2022年01月13日
スピード重視の林業
タイトルからして、日本の林業政策の問題点を深く語るような雰囲気を醸し出していますが、全くそうではありません。私は林業の現場作業は好きですが、「日本の林業はこうあるべきだ!」みたいな話題にはあまり関心が無く、大学・公務員時代の授業や勉強会等の際は「このような議論を長々とする暇があったら、間伐の遅れた山に行って、1本でも多くの木を伐った方が良いのに」とひそかに本気で思っていた程です。ただ、全く関心が無いというのは良くないので、少しずつ勉強していこうと思います。故に、私の書く文章は、浅識で稚拙なものであることを、あらかじめご了承願います。
さて、前置きが長くなりましたが、私は地拵え、植付、下刈り等の作業の中で、「もっとスピードを上げろ!」、「そんなんじゃアカになる(赤字になる)!」とよく言われます。実際、先輩や同期と比べても、作業スピードがやや遅いです。「経験年数が浅く、作業に慣れていない」というのも1つの理由ですが、「人よりも丁寧すぎる」というのが、大きな理由です。私は几帳面な性格のため、「要領良く手を抜く」ということが難しいです。
具体例を出すと、地拵えでいえば、土に半分埋もれているような丸太や、地表面の細かな枝・葉が残っていると、気になって(必要以上に?)集めてしまい、そのぶん時間がかかります。私が熊手を使って、枝・葉を集めようとしていたところ、「熊手は使うな」と言われました。「そこまで丁寧にしなくてもいい」という意味です。実際のところ、枝や葉が地表面に全く無いと、土が乾燥しやすくなり、木を植えても枯れやすいので、綺麗にし過ぎは逆効果です。
植付でいえば、200本の苗木を植えるのに、私は150分かかります。ちなみに、1本あたり、移動等も含めて45秒ペースです。それに対して、先輩は120分(1本あたり36秒)です。200本だと30分の差ですが、1本あたりの差はたった9秒です。
どうしてその差が生まれるのか、作業しながら先輩のやり方を横目でチラチラ見たところ、どうも埋め戻しの土を、私が丁寧にかけ過ぎているように感じました。先輩は苗木を植えるために掘った穴の土を、そのまま埋め戻すだけですが、私はそれに加えて、苗木の上側(山側)の土を削って、盛り足しています。
私は苗が倒れて枯れるのを防ぐために、盛り足しをしているので、土が充分にある時は、盛り足しはしません。一方、先輩も土が少ない時は、盛り足しをするのかもしれません。しかし、どれくらい盛れば倒れないか、枯れないかを検証することは難しいです(下刈りの際に、自分の植付箇所と先輩の植付箇所の活着状況を比較すれば、大雑把な把握はできますが)。たぶん、私の盛り足しが丁寧すぎるレベルにあると思われるので、今後私が植付スピードを上げるためには、「盛り足す・盛り足さない」の自分の中の基準を、「盛り足さない」方向に若干シフトする必要があると感じています。
〜 2022年12月19日 追記 〜
先日、先輩の植付の様子をゆっくり見る機会があり、確認したところ、基本的には先輩も山側の土を削って、盛り足していました。結局は、1つ1つの動作の細かなスピードの差が、200本あたり30分という大きな差になったのだと思います。
下刈りでいえば、私は刈り高が低すぎるようです。刈り高が低いと、地面や石に刈刃をぶつける可能性が高くなり、その結果、刃が切れなくなり、目立てを頻繁にするため、時間がかかります。ただ、背丈の低い草木もあるため、それらが気になって、自然と刈り高が低くなってしまいます。刈っても草木はまたすぐ伸びるので、少々の刈り残しは目をつむる必要があるようです。
また、植栽木に近接する草木について、私はなるべく刈り残しが無いように刈るのですが、先輩はポツポツ刈り残しがある場合があります。
植栽木の近くを刈ろうとすると、誤って植栽木を伐る恐れがあるので、慎重になるぶん、作業スピードは落ちます。刈るのが難しい場合、私は草木を手で引っこ抜いたり、チギったりもするので、それも時間ロスです。でも、刈らないと下刈りの意味がないし、「ビローン」と伸びた草木が残っていると、気になってしまいます。しかし、作業スピードを上げるためには、ある程度の「ビローン」は割り切らないといけないのかもしれません。
