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2018年09月15日

9月15日は何に陽(ひ)が当たったか?

 1984年9月15日は、分裂状態にあったアメリカのプログレッシブ・ロック・グループ、Kansas(カンサス)のコンピレーション盤、"The Best of Kansas(邦題:ベスト・オブ・カンサス)"が、Billboard200アルバムチャートで最高位154位を記録した日です。Kansasがどん底にあえいでいた時代にリリースされたため、チャートの順位では下位ですが、チャートには現れない、現在でも愛聴されているKansasの入門アルバムとして好評を得ています。

 1983年にリリースされた"Drastic Measures(邦題:ドラスティック・メジャーズ)"では、Kansasの音楽における重要な柱であったRobby Steinhardt(ロビー・スタインハート。vo,violin)が不在でしたので、70年代のKansas流プログレッシブ・ロック・サウンドは影を潜めたアルバムとなりました。さらにはこれまでのソングライティング面では重厚で超常的な詩と旋律で重要な存在であったメンバーのKerry Livgren(ケリー・リヴグレン。gtr,key)の創る楽曲の収録が減り、代わって1982年に加入したJohn Elefante(ジョン・エレファンテ。vo,key)の作品が中心となったことで、全体的にキャッチーでメロディアスなハード・ロック・アルバムに変容してしまったことが災いし、カットされたシングルはTop40入りはならず、アルバムチャートでは41位が最高位となり、セールスやチャートでは厳しい結果となりました。これにより、メンバーの柱であったKerry LivgrenおよびベーシストのDave Hope(デイヴ・ホープ。bass)が脱退を表明しました。

 要が不在となったKansasは、John、Phil Ehart(フィル・イハート。drums)、Rich Williams(リッチ・ウィリアムス。guitar)の3人のみとなり、グループとしての活動はいっきに縮小しました。
 1984年は、デビュー作"Kansas(邦題:カンサス・ファーストアルバム)"がリリースされた1974年から節目の10周年を迎える年でした。まさにどん底の時代に節目を迎えたKansasは、デビューして初めてのベスト・アルバムをリリースすることを決めました。これが、1984年7月31日にリリースされました"The Best of Kansas"です。

 本作には新曲"Perfect Lover(邦題:パーフェクト・ラヴァー)"がベスト盤に合わせて発表され、シングルとしてもリリースされました。この曲はPhil、Rich、Johnの他、JohnがKansas加入後も共にソングライティングで協力体制にあった兄のDino Elefante(ディノ・エレファンテ。bass)や、CCM系のアーチストでクリスチャン・ロック・バンド、Sweet Comfort BandのBryan Duncan(ブライアン・ダンカン。vo,key)らがサポートしてレコーディングを完成させました。
 曲目は以下の10曲です。
A面(アナログ)
1."Carry On Wayward Son(Remixed version。邦題:伝承)"・・・Originally from "Leftoverture(邦題:永遠の序曲。1976)"
2."Point of Know Return(邦題:帰らざる航海)"・・・from "Point of Know Return(暗黒への曳航。1977)"
3."Fight Fire with Fire(邦題:炎の欲望)"・・・from "Drastic Measures(邦題:ドラスティック・メジャーズ。1983)"
4."Dust in the Wind(邦題:すべては風の中に)"・・・from "Point of Know Return"
5."Song for America(Edited version。邦題:ソング・フォー・アメリカ)"・・・Originally from "Song for America(邦題:ソング・フォー・アメリカ。1975)"
B面
1."Perfect Lover(邦題:パーフェクト・ラヴァー)"・・・新曲。
2."Hold On(邦題:ホールド・オン)"・・・from "Audio-Visions(邦題:オーディオ・ヴィジョン。1980)"
3."No One Together(邦題:ノー・ワン・トゥゲザー)"・・・from "Audio-Visions"
4."Play the Game Tonight(邦題:プレイ・ザ・ゲーム・トゥナイト)"・・・"Vinyl Confessions(邦題:ビニール・コンフェッション。1982)"
5."The Wall(Remixed version。邦題:)"・・・Originally from"Leftoverture"

