2014年05月22日
奥深い丹波の森へ(5)「終着の園部駅へ」
b.さて、篭坊(カゴボウ)温泉も素通りしたし、そろそろ帰りましょうか、
a.目的地の温泉を素通りとは、われわれもスカしちょる、
b.まあ、温泉については大勢の人たちが感想を語っているやろうし・・・
a.うむ、それもそうやな、ほなボチボチ帰路につきまひょか、
b.しかし、あの田んぼにこの村のヌシみたいな、人格を感じさせる樹木が、
a.豊かな自然のせいか、あばら屋のさびたトタン屋根までステキやな、
b.コレも丹波マジックでせうか、
a.ところで、疲労もじわじわと溜まってきたおり、チミ(=君)には申し訳ないんやが、ひとつワガママを聞いてもらえんか、
b.なんすか、
a.われわれは、こっからUターンしてJR園部駅を目指すんやけど、まずは右手の山を越えねばならん、
b.県道12号線ならトンネルもあって便利ですけど、
a.それがいかん、便利なんはええ事やけど、そのおかげで交通量も多い、そこで、すこし遠回りになるが、ヒト気の途絶えた細道で峠を越えたいんや、
b.ああ、またすか、もう慣れっこになってしまいました、
a.県道37号線の途中から右手の細い谷へ入り、さらにクルマも走れんような細い道を登って峠を越えるんや、
b.高低差どれくらいあるんすか、
a.標高345mから登りはじめて、峠のてっぺんが461m、下った先が272mや、なんぼ登ってなんぼ下るんや、
b.ええと、116m登って、189m下ります、こっちから行く方が下りが多くてずいぶんお得ですねえ、
a.細道とはいってもぜんぶ舗装してあるから、それなりに走りやすい、それに何より、
b.何より?
a.雰囲気がすばらしい、歩いて峠を越えていた時代の雰囲気が今でも感じられる、
b.じゃあ行きますか、ぱったりヒト気の無くなった細道のさらにわき道に分け入って峠越えか、ちょっと怖いな、
a.このあたりはヒトよりも草木(クサキ)が主役やから失礼の無いように、
b.たしかに、えらい伸び伸び生き生き育ってますね、名もない雑草まで、
a.道ばたのガードレールまで草木に食べられてしまいそうや、
「草木(ソウモク)も ガードレールを 食べはじめ」、
b.それから33分が過ぎました、
a.峠はとうに越えて、最短距離というだけで国道にしぶしぶ付き合い、たどり着いたのは安田の大杉、
b.ここだけ見てると、すぐ横を通る国道の喧噪(ケンソウ=騒々しさ)がウソのような、
a.推定樹齢700〜800年か、長生きしちょるのう、
b.すぐ横にコンビニもできたし、そんでやないすか、栄養がしっかり取れるし、
a.買いに来るんか、この大杉がコンビニへ、そんなわけ無いやろ、
b.いや、そうとも限りません、大杉の弟子に小人みたいな妖精がいたら、ヒトに化けてさり気なくからあげクンやポテチやカレーパン買って、大杉に食べさせてるかも、
a.それは今オマエが食べたいもん、言うてるだけやろ、
b.いや、それならペプシネックスも頼みますよ、
a.大杉はペプシ飲まへんのか、
b.炭酸やカフェインは刺激が強すぎるとか言ってもっぱら雨水がいいそうです、根っこへ届くまでに地中で濾過されてまろやかになりますし、その辺は700歳といってもやっぱり樹木なんですね、
a.なるほど、妙に説得力あるなあ、じゃあ我々も大杉君といっしょにコンビニのあれこれ飲み食いして、もうええかげん草臥(クタビ)れてるし、次の天引(アマビキ)峠は素直に楽チントンネルを抜けて、終着の園部(ソノベ)駅へひたすら急ごう、
b.そうすね、峠の先に続く府道54号線も広くて滑らかなわりに、意外なほどクルマが少ないし、あとは楽勝です、
a.とはいえ、峠を抜けてからここを眺めずには居られん、一本で森のような八幡宮の御神木(ゴシンボク)をしばし振り返らせてくれたまえ、
「一本で 森林みたいや 御神木」、
b.手前の趣ある茅葺き(カヤブキ)小屋も気になりますね、ここにも神様が住んでんのかなあ、
a.ああそうかも、すこし離れたほうが、大樹の枝振りとか全体像も愛(メ)でられるし、
b.そして、それから30分、府道54号線など広くなめらかでクルマも少ない道をすいすい進み、園部(ソノベ)の町へやって参りました、
a.防災用のヘリポートも完備された公園の向こうは中学校か、
b.ええと、そうですね、南丹市立園部(ソノベ)中学校、
a.たしか、任天堂の立役者・宮本茂氏と自民党の影の総理・野中広務氏が共にこの町の出身やったなあ、
b.そのせいか、クルマもめったに来ない道まで恐ろしく幅広くなめらかです、
a.二人の偉人になんか共通点あんのかなあ、
b.さあ、活躍の場もぜんぜん違うし、どうなんすかねえ、
a.しかし、現代日本を代表するような二人やから、きっと共通点があるはずやろ、
b.じゃあ雨水が地中深くまでしみ込んで、まろやかになった地下水を飲んでるとか、
a.それは安田の大杉君やろ、それに、もしそうなら、今ごろ園部の全員が偉人になってるはずや、
b.まあ、その話はともかく、あとちょっとでJR園部駅なんで、そろそろ、
a.ホンマや、すっかり油断して話し込んでた、
b.駅に着いたら自転車を袋につめて、嵯峨嵐山駅までの30分間、人まかせの運転でウトウトしましょう、
a.うむ、園部(ソノベ)の駅なら確実に座れるし、漕(コ)がないでも景色は流れるし、こんなありがたいことはない、