一乗寺(いちじょうじ)は、兵庫県加西市にある天台宗の寺院である。山号は法華山。本尊は聖観音菩薩。西国三十三所第26番札所。国宝の三重塔は平安時代後期を代表する和様建築の塔であり、日本では屈指の古塔である。境内は、春は桜、秋は紅葉の名所として知られる。中世には山内に真言律宗の有力律院も併設されており、宗祖の興正菩薩が播磨国での布教活動の拠点とした他、真言律宗出身の真言僧で後醍醐天皇の腹心だった文観房弘真が仏門に入った地でもある。
本尊真言:おん あろりきゃ そわか
ご詠歌:春は花夏は橘秋は菊 いつも妙(たえ)なる法(のり)の華山(はなやま)
歴史
一乗寺を開山したとされる法道仙人は、天竺(インド)から紫の雲に乗って飛来したとされる伝説的人物である。『元亨釈書』等の記述によれば、法道はインドに住んでいたが、紫の雲に乗って中国、百済を経て日本へ飛来し、播州賀茂郡(兵庫県加西市)に八葉蓮華(8枚の花弁を持つハスの花)の形をした霊山を見出したので、そこへ降り立ち、法華経の霊山という意味で「法華山」と号したという。法道は神通力で鉢を飛ばし、米などの供物を得ていたため、「空鉢仙人」と呼ばれていた。法道の評判は都へも広まり、白雉元年(650年)、時の帝であった孝徳天皇の勅命により法道に建てさせたのが一乗寺であるという。
法道仙人が開基したとの伝承を有する寺院は兵庫県東部地域に集中しており、「インドから紫雲に乗って飛来」云々の真偽は別としても、こうした伝承の元になり、地域の信仰の中心となった人物が実在した可能性は否定できない。一乗寺には7世紀から8世紀にさかのぼる金銅仏6躯が存在し(うち3躯は重要文化財)、付近には奈良時代にさかのぼる廃寺跡、石仏などが存在することからも、この地域一帯が早くから仏教文化の栄えた地であることは確かである。
国宝に指定されている三重塔
境内
山間に位置する境内は長い石段が続き、数段に分けて整地されている。バス通りに面した境内入口には山門はなく、正面に石造笠塔婆(兵庫県指定文化財)が立つ。その左方には宝物館(平素は非公開)と本坊の地蔵院がある。右方は公園風に整備され、太子堂、放生池、やや奥まった場所に見子大明神の社がある。
境内入口から最初の石段を上った狭い平地の左手に常行堂があり、次の石段を上ると左手に国宝の三重塔、右手に法輪堂(経蔵)がある。三重塔の直上、さらに階段を上った位置に懸崖造の本堂が建つ。このため、本堂の縁に立つと三重塔を見下ろすことができる。本堂裏手には鎮守社の護法堂、妙見堂、弁天堂(以上重要文化財)、行者堂があり、本堂からさらに200メートルほど登った所に、法道仙人を祀る奥の院開山堂が建つ。
弁天堂(左)と妙見堂(ともに重要文化財)
護法堂(重要文化財)
文化財
国宝
三重塔
絹本著色聖徳太子及び天台高僧像 10幅 - 平安時代、11世紀後半頃の作。各図とも縦125.6〜131.6 cm、横74.7〜75.8 cm。龍樹、善無畏(以上インド)、慧文、慧思(南嶽大師)、智(天台大師)、灌頂、湛然(以上中国)、最澄、円仁(以上日本)の高僧像に聖徳太子像を加えて10幅としたもの。聖徳太子は天台宗で重視する法華経の信奉者であったことに加え、慧思(南嶽大師)の生まれ変わりとする伝承があることから加えられたものとみられる。ただし、元々10幅構成だったのか、更に多数幅だったのが失われて現状のように成ったのかは判然としない。各像とも人物が画面一杯に大きく表され、着衣などに暖色系を中心とした彩色が鮮やかで、立像・坐像、正面向き・斜め向き、横向きなど、変化に富む点が特色である。着衣の文様は彩色のみで表され、持物などに金銀を裏箔で使い截金を一切用いないのは古様である。部分的に補絹・補筆・補彩がされているものの、平安時代に作られたことを考えれば普通で、むしろよく当初の状態を保っており、しかも10幅がまとまって残っているのは極めて貴重である。慧文像と灌頂像の画中短冊形にそれぞれ「法華寺 第三」「法華寺 第六」と記されていることから、平安時代後期には法華寺すなわち現在の一乗寺に制作当初から伝来した可能性が高い。善無畏像と慧文像は東京国立博物館、灌頂像は大阪市立美術館、他の7幅は奈良国立博物館に、それぞれ寄託されている。
最澄像(聖徳太子及び天台高僧像10幅のうち)平安時代(11世紀)
重要文化財
金堂(大悲閣、本堂)
護法堂
妙見堂
弁天堂
石造五輪塔
絹本著色阿弥陀如来像
絹本著色五明王像
銅造観音菩薩立像 2躯 - 秘仏本尊像とその前立ち像。
銅造観音菩薩立像 1躯 - 像高48.0 cm。7世紀にさかのぼる古像。頭部を大きく、手足を小さく造るプロポーションに特色がある。
木造法道仙人立像
木造僧形坐像
一乗寺本堂「大悲閣」
所在と交通
〒675-2222 兵庫県加西市坂本町821-17
姫路駅(JR西日本)または山陽姫路駅(山陽電車)から神姫バス「71 法華山一乗寺・別府経由 社」行きで37分、法華山一乗寺下車。
姫路駅から「71 別府経由 社」行きで30分、法華山口下車徒歩30分。
法華口駅(北条鉄道)から神姫バス「71 法華山一乗寺経由「姫路駅」行きで11分、法華山一乗寺下車。
JR神戸線(山陽本線)宝殿駅から「北条」行きで三口下車徒歩40分。
大阪駅桜橋口から中国ハイウェイバス(西日本ジェイアールバス・神姫バス)「北条バスセンター」行きで70分、アスティアかさい(北条町駅)下車。
アスティアかさい(北条町駅)から神姫バス「高砂」行きで20分、三口下車徒歩40分。
アスティアかさい(北条町駅)からタクシーで約20分。
2022年12月06日
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