以上のように、私は現場作業の中で、割と大雑把に速く作業をこなすことを要求される場面が多かったため、「林業はスピード重視」という印象を受けた次第です。
では、なぜ林業はスピード重視なのか?私の薄い知識をもってすると、2つの理由が考えられました。
1つ目の理由は、「赤字になるから」です。
先輩も言っていたとおり、のんびり作業をしているとアカになります。昔の林業が儲かっていた時代は、スピードより質を求めても、大丈夫だったでしょう。ただ、現代は補助金が無いと、林業が産業として成り立たなくなった時代。切り捨てられていた間伐材を玩具等に加工して販売したり、林業体験等のイベントを開催したり、用材を生産すること以外の付加価値を追求することで、何とか補助金に頼らず、黒字にしている企業もあるとは思いますが、基本的には補助金に頼らないと、用材生産だけでは赤字になると思われます。
2つ目の理由は、「人目に付かないから」です。
林業は、造園業や土木業と比較して、人里から離れた場所で行われることが多いです。例えば、造園業でいえば、庭に落ち葉が残っていたら、依頼者から指摘されるし、土木業でいえば、伐採した支障木が道路脇に乱雑に放置されていれば、地域住民から指摘されます。一方で、林業の現場は、人目に付きにくい山奥であるため、少々の荒仕事(玉切り・枝払いをしていない等)は気付かれないこともあるし、逆に整理整頓されていない状態の方が、自然な感じで良いという捉え方もあります。林業はより自然に近い産業であるが故に、人為的とは逆をいく大雑把さが許容されるのだと思います。
最後に最も皆さんにお伝えしたいことは、スピード重視による弊害である「質の低下」と「安全性の低下」です。
何が何でも速く植えるがあまり、全部枯れてしまっては、元も子もありません。また、速く作業を終わらせるため、作業手順を省略する等し、事故を起こし、怪我をしてしまえば、元も子もありません。質や安全性を疎かにできない場面では、時間をかけて作業し、その他の場面では、手際よく作業する、そのメリハリが大事なのだと思います。
スピードを重視する傾向にある現代林業において、その弊害として、私のように「速くしないと」と精神的に追い込まれたり、事故による怪我で肉体的・精神的に追い込まれたり、怪我による失職で社会的・精神的に追い込まれたりする人が少なくなるよう、願うばかりです。
※ 記事一覧はこちら
さて、前置きが長くなりましたが、私は地拵え、植付、下刈り等の作業の中で、「もっとスピードを上げろ!」、「そんなんじゃアカになる(赤字になる)!」とよく言われます。実際、先輩や同期と比べても、作業スピードがやや遅いです。「経験年数が浅く、作業に慣れていない」というのも1つの理由ですが、「人よりも丁寧すぎる」というのが、大きな理由です。私は几帳面な性格のため、「要領良く手を抜く」ということが難しいです。
具体例を出すと、地拵えでいえば、土に半分埋もれているような丸太や、地表面の細かな枝・葉が残っていると、気になって(必要以上に?)集めてしまい、そのぶん時間がかかります。私が熊手を使って、枝・葉を集めようとしていたところ、「熊手は使うな」と言われました。「そこまで丁寧にしなくてもいい」という意味です。実際のところ、枝や葉が地表面に全く無いと、土が乾燥しやすくなり、木を植えても枯れやすいので、綺麗にし過ぎは逆効果です。
植付でいえば、200本の苗木を植えるのに、私は150分かかります。ちなみに、1本あたり、移動等も含めて45秒ペースです。それに対して、先輩は120分(1本あたり36秒)です。200本だと30分の差ですが、1本あたりの差はたった9秒です。
どうしてその差が生まれるのか、作業しながら先輩のやり方を横目でチラチラ見たところ、どうも埋め戻しの土を、私が丁寧にかけ過ぎているように感じました。先輩は苗木を植えるために掘った穴の土を、そのまま埋め戻すだけですが、私はそれに加えて、苗木の上側(山側)の土を削って、盛り足しています。
