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2021年01月08日
すっとん切り
「すっとん切り」は切り捨て間伐の、特にヒノキ林で用いられる切り方です。「大根切り」、「ちょん切り」、「ぷっつん切り」、「斜め切り」とも言われます。
立木に対してチェーンソーを斜めに入れ、うまくいけば一発で「ストン」と切り落とすことができます(下図参照)。
ただ、この切り方の欠点は、木を倒したい方向に倒しにくい点です。チェーンソーを斜めに入れて切り始めると、徐々に木が重心の方向(木の傾きや枝張りがある方向)に傾き始め、切り落とすと基本的にはそのまま重心の方向に倒れてしまいます。民家や電線が近くにある場所で、うっかりすっとん切りをしてしまうと、たいていそれらに向けて倒れるため、思わぬ事故や賠償の責任を負うことに成りかねません。
「確実にこの方向に木を倒したい」という場合は、林業に興味のある方はよくご存じだと思いますが、「受け口を作る切り方」をします。下図のように、まず受け口を作り、次に追い口を切り進めると、重心の位置が受け口側にある場合、受け口方向に木が倒れます。ただ、重心の位置が追い口側にある場合は、追い口を切り進める途中に、木が追い口側に傾き、そのままだとバーが挟まれてしまいますが、クサビやチルホールを用いることで、受け口方向に倒すことが可能となります。
チェーンソーの特別教育(これを受けないと、公的機関等が発注したチェーンソーを使う仕事ができない)では、この受け口を作る切り方しか教わりません。繰り返しますが、すっとん切りはどの方向に倒れるか分からず、危ないからです(受け口を作る切り方も、受け口の方向に100%倒れる保証はないですが)。
ただ、受け口を作る切り方は手間がかかるので、小さい木を切る場合は、すっとん切りの方が効率的です。切り捨て間伐をする場合、特にヒノキ林ではせっかく受け口を作って切っても、枝葉が絡んで高確率でかかり木になります。どうせかかり木になるなら、すっとん切りをする方が速いので、実際の作業現場ではよく用いられるという訳です。
経験上、すっとん切りは太い木でもできます(何センチの木とここでは言いませんが)。ただ、太い木のすっとん切りは当然危険を伴うため、法的規則(新安衛則第477条第1項)では胸高直径(地面から1.2m程度の高さの直径)が20cm以上から受け口を作るべきとされています。
すっとん切りをする際、そのまま切り落とそうとすると、重心方向への木の傾きにより、バーがよく挟まれます。ただし、馬力のあるチェーンソーで勢いよく切る場合、良く切れる刃(目立てがうまくできている刃)で切る場合、細い木を切る場合は、木が傾ききる前に切り落とせるので、挟まれにくいです。バーが挟まれると、クサビを打ってノコ道を開け、チェーンソーを救出するか、別のチェーンソーを用いてその上から切る等しないといけないので、結構大変です。下にバーが挟まれた際のイメージ図を載せておきます。
イメージ図で、特に「重心が右方向」の時に挟まれた場合、クサビが打ちにくいので、バーが抜けなければ別のチェーンソーで救出する等するしかなく、結構やっかいです。
バーが挟まれないようにするためにも、切り口に目を凝らしながら切り進めます。イメージ図の「重心が左方向」の木の場合は、直径の8〜9割ほど切り進めると、バーが挟まれる方向に木が傾いてくるのが分かるので、傾ききる直前に「スッ」とバーを抜きます。そして、残りの1〜2割を反対側(右側)から切ると、木はたいてい「ストン」と地面に落ちます。10割切っても落ちないで、切り口に木が乗っかった状態になる場合もありますが、ハンマーで木を「コツン」とたたくと「ストン」と落ちます。
イメージ図の「重心が右方向」の木の場合、私はたいてい直径の8〜9割切った後、いったんバーを抜きます。その際、木の傾きが小さければ、そのまま勢い良く切り落としますが、木の傾きが大きければ、そのまま切り進めると、イメージ図のようにバーが挟まれる恐れがあるため、残りの1〜2割は「軽くバーを当ててはすぐ離し」を繰り返して、慎重に切ります。状況を見ながら、反対側(右側)からも同様の要領で慎重に切ります。左右両側から慎重に切り進め、10割近く切り終えると、自然に地面に落ちるか、ハンマーで木をたたいて落とします。木をたたいても落ちない場合は、クサビを挟んで打つと落ちます。ようやく落ちてくれたところで、次の作業(切り株を足元の高さで切り直し、かかり木処理や玉切り・枝払い)に入れます。
