2020年06月12日
永遠の読書スランプ(子どもの読者視点から)
小説投稿サイトに出そうと思っていた文章ですが、
これを小説投稿サイトでアップするのは無礼な気がしたので
こっちに上げることにしました。
*
私は小学生の頃、本を読むのが好きだった。小学生が読む本だから大抵イラスト付きの童話で、あまり絵のないものでも夢いっぱいのファンタジーだったりした。
私は本の世界で多くの感動を味わった。しかし大きくなると、少し心配なことが出てきた。大人が読む本といえば小説だ。電車の中とかで絵本や児童書を広げている人なんかいないだろう。大人になったら絵本や児童書を読むのを我慢して小説に切り替えなくてはならない。で、その小説というのは面白いのだろうか?
私が「面白い」と思うのは、主に人間以外の登場人物(動物、妖怪、幽霊、神様など)が出てきたり、人間であっても人間離れした世界の話だったりと、夢や空想的な話だ。
そこには「またあの世界に行きたいな」と思うようなじんわりとした感動がある。
……小説といえば絵がなくて難しいイメージだ。リアルな登場人物が同じくリアルな登場人物と、気だるい空気の中でうだつの上がらない会話をしている。と、そんなイメージであった。
そこで私は小説を読んでいる大人に「小説というのは読み終わったあとに感動があるのか?」と尋ねた。
あんな字が小さくて分厚くて、絵がない本を頑張って読みきるのだ。最後に「そうだったのか……!」と涙するような感動が待っていてくれなきゃ困る。
しかし大人はこう答えた。「小説に感動するようなのはあまりない。読んでも感動しない」と。
私は呆気にとられた。
何のために、最後まで読みきっても感動のない文字の羅列に目を通し続けているのか。意味が分からない。
でもたしかに大人というのは、いつもつまらなさそうな顔をして面白くもないことをやっている。小説というのはきっと大人らしい大人が書き、大人が読むものなのだ。幻想的だったり面白かったりというイメージはないし、感動もなくて当然だろう。
私は読書に失望した。
本の中には別世界が広がっているから面白かったのだ。物語の余韻を味わうためには、文字がぎっしり詰まっていればいいというものではない。むしろ文字数が少ない方が想像の余地があって楽しいことも多い。すぐ読み終わるような童話でも、心に深く残る名作がたくさんあったのだ。
小難しい大人たちのボソボソとした会話なんて、現実だけで十分だ。ゲラゲラ笑えるわけでもなく感動の涙を流せるわけでもない、小説というのは大層つまらないものに違いない。そう思っていた。
……しかしあれから時が流れ……
あんな子どもだった私にも、小説の良さが分かるようになった。
と書きたいところだがそんなことなかった。
私は段々本から離れ、長文が読めなくなっていった。本屋で買うものといえばほとんどマンガになった。しかしマンガやラノベを読んでも、あの頃読んだ童話の向こうに見えた「世界の広がり」をあまり感じられずにいた。
なんというか、絵本や児童書を読んでいるときは心地よい孤独感があった。本の中に登場人物がたくさん出てきても、読んでいる私は一人で、本の世界にも静けさがあるのだ。
ところが最近の本というのは、それ自体が一つの世界になっていない。ちらちらと別の場所を意識しているような気がする。夢の記憶や森の中のような静けさ、心地よい「淡さ」がないのだ。本を読んでいてもどこか現実と繋がっている。
例えるなら以前の読書は深い眠り、今の読書は浅い眠りだ。
一体なぜなのだろう。何にでもなれると思っていた柔軟な子どもの心が、物語の世界への没入感を生み出していたのだろうか。
インターネットとの繋がりが増したことで、人間が文章を書くときに出す空気自体が変わったのかもしれない。クレームを入れられないようにと表現に気を配り、削ぎ落とし、機嫌をうかがうようになったのかもしれない。あるいは時代を越える普遍的な感覚より、今この時代に生きる感覚を重視する人が増えたのかもしれない。本が読者以外の誰かと会話をしていて、こっちを向いてくれない。
それとも本でなく自分の問題なのだろうか。世界に情報が増えすぎて、私は縦横無尽に放たれる言葉の数々に浮き沈みし、読むということが少し苦手になった。
子どもの頃はシンプルに好みで取捨選択していたものを、今は整理できなくなったのかもしれない。
昔はきっと今より文章や情報が少なかった。物語の世界においては「それは正しいのかどうか?」なんてことはどうでも良かった。文章を通して精神世界にいた。貴重品である文章を、丁寧に箱から取り出して味わっていたのだ。
今はなんだか騒々しい。すべてがリアルを求めている気がする。普遍的なものより、うつろいゆく時代の瞬間にアクセスが集中する。
あの頃にはもう戻れない。
これを小説投稿サイトでアップするのは無礼な気がしたので
こっちに上げることにしました。
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私は小学生の頃、本を読むのが好きだった。小学生が読む本だから大抵イラスト付きの童話で、あまり絵のないものでも夢いっぱいのファンタジーだったりした。
私は本の世界で多くの感動を味わった。しかし大きくなると、少し心配なことが出てきた。大人が読む本といえば小説だ。電車の中とかで絵本や児童書を広げている人なんかいないだろう。大人になったら絵本や児童書を読むのを我慢して小説に切り替えなくてはならない。で、その小説というのは面白いのだろうか?
