2020年10月28日
集団免疫が成功かスウェーデン2 新冷戦(112)
新冷戦(112)
1からの続きです
記事の後半にはスウェーデン政府がどのよ
うに集団免疫を進めたかが記述されていま
す。アンデシュ・テグネル氏という国家疫
学者がを助言したようです。それがロック
ダ(都市封鎖)には、はっきりとした学術的
エビデンスがないということなんです。中
国の武漢を最初に、ニューヨーク、パリ、
ロンドンと地球的な大都市が次々と都市封
鎖をしたのですが、都市封鎖の明確な根拠
がないなどは知りませんでした。
スウェーデン政府は、新型コロナの感染力
の程度や、感染した人はどんな症状が出る
のか、などを細かく確認しながら対策をし
ていたということです。これを国民に説明
し、国民はこの政府の政策を支持したとい
うことです。重要視したのはソーシャル・
ディスタンスのようです。
スウェーデンは感染が拡大し、死亡者が多
かった時には各国から非難されました。疫
学者のテグネル氏も高齢者を守れなかった、
という発言があったということです。この
時期の内容を詳しく見ると、死者数の9割
が70歳以上の高齢者だったということで
す。死亡した70歳以上の高齢者の約半分
は介護施設に居住していたということなの
です。スウェーデンの介護施設は重度の要
介護者が入居できるのでですが、パートタ
イム職員が多く、新型コロナへの感染防止
対策が十分行き届かず、クラスターがいく
つも発生してしまったということです。
スウェーデンの政策は初めから集団免疫を
狙ったものでなく、初めは医療崩壊の回避
を考えていたようです。細胞性免疫が存在
していることが報告されるようになり、
7月17日に集団免疫がほぼ獲得されたと発
表しました。細胞性免疫というのは、ガン
細胞やウイルスに侵略された細胞など、異
常な細胞を直接攻撃する細胞です。これに
対して液性免疫という言葉もあります。こ
れは抗体を産生して異物を攻撃するものを
指します。細胞性免疫が報告されるように
なって、ロックダウン(都市封鎖)は考える
必要がなくなったのでしょう。
スウェーデンの例を参考にして真似るとし
たら、ソシアル・ディスタンスと感染者の
隔離でしょう。これで急激な感染拡大を防
げたら可能性がありそうです。
スーパーセル・オハイオ州
スウェーデンが「集団免疫」を獲得 現地医師が明かす成功の裏側
配信
1からの続きです
死者が多いのは別の原因
東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏は、 「スウェーデンの新型コロナ対策には、重要なポイントが二つあると思います」 と、こう説明する。
「一つは、国家疫学者であるアンデシュ・テグネル氏が、しっかりと対策方針を立てて政府に助言し、政府はそれを最大限実践していることです」
宮川医師の言葉で少し補足すれば、「ロックダウンには、はっきりとした学術的エビデンスがない」というのが、テグネル氏の主張だった。唐木氏の話に戻る。 「対比されるのがイギリスのジョンソン首相で、最初はスウェーデンに近い緩い対策を打ち出しながら、世論に押されて方針を変更してしまいました。
一方、スウェーデンは各国から非難されながらも、新型コロナの感染力がどの程度で、どんな人が感染し、どんな症状が出るのか、確認しながら対策していた。
二つめのポイントは、国民が国の対策を支持したことで、対策方針をきちんと説明したことが、大きかったのではないでしょうか」
一方、日本はといえば、 「専門家会議に振り回され、命がいちばん大事だ、という点ばかりを重視した対策をとってしまった。
専門家、すなわち命を守ること以外は使命ではない医療関係者の意見に引きずられた結果、国民も自粛一本やりになってしまいました」
だが、問題は、そういう対策が本当に「命」を守ることにつながるのか、である。
京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授が言う。 「集団免疫を獲得してさっさと収束させるか、ワクチンや薬ができるまで自粛を続けるか。新型コロナはどちらかまで収束しませんが、医療崩壊しないかぎり、トータルの感染者数と死者数は変わらないと考えられます。
そうであれば、生活を自制する期間が短いほど経済への影響は小さくてすみ、経済苦に悩まされて自殺する人などを含む、トータルの死者数を抑えることができます。
ワクチン開発には時間がかかるでしょう。その間、経済がダメージを受け続けるなら、重症化しやすい人への感染を防ぎつつ集団免疫を獲得し、早めに収束させたほうがいい」
もっとも、スウェーデンの対策は必ずしも集団免疫獲得を狙ったものではない旨を、宮川医師は説く。 「長期間の持続が困難なロックダウンは避け、ソーシャルディスタンスをとりながら高齢者を隔離し、医療崩壊の回避を狙ったのです。
6月時点で、ストックホルムでの抗体保有率は20%程度でしたが、新型コロナに対し、感染を防いだり軽症化させたりする細胞性免疫が存在する可能性が次々と報告され、公衆衛生庁は7月17日、“集団免疫がほぼ獲得された”という見解を発表しました。これはいわば副産物です」