実際に山の斜面で切る際、私は木の上側(山側)に立ち、重心を見て右方向に切るか、左方向に切るかを決めます。私は重心方向(枝張りや傾きがある方向)に切るようにしています。重心と反対方向に切ると、バーが挟まれる可能性が高いからです(もちろん、重心方向に切っても挟まれることは多々ありますが)。ただ、山の斜面であるため、重心が右方向・左方向だけではなく、たいてい前方向(斜面下方向)にもかかっているため、完全に右方向、左方向へ切るのではなく、若干右斜め前方向、左斜め前方向へ切ることが多いです。
重心が完全に前方向(斜面下方向)や後ろ方向(斜面上方向)に傾いている場合は、木の横側に立って真下・真上方向に切ります。その際、軽い受け口(バーをほんの少し入れる程度)を作っておくと、裂けにくく、切り離しやすくなります。
急斜面ですっとん切りをする場合、切り落した木が斜面下方向にズレ落ちやすく、他の木にかからずに一気に倒れ、退避する間もなく伐倒者を直撃する恐れがあるため、基本的にはすっとん切りは避けるべきです(かかり木になる手間をいとわず、受け口を作る切り方をするべきです)。それでも、状況に応じてすっとん切りを選択する場合は、退避場所を事前に充分確認・確保することが必須です。
また、枯れ木をすっとん切りする場合、切った木が伐倒者の方に倒れやすい傾向にあるのと、切った衝撃で上空の枝が折れ、枝が伐倒者に落ちてくる危険があるため、注意が必要です。上記の理由から、枯れ木は木が小さい場合を除いて、すっとん切りは避けるべきです。
あと、切る前の段階でチェーンソーの届く高さに枝がある場合は、先に枝払いを済ませておきます。そして、切り口の高さは一般的に切りやすい位置(腹から胸あたり)にしますが、万が一、バーが挟まれて抜けなくなり、他のチェーンソーで上から切りなおす場合があることを考慮すると、若干低め(腰あたり)でも良いかと思います。
以上、すっとん切りについて、実際に現場で作業して感じたことも踏まえて書いてみました。すっとん切りはあまり教科書には載っていない切り方なので、現場で先輩に初めて教わることがほとんどだと思います。故に、人によってやり方が微妙に違ったり、すっとん切りについて教科書やネットで調べても、あまり情報が無かったりします。その結果、下手な作業をして、怪我につながる場合もあるかもしれません。もちろん、私が書いている情報は100パーセント正解ではなく、ここに書かれてあるとおりに作業をして怪我をしても、責任が取れないので、あくまで参考にしていただきたいのですが、私のような林業初心者の、ある種の知恵になるような情報を、今後とも発信していきたいと思います。
※ 記事一覧はこちら
立木に対してチェーンソーを斜めに入れ、うまくいけば一発で「ストン」と切り落とすことができます(下図参照)。
ただ、この切り方の欠点は、木を倒したい方向に倒しにくい点です。チェーンソーを斜めに入れて切り始めると、徐々に木が重心の方向(木の傾きや枝張りがある方向)に傾き始め、切り落とすと基本的にはそのまま重心の方向に倒れてしまいます。民家や電線が近くにある場所で、うっかりすっとん切りをしてしまうと、たいていそれらに向けて倒れるため、思わぬ事故や賠償の責任を負うことに成りかねません。
「確実にこの方向に木を倒したい」という場合は、林業に興味のある方はよくご存じだと思いますが、「受け口を作る切り方」をします。下図のように、まず受け口を作り、次に追い口を切り進めると、重心の位置が受け口側にある場合、受け口方向に木が倒れます。ただ、重心の位置が追い口側にある場合は、追い口を切り進める途中に、木が追い口側に傾き、そのままだとバーが挟まれてしまいますが、クサビやチルホールを用いることで、受け口方向に倒すことが可能となります。
チェーンソーの特別教育(これを受けないと、公的機関等が発注したチェーンソーを使う仕事ができない)では、この受け口を作る切り方しか教わりません。繰り返しますが、すっとん切りはどの方向に倒れるか分からず、危ないからです(受け口を作る切り方も、受け口の方向に100%倒れる保証はないですが)。
ただ、受け口を作る切り方は手間がかかるので、小さい木を切る場合は、すっとん切りの方が効率的です。切り捨て間伐をする場合、特にヒノキ林ではせっかく受け口を作って切っても、枝葉が絡んで高確率でかかり木になります。どうせかかり木になるなら、すっとん切りをする方が速いので、実際の作業現場ではよく用いられるという訳です。
経験上、すっとん切りは太い木でもできます(何センチの木とここでは言いませんが)。ただ、太い木のすっとん切りは当然危険を伴うため、法的規則(新安衛則第477条第1項)では胸高直径(地面から1.2m程度の高さの直径)が20cm以上から受け口を作るべきとされています。