 John加入前のヴォーカリストで、全盛期のKansasで最も人気のあったメンバー、Steve Walsh(スティーヴ・ウォルシュ。vo,key)の歌声を最良の音で再び登場させるため、名曲のA-1とB-5はリミックスが施され、大作のA-5はエディット盤として収録されました。発売当時はJohn Elefanteが看板ヴォーカリストでしたので、当時としては直近のシングル"Fight Fire with Fire"がA-3と早めの登場です。選曲としては全盛期の"Monolith(邦題:モノリスの謎。1979)"やアナログ当時2枚組だったライブ盤"Two for the Show(邦題:偉大なる聴衆へ。1978)"、そしてヒットアルバム"Song for America"と"Leftoverture"の間に挟まれた"Masque(邦題:仮面劇。1975)"、さらにはデビュー作"Kansas"からは、なぜか1曲も選ばれませんでした。"Monolith"からからは"People of the South Wind(邦題:まぼろしの風)"や"Reason to Be(邦題:リーズン・トゥ・ビー)"がヒットしたにもかかわらず、選ばれなかったのが不思議ですし、かつ理由が知りたい興味深さもあります。何はともあれ当時のKansas愛聴者にとっては、80年代においても、かつての壮大でドラマティックなKansasのプログレッシブ・ロックを常に期待していたと思うので、このベスト盤は非常にありがたかったことでしょう。
 さて、チャートの面では1984年9月8日付Billboard200アルバムチャートで162位に初登場し、陽の当たった9月15日から2週続けて154位を最高位として記録後、192位→190位、そして圏外へと消え、わずか5週のチャートインで終わりました。シングル・カットされた"Perfect Lover"はメインストリームロックチャート(当時はTop Rock Tracks)は9月1日付で54位を記録したのみで、HOT100シングルチャートにはチャートインしませんでした。その後KansasはSteve Walshが復帰する1986年までは一時的な活動停止となり、John ElefanteはKansasを離れました。
 チャートの上では失敗しましたが、このベスト・アルバムはゆっくりと売れ続けて、1990年10月の段階でRIAAのプラチナレコードに認定され、1992年5月28日付Billboard Top Catalog Albumsチャートにも1週だけではありますがチャートインし(37位)、1997年にはトリプル・プラチナに認定されました。
 1999年にはデビュー25周年を迎えましたが、メンバーは"The Best of Kansas"を改めて再編集して再リリースすることになりました。再リリース盤では1984年盤のA-1とB-5のリミックス・ヴァージョンがオリジナル・ヴァージョンとして置き換えられた他、"Perfect Lover"が外されて新たに"The Pinnacle(邦題:尖塔)"、"The Devil Game(邦題:邪悪なゲーム)"、そして"Closet Chronicles(邦題:孤独な物語)"が加えられました。"The Pinnacle"は"Masque"、"The Devil Game"は"Song for America"からの選曲ですが、ここでの注目はもう1曲、"Closet Chronicles"です。これはライブ盤"Two for the Show"からの選曲で、CD化に伴い、もともと2枚組だったアナログ盤を1枚のCDに置き換える際、収録可能時間の関係で収録から外されてしまい、アナログ盤でしか聴くことのできなかったナンバーです(2008年に再リリースされたこのライブ盤は収録)。"Closet Chronicles"のライブ・ヴァージョンが収録されたことでも1999年版の"The Best of Kansas"の価値は大きく高まりました。この効果があったのか、2001年12月で、"The Best of Kansas"はトリプルの上を行くクアドラプル・プラチナ・ディスクに認定され、地道に長く売れ続けました。

 ちなみに、この"The Best of Kansas"のジャケットは非常に興味深く、デビュー作"Kansas"から"Drastic Measures"までのジャケットのシンボル・デザインがすべて、随所に描かれているのも興味深いです。中には隠し絵的な描かれ方もあり、個人的に気に入っているのは、"Masque"のあの珍奇な肖像画を構成する1匹の魚が、デビュー作"Kansas"のジャケットを飾るアボリショニスト(南北戦争期の奴隷廃止運動家)のJohn Brown(ジョン・ブラウン。1800-59。『世界史の目 42話』より)の髭に隠れている部分です。ちなみにJohn Brownは、"Drastic Measures"のシンボルである赤い蝶ネクタイも身につけています。

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