私が「面白い」と思うのは、主に人間以外の登場人物(動物、妖怪、幽霊、神様など)が出てきたり、人間であっても人間離れした世界の話だったりと、夢や空想的な話だ。
そこには「またあの世界に行きたいな」と思うようなじんわりとした感動がある。
……小説といえば絵がなくて難しいイメージだ。リアルな登場人物が同じくリアルな登場人物と、気だるい空気の中でうだつの上がらない会話をしている。と、そんなイメージであった。
そこで私は小説を読んでいる大人に「小説というのは読み終わったあとに感動があるのか?」と尋ねた。
あんな字が小さくて分厚くて、絵がない本を頑張って読みきるのだ。最後に「そうだったのか……!」と涙するような感動が待っていてくれなきゃ困る。
しかし大人はこう答えた。「小説に感動するようなのはあまりない。読んでも感動しない」と。
私は呆気にとられた。
何のために、最後まで読みきっても感動のない文字の羅列に目を通し続けているのか。意味が分からない。
でもたしかに大人というのは、いつもつまらなさそうな顔をして面白くもないことをやっている。小説というのはきっと大人らしい大人が書き、大人が読むものなのだ。幻想的だったり面白かったりというイメージはないし、感動もなくて当然だろう。
私は読書に失望した。
本の中には別世界が広がっているから面白かったのだ。物語の余韻を味わうためには、文字がぎっしり詰まっていればいいというものではない。むしろ文字数が少ない方が想像の余地があって楽しいことも多い。すぐ読み終わるような童話でも、心に深く残る名作がたくさんあったのだ。
小難しい大人たちのボソボソとした会話なんて、現実だけで十分だ。ゲラゲラ笑えるわけでもなく感動の涙を流せるわけでもない、小説というのは大層つまらないものに違いない。そう思っていた。
……しかしあれから時が流れ……
あんな子どもだった私にも、小説の良さが分かるようになった。
と書きたいところだがそんなことなかった。
私は段々本から離れ、長文が読めなくなっていった。本屋で買うものといえばほとんどマンガになった。しかしマンガやラノベを読んでも、あの頃読んだ童話の向こうに見えた「世界の広がり」をあまり感じられずにいた。
なんというか、絵本や児童書を読んでいるときは心地よい孤独感があった。本の中に登場人物がたくさん出てきても、読んでいる私は一人で、本の世界にも静けさがあるのだ。
ところが最近の本というのは、それ自体が一つの世界になっていない。ちらちらと別の場所を意識しているような気がする。夢の記憶や森の中のような静けさ、心地よい「淡さ」がないのだ。本を読んでいてもどこか現実と繋がっている。
例えるなら以前の読書は深い眠り、今の読書は浅い眠りだ。
一体なぜなのだろう。何にでもなれると思っていた柔軟な子どもの心が、物語の世界への没入感を生み出していたのだろうか。
インターネットとの繋がりが増したことで、人間が文章を書くときに出す空気自体が変わったのかもしれない。クレームを入れられないようにと表現に気を配り、削ぎ落とし、機嫌をうかがうようになったのかもしれない。あるいは時代を越える普遍的な感覚より、今この時代に生きる感覚を重視する人が増えたのかもしれない。本が読者以外の誰かと会話をしていて、こっちを向いてくれない。
それとも本でなく自分の問題なのだろうか。世界に情報が増えすぎて、私は縦横無尽に放たれる言葉の数々に浮き沈みし、読むということが少し苦手になった。
子どもの頃はシンプルに好みで取捨選択していたものを、今は整理できなくなったのかもしれない。
昔はきっと今より文章や情報が少なかった。物語の世界においては「それは正しいのかどうか?」なんてことはどうでも良かった。文章を通して精神世界にいた。貴重品である文章を、丁寧に箱から取り出して味わっていたのだ。
今はなんだか騒々しい。すべてがリアルを求めている気がする。普遍的なものより、うつろいゆく時代の瞬間にアクセスが集中する。
あの頃にはもう戻れない。
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