 はい、月曜日。半分の月がのぼる空二次創作の日です。
 一応後編という題目になってますが、現実的には前回までで入りきらなかった分です。(だから字数制限など要らぬとあれほど・・・)したがって非常に短いですw
 どうぞ了承のほどを・・・。



ドラマCD 半分の月がのぼる空 VOL.3

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                           ―4―

 僕が家に帰ってきた頃には、時間はもう5時近くだった。
 思ったより遅くなってしまった。だいたい、あの親父がフィルム一つまけるのをあんなに渋るからいけないのだ。これだから、ライバル店のない、個人営業の店はいけないのだ。
 などと心の中で毒づきながら、家の戸を開けた。
 ・・・どうした事だろう。いつも居間から飛んでくる筈の「おかえり」の声が聞こえない。
 その代わりに聞こえてきたのは、笑い声。それも二人分だ。
 片方は僕の母親。当然だ。ここは僕の家なのだから。だけどもう一つの声は・・・
 「えぇ!?」
 僕は玄関に靴を放り出すと、慌てて居間に向かった。
 「あら、おかえり。」
 「あ、裕一、来たんだ。」
 「いや、来たんだって・・・」
 居間にいたのは里香だった。その里香が、うちの母親と差し向かいで卓袱台を囲んでいる。
 「お前・・・何してんの?」
 「見てわかんないの。お茶飲んでるの。」
 僕の問いに、里香は馬鹿でも見る様な顔でそう言った。
 いや、そりゃ卓袱台の上の湯飲みとか少ししか残っていない赤福の箱とか煎餅の袋とかを見りゃわかるけどさ・・・。
 うちの母親とそんなに仲良かったっけ?お前。
 僕がポカンとしていると、そんな僕などいないかの様に二人はまた会話に花を咲かせ始める。
 ・・・何だ、これ。
 と、とにかく里香が来ているのだ。早く上の僕の部屋に行こう。僕が里香にそう言おうとしたら、居間の時計を見た里香が言った。
 「あ、もう帰らなきゃ。」
 ガクッ
 な、何だよ。それ。
 「あら、もう帰るの?」
 母親が、心底残念そうに言う。
 「晩御飯、食べていったらいいのに。」
 「いえ、もう充分御馳走になりましたし。母も待ってるでしょうから・・・。」
 里香もなんか、名残惜しそうだ。
 「そう。残念ね。」
 もう完全に二人の世界である。僕の事はパーフェクトにアウト・オブ・眼中だ。
 一人立ち尽くしていると、ようやく母親が僕の方を見た。
 「裕一、里香“ちゃん”の事、送ってきなさい。」
 いや、そりゃ送ってくけどさ、何だよ!?里香“ちゃん”って。あんたついこの間まで里香の事、里香“さん”て呼んでたろ!?
 一体、僕がいない間にこの二人に何があったと言うのだろう。
 「ほら、何やってんの?早くしなさい。」
 「わ、分かったって。」
 「じゃあ、気をつけてね。里香ちゃん。」
 「はい。さようなら、おばさん。」
 ・・・結局最後まで、僕は蚊帳の外のままだった。

 里香を送っていく道中で、僕は何があったのかを尋ねる事にした。
 「なぁ、一体何があったんだよ?」
 「別に。何もなかったよ。」
 何も無い筈ないだろ。じゃあ、何であんな仲良くなってんだよ。お前ら。
 僕がさらに追求しようとすると、里香が僕の顔を見ていた。
 ジーッと、見ていた。
 な、何だ。顔に、何かついているのだろうか?
 などと思っていると、里香が突然吹き出した。
 「あはははははは!!」
 「な、何だよ?急に!!」
 「あは、あははは、ちょ、ちょっと、待って、あは、はは、息、苦し・・・」
 あんまり笑い過ぎるあまり、道端の欄干にしがみついてヒィヒィ言っている。いちいち何なんだ、今日は。
 「いやホント、何だってんだよ。一体!?」
 その後も里香はしばらくヒィヒィ言っていたが、そのうち何とか呼吸を整えると、僕に向かってこう言った。
 「聞いちゃった。」
 「何をだよ?」
 「裕一、猫缶、食べたんだって?」
 一瞬、頭が真っ白になる。
 里香の言葉の意味が脳みそに染みるまで、数秒がかかった。
 そして染みた後、全身の血がザァアアーと引いていくのが分かった。
 なん・・・だと?
 何で里香がその事知ってんだ?あの事は僕と司と、山西の三人しか知らない筈だぞ。誰だ!?誰が裏切った!?当然、僕じゃない。司でもないだろう。あいつは約束は必ず守るたちだ。と、いう事は山西か。アイツの事だ。きっと自分も食べた事は棚に上げて、僕だけを物笑いの種にしたに違いない。おのれ、山西、許すまじ!!一体どうしてくれよう。シャイニング・ウィザードか、DDTか、それともソル・デ・レイ・ケブラーダか。せめて自分の最期くらい、好きなものを選ばせてやる。
 とは言うものの、ここはとにかく、里香の中で猫と同レベルにまで失墜したであろう僕の品格を修正する事が先決だ。山西への制裁は、その後でいい。
 「ち、違うぞ、里香!!あれは非常時でだな・・・だ、大体そのまま食べた訳じゃないぞ!!ちゃんと料理して、スパゲッティにしてだな・・・そ、それに食べたのはオレだけじゃないぞ!!山西だって・・・」
 そこまで言って、僕はおかしい事に気付いた。
 里香が、目を丸くしてポカンとしている。え?何だ、これ?どういう事だ?
 「裕一、何言ってんの?」
 「え・・・何って、あれだろ・・・?オレや山西が、猫缶のスパゲッティを・・・」
 「あたしが聞いたのは、裕一が小さい時の話だよ。おばさんとお父さんがケンカして、おばさんが出てった時に、食べるものがなくなって、お父さんと一緒に食べたって・・・」
 あ・・・れ・・・?そっちの、話?
 「・・・里香、お前、それ、誰から聞いた?」
 「・・・おばさん。」
 間違いない。“あっち”の話だ。と、言う事は・・・。
 「裕一、また食べたの?猫缶・・・。」
 里香が、少し引いた声で言う。
 「い、いや、ちょっと待て!!違う、違うぞ!!その時は食べてない!!食べてないんだって!!その時は親父だけで今回とは違うって・・あ、いや、だからって今回は食べたって訳じゃ・・・」
 言えば言うほど、どつぼに嵌る。もう里香は完全に引いた顔をしていた。その目には、笑いや呆れを通り越して哀れみすら浮かべていて・・・
 ああ、畜生!!何でこんな事になってんだよ!!分かるもんなら、誰か教えてくれ!!

 カッコー カッコー カッコー

 そんな僕の嘆きを嘲笑う様に、何処かでカッコウが鳴いていた。


                                             終り
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