いずれにせよ、収束にいたる最短の道を歩んでいることは間違いない。 「今年第1四半期(1〜3月)のGDPは、ユーロ圏で唯一プラス成長。第2四半期の落ち込みもマイナス8・6%と、EU諸国一般ほどは、経済への打撃は受けませんでした」
それでもノルウェーの死者数は275人、フィンランドは345人なのにくらべ、スウェーデンは犠牲が大きすぎたという指摘もある。だが、『北欧モデル』の共著もある日本総合研究所の翁百合理事長が言う。 「5月にはトランプ大統領が“スウェーデンの緩やかな対策は、大きな代償を払うだろう”と厳しく非難し、ほかにも“経済を最優先して死者数が増えた”といった報道も多い。
しかし、これらはスウェーデンのコロナ対策の実態を理解しているとは言いがたいものです。死者が多かったのは、むしろ介護システムの問題です。
医療と介護の機能分担に続き、高齢者の在宅介護が進められ、施設には重度の要介護高齢者が入るようになった。その施設は管轄が県から市町村に移ったうえに、民営化が進んでコスト削減が求められました。
介護施設の医療は手薄になり、介護者も3割は時給が安いパートタイマーで、多くは移民。スウェーデンで新型コロナに感染して亡くなった人の9割は70歳以上で、その5割は介護施設に居住していました。
感染防止対策が不十分な環境下で、パート勤務の介護者などが重度の要介護高齢者の介護に当たったため、クラスターが発生した。そういう構造的な問題があったのです」
テグネル氏が「守るべき高齢者を守れなかった」と言うと、スウェーデンの敗北宣言のように報じられたが、実際には、介護システムの問題を悔やんでの発言だったという。
死亡が若干前倒しに
スウェーデンにおける新型コロナ禍の犠牲者について、もう少し踏み込んでおこう。死亡者の平均年齢83歳は、スウェーデンの平均寿命83・1歳と重なる。ただし、83歳時点での平均余命は7年程度あるが、コロナ禍で死亡した高齢者の8割は、在宅を含め要介護者だった。
ちなみに介護施設の入居者は、必ずしも予後が悪くない認知症患者を含めても、入居後18カ月で4割が死亡するという。
このデータを前提に、誤解を恐れずに指摘するなら、犠牲者の多くは、新型コロナに感染して死亡が若干前倒しになった、とは言えないか。先に紹介したように、最近、週ごとの死者数全体が例年より少ないのは、その証左ではないか。
この点を宮川医師に尋ねると、 「スウェーデン国内にそういう見方はあります」 と言って、こう続ける。 「19年から20年にかけ、記録的な暖冬で、新型コロナ流行前は高齢者の死亡が少なかった。例年通りの気候であれば冬を迎えて亡くなるはずだった方が生き延び、新型コロナに感染して亡くなったこともあり、死亡者数の波が余計に高くなったという状況です。
また、新型コロナの犠牲になったのは予後が悪い方が中心だというのは、真実に近いと思います。もっとも、適切な医療を受ければ助かった人もいるはずで、私の義父もコロナに感染してはいませんが、医療を受けられず亡くなりました。だからといって、スウェーデンの政策が間違っていたということではありません」
そして、スウェーデン在住者の実感を漏らす。 「ロックダウンは副作用がかなり大きく、経済的ダメージのみならず、長期的には精神面も含め、健康に悪影響を及ぼして命にかかわってきます。また、センシティブで難しい問題ですが、ロックダウンで失われる命は、若い世代のほうが多いでしょう。年齢に関係なく命は等価だという意見もありますが、予後が悪い高齢者と、これから社会を背負っていく若い人が同じであるとは、簡単には言い切れないと思います」
経済がどん底のところに、パリやマドリッドばかりか、ニューヨークも再度のロックダウンを検討しているという。片や非難の的であったスウェーデンは、死者がゼロの日も多い。日本はそこから何を学ぶべきか。医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏が言う。-
「スウェーデンは結果的に利口な対策でしたが、4〜5月の時点ではわからないことだらけで、イチかバチかの側面があったでしょう。それに日本とは社会的背景も国民性も異なるので、日本も真似をすべきだったとは言い切れません。
しかし、データが揃いつつあるいまは違う。冬に向けて第3波がやってきたとき、また緊急事態宣言、外出自粛や休業要請というのは合理的ではありません。ロックダウンをしなくても収束に向かい、集団免疫も得られることが、スウェーデンのデータからわかるし、そもそもこのウイルスは、日本人には大きな脅威にならないことがわかっている。
外出自粛で感染防止に執心するだけでなく、たとえばステイホームの結果としての孤独が、自殺が増えるという最悪の事態に発展していることも考えるべきです」
スウェーデンの新型コロナ対策の背後に感じられるのは、このウイルスとは長い付き合いになるという覚悟と、そうである以上、無理は禁物だという大人の判断だ。結果として、無用に追い詰められる人は少なくなる。表面的には日本と似た緩い対策を支える精神の違い。日々の感染者数に一喜一憂する日本が学ぶべきはそこにあろう。
「週刊新潮」2020年10月15日号 掲載 新潮社
★芸術の秋 クロード・モネ
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