すっとん切りをする際、そのまま切り落とそうとすると、重心方向への木の傾きにより、バーがよく挟まれます。ただし、馬力のあるチェーンソーで勢いよく切る場合、良く切れる刃(目立てがうまくできている刃)で切る場合、細い木を切る場合は、木が傾ききる前に切り落とせるので、挟まれにくいです。バーが挟まれると、クサビを打ってノコ道を開け、チェーンソーを救出するか、別のチェーンソーを用いてその上から切る等しないといけないので、結構大変です。下にバーが挟まれた際のイメージ図を載せておきます。
イメージ図で、特に「重心が右方向」の時に挟まれた場合、クサビが打ちにくいので、バーが抜けなければ別のチェーンソーで救出する等するしかなく、結構やっかいです。
バーが挟まれないようにするためにも、切り口に目を凝らしながら切り進めます。イメージ図の「重心が左方向」の木の場合は、直径の8〜9割ほど切り進めると、バーが挟まれる方向に木が傾いてくるのが分かるので、傾ききる直前に「スッ」とバーを抜きます。そして、残りの1〜2割を反対側(右側)から切ると、木はたいてい「ストン」と地面に落ちます。10割切っても落ちないで、切り口に木が乗っかった状態になる場合もありますが、ハンマーで木を「コツン」とたたくと「ストン」と落ちます。
イメージ図の「重心が右方向」の木の場合、私はたいてい直径の8〜9割切った後、いったんバーを抜きます。その際、木の傾きが小さければ、そのまま勢い良く切り落としますが、木の傾きが大きければ、そのまま切り進めると、イメージ図のようにバーが挟まれる恐れがあるため、残りの1〜2割は「軽くバーを当ててはすぐ離し」を繰り返して、慎重に切ります。状況を見ながら、反対側(右側)からも同様の要領で慎重に切ります。左右両側から慎重に切り進め、10割近く切り終えると、自然に地面に落ちるか、ハンマーで木をたたいて落とします。木をたたいても落ちない場合は、クサビを挟んで打つと落ちます。ようやく落ちてくれたところで、次の作業(切り株を足元の高さで切り直し、かかり木処理や玉切り・枝払い)に入れます。
実際に山の斜面で切る際、私は木の上側(山側)に立ち、重心を見て右方向に切るか、左方向に切るかを決めます。私は重心方向(枝張りや傾きがある方向)に切るようにしています。重心と反対方向に切ると、バーが挟まれる可能性が高いからです(もちろん、重心方向に切っても挟まれることは多々ありますが)。ただ、山の斜面であるため、重心が右方向・左方向だけではなく、たいてい前方向(斜面下方向)にもかかっているため、完全に右方向、左方向へ切るのではなく、若干右斜め前方向、左斜め前方向へ切ることが多いです。
重心が完全に前方向(斜面下方向)や後ろ方向(斜面上方向)に傾いている場合は、木の横側に立って真下・真上方向に切ります。その際、軽い受け口(バーをほんの少し入れる程度)を作っておくと、裂けにくく、切り離しやすくなります。
急斜面ですっとん切りをする場合、切り落した木が斜面下方向にズレ落ちやすく、他の木にかからずに一気に倒れ、退避する間もなく伐倒者を直撃する恐れがあるため、基本的にはすっとん切りは避けるべきです(かかり木になる手間をいとわず、受け口を作る切り方をするべきです)。それでも、状況に応じてすっとん切りを選択する場合は、退避場所を事前に充分確認・確保することが必須です。
また、枯れ木をすっとん切りする場合、切った木が伐倒者の方に倒れやすい傾向にあるのと、切った衝撃で上空の枝が折れ、枝が伐倒者に落ちてくる危険があるため、注意が必要です。上記の理由から、枯れ木は木が小さい場合を除いて、すっとん切りは避けるべきです。
あと、切る前の段階でチェーンソーの届く高さに枝がある場合は、先に枝払いを済ませておきます。そして、切り口の高さは一般的に切りやすい位置(腹から胸あたり)にしますが、万が一、バーが挟まれて抜けなくなり、他のチェーンソーで上から切りなおす場合があることを考慮すると、若干低め(腰あたり)でも良いかと思います。
以上、すっとん切りについて、実際に現場で作業して感じたことも踏まえて書いてみました。すっとん切りはあまり教科書には載っていない切り方なので、現場で先輩に初めて教わることがほとんどだと思います。故に、人によってやり方が微妙に違ったり、すっとん切りについて教科書やネットで調べても、あまり情報が無かったりします。その結果、下手な作業をして、怪我につながる場合もあるかもしれません。もちろん、私が書いている情報は100パーセント正解ではなく、ここに書かれてあるとおりに作業をして怪我をしても、責任が取れないので、あくまで参考にしていただきたいのですが、私のような林業初心者の、ある種の知恵になるような情報を、今後とも発信していきたいと思います。
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