b.さて、乙女が池をぐるっと一巡(ヒトメグ)りしたし、そろそろ自転車に乗って移動しましょうか、
a.池のほとりで30分もゆっくりしてたんか、楽しい時間はあっちゅうま(あっというま)やな、
b.どう進みましょう、
a.サイクリングロードがJR湖西(コセイ)線の高架にそって伸びてたような、ちょっと味気ない道やけど、迷わんからこんでええ(=これでいい)、
b.右手の畑の中にぽつんと、そこだけえらくスタイリッシュな建造物が、
a.右は図書館、左は全国的にも響きが良い音楽ホール、
b.文化的ですねえ、周囲が広々した田園やし、なおさらステキに見えるなあ、
a.この図書館と音楽ホールで育った子供たちが、日本を代表する芸術家になってもまったく不思議やないな、
b.バブル景気の産物とはいえ、そんな勢いを感じます、
a.でもって、我々のほうはJRと分かれて左折、県道295号線に乗って山へ向かおう、
b.「武曽横山」ってひなびた集落、なんて読むんかなあ、
a.「むそよこやま」っていうらしい、
b.これが最後の集落、こっから先は孤独な山道に入ります、
a.土砂崩れでなきゃええけど、
b.この畑清商店さんがたぶん最後のお店、そう思うと、この色あせた門灯までとてもありがたいような、
a.雪の深い夜、凍えながら峠を越えて、やっとの思いでこの門灯にたどりついたら、きっと泣いてまうな、緊張がほどけて、
「雪の夜 ふもとで光る 畑清(ハタキヨシ)」、
b.そんな寒い夜は、サービスでおでんもやってて欲しいな、
a.そんじゃあ、武曽(ムソ)横山の村をあとにすっか、
b.真っ昼間なのになにやら心細いっす、
a.初めての道はいつも緊張すんなあ、
b.あの山を越えるんすか、
a.たぶん、もっと右手に低い峠があって、峠のトンネルを抜ければスキー場のはず、
b.これで県道なんすか、人っ子ひとり通りませんけど、
a.こういうところ好きなほうやけど、さすがにちょっと寂しいなあ、京都近辺やとこんな場所でも人気(ヒトケ)を感じるけど、それがまったくない、
b.やっぱり雪が深いせいなんすか、
a.さあ、どうなんやろ、でも、ガードレールのこんなサビは雪深くないとありえへんしなあ、
b.冬のあいだじゅう、この上に雪が積もったままなんか、
a.たぶん、
b.その雪が人や動物の気配まで吸い取ってしまうんですか、
a.さあ、それ以上のことは蟲師(ムシシ)のギンコさんに聞いてみんと分からへんなあ、
b.いよいよ山ん中に入ります、
a.意外に杉が多いな、京都の山ん中みたいや、
b.がけ崩れもぎりぎりセーフ、路肩の斜面にブルーシートをかけてるだけで、道は通れますねえ、
a.よかった、ここまで来たら気分的に引き返せんし、
b.誰かが遠くで山仕事してます、草刈りか、いやチェーンソーの音やなあ、
a.しかし、ニッポンクネクネ大賞やな、この県道、
b.でも、クネクネするうちに稜線(リョウセン=山の背骨のライン)が近づいて、ずいぶん明るくなってきました、
a.そろそろ峠か、
b.ふもとからどれくらい登ったんすか、
a.武曽(ムソ)横山の村が標高120m、峠のトンネル前で450mやし、330m登ったんか、けっこうあるなあ、ちなみに峠を下った朽木(クツキ)の集落も標高120m、
b.しかし、せっかく苦労して登ったのに、このモヤモヤはないっすね、
a.「モヤモヤさまあ〜ず2(ツー)」を越えて、すでに3(スリー)やな、ああ、スッキリすみずみまで琵琶湖を見渡したかったなあ、
b.まあ天気には勝てないから、「雨じゃないだけ良いか」っていうお決まりのセリフで無理やり納得しましょう、
「雨やない そんだけましや とりあえず」、