「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承
する会」の講演で、「ＩＣＡＮ受賞で機
運が盛り上がる中、核兵器廃絶を実現し
よう」と訴える日本被団協顧問の岩佐幹
三さん＝２日、東京都千代田区

　「思いが受け継がれた」。

　10日の授賞式で「核兵器廃絶国際キャンペーン（ICAN）」がノーベル平和賞を受賞する背景には、72年前の惨禍から核兵器の非人道性を訴えてきた日本原水爆被害者団体協議会（日本被団協）の存在があった。被爆者運動をけん引してきた日本被団協顧問、岩佐幹三さん（88）＝千葉県船橋市＝はICANの受賞決定に、運動継承への確かな手応えを感じ、思いを強めている。

　「お母さん、僕も後から逝くからね」。1945年8月6日、爆心地から約1．2キロの広島市中区富士見町にあった自宅が倒壊し、母親が下敷きに。猛火が迫る中、切り裂かれるような思いで声を掛け逃げた。父親は既に病死しており、16歳で孤児となった。爆心地近くにいた妹は遺体も見つからなかった。

　叔母の支えで大学を卒業し、金沢大法学部の教官となった翌年に、米国の水爆実験で「第五福竜丸」が被ばく。反核を訴える漁師の演説に触発されて被爆者運動に携わるようになり、60年に石川県原爆被災者友の会を設立した。

　2011に日本被団協の代表委員へ就任し、オバマ米大統領（当時）の広島訪問にも立ち会った。今年6月からは顧問となり、「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」代表理事も兼ねる。

　岩佐さんは自身の人生を、「原爆によって背負わされた、被爆者という運命との闘い」と表す。白内障や前立腺がんを抱えながらも前線に立ち続ける根底には、「母や妹のような死を誰にも味わわせたくない」という思いがある。

　核兵器廃絶が実現して初めて、原爆で亡くなった人たちが安らかに眠れると信じている。「被爆者やその生きざまを理解し、平和の願いを語れる継承者を育てる」という焦りにも似た思いを抱える中での、ICANの受賞決定。運動は間違いなく受け継がれてきたと実感した。「継承は心と心の伝言。核が引き起こした負の遺産を、教訓として未来に生かさねば」。　

７2年の思い「受け継がれた」＝ICANノーベル賞に実感―日本被団協岩佐さん

時事通信 12/9(土) 14:28