私は苗が倒れて枯れるのを防ぐために、盛り足しをしているので、土が充分にある時は、盛り足しはしません。一方、先輩も土が少ない時は、盛り足しをするのかもしれません。しかし、どれくらい盛れば倒れないか、枯れないかを検証することは難しいです(下刈りの際に、自分の植付箇所と先輩の植付箇所の活着状況を比較すれば、大雑把な把握はできますが)。たぶん、私の盛り足しが丁寧すぎるレベルにあると思われるので、今後私が植付スピードを上げるためには、「盛り足す・盛り足さない」の自分の中の基準を、「盛り足さない」方向に若干シフトする必要があると感じています。
〜 2022年12月19日 追記 〜
先日、先輩の植付の様子をゆっくり見る機会があり、確認したところ、基本的には先輩も山側の土を削って、盛り足していました。結局は、1つ1つの動作の細かなスピードの差が、200本あたり30分という大きな差になったのだと思います。
下刈りでいえば、私は刈り高が低すぎるようです。刈り高が低いと、地面や石に刈刃をぶつける可能性が高くなり、その結果、刃が切れなくなり、目立てを頻繁にするため、時間がかかります。ただ、背丈の低い草木もあるため、それらが気になって、自然と刈り高が低くなってしまいます。刈っても草木はまたすぐ伸びるので、少々の刈り残しは目をつむる必要があるようです。
また、植栽木に近接する草木について、私はなるべく刈り残しが無いように刈るのですが、先輩はポツポツ刈り残しがある場合があります。
植栽木の近くを刈ろうとすると、誤って植栽木を伐る恐れがあるので、慎重になるぶん、作業スピードは落ちます。刈るのが難しい場合、私は草木を手で引っこ抜いたり、チギったりもするので、それも時間ロスです。でも、刈らないと下刈りの意味がないし、「ビローン」と伸びた草木が残っていると、気になってしまいます。しかし、作業スピードを上げるためには、ある程度の「ビローン」は割り切らないといけないのかもしれません。
以上のように、私は現場作業の中で、割と大雑把に速く作業をこなすことを要求される場面が多かったため、「林業はスピード重視」という印象を受けた次第です。
では、なぜ林業はスピード重視なのか?私の薄い知識をもってすると、2つの理由が考えられました。
1つ目の理由は、「赤字になるから」です。
先輩も言っていたとおり、のんびり作業をしているとアカになります。昔の林業が儲かっていた時代は、スピードより質を求めても、大丈夫だったでしょう。ただ、現代は補助金が無いと、林業が産業として成り立たなくなった時代。切り捨てられていた間伐材を玩具等に加工して販売したり、林業体験等のイベントを開催したり、用材を生産すること以外の付加価値を追求することで、何とか補助金に頼らず、黒字にしている企業もあるとは思いますが、基本的には補助金に頼らないと、用材生産だけでは赤字になると思われます。
2つ目の理由は、「人目に付かないから」です。
林業は、造園業や土木業と比較して、人里から離れた場所で行われることが多いです。例えば、造園業でいえば、庭に落ち葉が残っていたら、依頼者から指摘されるし、土木業でいえば、伐採した支障木が道路脇に乱雑に放置されていれば、地域住民から指摘されます。一方で、林業の現場は、人目に付きにくい山奥であるため、少々の荒仕事(玉切り・枝払いをしていない等)は気付かれないこともあるし、逆に整理整頓されていない状態の方が、自然な感じで良いという捉え方もあります。林業はより自然に近い産業であるが故に、人為的とは逆をいく大雑把さが許容されるのだと思います。
最後に最も皆さんにお伝えしたいことは、スピード重視による弊害である「質の低下」と「安全性の低下」です。
何が何でも速く植えるがあまり、全部枯れてしまっては、元も子もありません。また、速く作業を終わらせるため、作業手順を省略する等し、事故を起こし、怪我をしてしまえば、元も子もありません。質や安全性を疎かにできない場面では、時間をかけて作業し、その他の場面では、手際よく作業する、そのメリハリが大事なのだと思います。
スピードを重視する傾向にある現代林業において、その弊害として、私のように「速くしないと」と精神的に追い込まれたり、事故による怪我で肉体的・精神的に追い込まれたり、怪我による失職で社会的・精神的に追い込まれたりする人が少なくなるよう、願うばかりです。
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